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果てなき世界  作者: 影川明空人
第3章
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第90話

第90話 


 第四会場の実技試験がすべて終わる頃には、空はすでに夕方に差しかかっていた。

 長く続いた試験の疲れからか、受験者たちの間にはどこか安堵した空気が流れている。


 試験官の教師が前へ出た。


「これにて、本日の試験はすべて終了とする」


 訓練場が静まり返る。


「結果は後日、学園より正式に発表される」


 短く間を置く。


「以上。各自解散」


 それだけだった。


 受験者たちの間から一斉に息が漏れる。

 緊張が解け、あちこちで声が上がり始めた。


「終わった……」


「疲れたな」


「結果いつ出るんだろうな」


 それぞれが武器を収め、訓練場を後にしていく。


 ルシアンも静かに剣を鞘へ収め、出口へ向かって歩き出した。肩の傷はまだ少し痛むが、動く分には問題ない。


(……まあ、こんなものか)


 試験自体は予定通り終わった。

 筆記は手を抜いた。魔法も抑えた。実技は二勝一敗。


 問題はない。


 そんなことを考えながら歩いていると――


「おい」


 背後から声が飛んだ。


 低く、よく通る声。


 ルシアンは足を止める。


 振り返ると、そこに立っていたのは――


 グランヴェルだった。


 レグナス帝国第三皇子。

 試験の時と同じく、どこか尊大な態度でこちらを見ている。


 その後ろには二人の人影がいた。


 一人は背の高い青年。長身で体格も良く、腰には剣を下げている。

 もう一人は女性。やや小柄だが、目つきは鋭く、動きに隙がない。


 どちらもただ者ではない雰囲気だった。


 ルシアンはすぐに理解する。


(……護衛か)


 おそらく同年代だろう。だが立ち方が完全に戦士のそれだった。

 実力は間違いなく高い。


 グランヴェルが顎を少し上げる。


「貴様だ」


 ルシアンを指す。


 周囲の受験者たちがざわめいた。


「皇子だ……」


「誰に声かけてるんだ?」


 ルシアンは数歩近づき、軽く会釈した。


「何か用ですか」


 グランヴェルは腕を組む。


「まずは名乗っておこう」


 当然のように言う。


「我はグランヴェル・レグナス」


 少し顎を上げる。


「レグナス帝国第三皇子だ」


 周囲の受験者たちが小さく息を呑んだ。


 だがルシアンの表情は変わらない。


「ルシアン・ヴェルグレイヴです」


 落ち着いた声で答える。


 グランヴェルがじっと見つめる。


「……ふん」


 小さく笑う。


「やはり貴様か」


 少し間を置く。


「貴様」


 目を細める。


「先ほどの試合――」


 ゆっくり言った。


「手を抜いていただろう」


 周囲の空気が一瞬止まる。


 護衛の二人も静かにルシアンを見ていた。


 ルシアンは肩をすくめる。


「どうでしょう」


「試験ですから」


 はっきりとは答えない。


 グランヴェルはしばらくルシアンを見ていた。


 そして――笑った。


「やはりそうか」


 どこか楽しそうだった。


「貴様、面白いな」


 腕を組んだまま言う。


「普通の受験生ならあの一撃で終わっている」


 頬の傷を指でなぞる。


「それに」


 小さく笑う。


「この傷だ」


 ルシアンは黙っている。


 グランヴェルはさらに目を細めた。


「ますます興味が湧いた」


 そして突然言った。


「暇か?」


 唐突だった。


 ルシアンは少し首を傾げる。


「……といいますと?」


 グランヴェルは当然のように言う。


「飯だ」


 短い。


「付き合え」


 後ろの護衛の青年が小さくため息をついた。


「皇子……」


 女性の護衛も苦笑している。


 だがグランヴェルは気にしていない。


「ちょうどいい店がある」


 顎で街の方を指す。


「ついて来い」


 完全に命令口調だった。


 ルシアンは少しだけ考えた。


(……まあ、悪くない)


 レグナス帝国の第三皇子。

 その実力と性格は、見ておく価値がある。


「分かりました」


 短く答える。


 グランヴェルは満足そうに笑った。


「よし」


 踵を返す。


「行くぞ」


 こうして――


 ルシアンは、グランヴェルと共にアーカディアの街へ向かうことになった。


 目的地は、街でも有名な高級レストランだった。


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