第96話
第96話
翌日。
アーカディア学園の奥、普段は学生が立ち入ることのない特別訓練場に、静かな空気が広がっていた。
円形の石造りの闘技場。周囲には高い壁があり、内部は広い空間になっている。地面には魔法陣が刻まれており、強力な魔法や衝撃にも耐えられるよう作られているのが分かる。
その中央に、二人の少年が向かい合っていた。
ルシアン。
そして、レグナス帝国第三皇子――グランヴェル。
少し離れた場所には三人の姿がある。
腕を組んで立つヴァルク。
もう一人の女性護衛。
そして――守護者エイル。
風を思わせる銀の髪が静かに揺れている。
エイルは二人を見渡し、落ち着いた声で言った。
「これより模擬戦を行います」
視線は真っ直ぐ二人へ向けられている。
「勝敗は私が判断します。致命傷を与えるような攻撃は禁止。命の危険を感じた場合、私が止めます」
そして、少しだけ微笑んだ。
「……とはいえ、この訓練場はかなり頑丈に作られています。多少派手にやっても問題ありません」
グランヴェルの口元が歪む。
「それはありがたい」
腰の剣をゆっくり抜いた。
陽光を受けて、刃が赤く光る。
その姿は、どこか楽しそうだった。
「やっとだ」
ルシアンを見る。
「試験の時は少々物足りなかった」
赤い瞳が鋭く細められる。
「今日は遠慮はしない」
ルシアンも静かに剣を抜いた。
銀の刃が光る。
「こちらも同じです」
短く答える。
グランヴェルは笑った。
「いい」
剣を肩に担ぐ。
「そうでなくてはつまらん」
エイルが軽く手を上げた。
空気が静まる。
風が一瞬だけ止まったように感じられた。
「では――」
そして静かに告げる。
「始め」
次の瞬間。
地面が弾けた。
グランヴェルが踏み込んでいた。
速い。
爆発的な踏み込み。距離を一瞬で詰める。普通の剣士なら反応する前に間合いに入られている速度だった。
炎が走る。
剣の刃に赤い魔力が宿る。
横薙ぎ。
轟、と空気が震えた。
ルシアンは半歩だけ身体を引く。刃が目の前をかすめる。そのまま剣を滑らせ、軌道を逸らした。
金属音。
火花が散る。
だがグランヴェルは止まらない。
二撃目。
三撃目。
斬撃が嵐のように続く。
炎を纏った剣が空気を焼きながら振るわれる。
観戦しているヴァルクが小さく息を吐いた。
「……最初から本気だな」
女性護衛も頷く。
「皇子はああいう相手を待っていたのでしょう」
その間にも戦闘は激しくなっていた。
グランヴェルの剣は重い。
だが速い。
力任せではない。踏み込み、重心移動、剣筋。すべてが綺麗に繋がっている。
ルシアンはそれを受け流す。
刃を滑らせ、衝撃を逃がし、必要最低限の動きで攻撃を避けていく。
数合。
十合。
激しい金属音が闘技場に響く。
グランヴェルの口元が歪んだ。
「いい」
楽しそうに言う。
「やはりお前だ」
そして魔力が膨れ上がった。
炎が強くなる。
剣を包む赤い魔力が一段と濃くなる。
ルシアンの瞳がわずかに細まった。
(……ここからか)
次の瞬間。
グランヴェルが再び踏み込んだ。
炎を纏った剣が、これまでよりもさらに速く振るわれる。
戦いは、ここからさらに激しくなろうとしていた。




