第88話
第88話
第四会場の訓練場。
実技試験は終盤へと差しかかっていた。受験者たちは周囲で試合を見守りながら、自分の順番を待っている。教師たちは静かに記録を取り続け、場の空気はどこか張り詰めていた。
その中で、教師の声が響く。
「次の試合」
一拍置いて名簿を確認する。
「受験番号一〇一七」
ルシアンは静かに前へ出た。
そして続けて呼ばれる。
「受験番号一〇四二」
その番号が告げられた瞬間、周囲の空気がわずかに変わる。
何人かの受験者が顔を見合わせた。昼の魔法試験を見ていた者たちは覚えている。あの異様な火力の魔法を放った少年だ。
ルシアンはゆっくりと試合場へ歩いた。
反対側からも一人の少年が歩いてくる。
レグナス帝国第三皇子。
グランヴェル・レグナス。
堂々とした歩き方だった。焦りも緊張もない。ただ当然のように試合場へ上がる。
中央で向かい合う。
グランヴェルはルシアンをじっと見た。数秒だけ観察するような視線。
そして口元がわずかに歪む。
「……ほう」
退屈そうな声だった。
「少しは楽しませてくれそうだ」
周囲の受験者たちがざわめく。
「おい、皇子だぞ」
「さっきの魔法見ただろ」
「相手のやつ大丈夫か……」
教師が二人の間に立つ。
「始め」
次の瞬間――
グランヴェルが踏み込んだ。
速い。
剣が閃く。
ルシアンは半歩下がり、剣で受け流した。鋭い金属音が響く。
そのまま二撃、三撃。
グランヴェルの剣は重く速い。だが力任せではない。体の使い方が洗練されている。
(……やはり強い)
ルシアンは内心で判断する。
グランヴェルは笑っていた。
「どうした」
剣を振るいながら言う。
「この程度か?」
次の一撃が振り下ろされる。
ルシアンは受け流しながら距離を取る。
グランヴェルがわずかに目を細めた。
「……なるほど」
退屈そうな声が少し変わる。
再び踏み込む。
今度は速度が上がった。
剣の軌道が鋭くなる。連撃が重なる。受け流すだけでも難しい速度だった。
ルシアンは後退しながら防ぐ。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
観戦していた受験者たちがざわめいた。
「速い……!」
「さっきより全然違うぞ」
「皇子、本気じゃないのか……?」
グランヴェルは笑った。
「ほう」
さらに踏み込む。
剣の速度がまた一段上がる。
ルシアンは防ぎながら距離を取る。
その時、空気が変わった。
グランヴェルの剣に炎が宿る。
赤い魔力が刃を包む。
観客が息を呑んだ。
「おい……」
「試験だぞ……?」
だが教師たちは止めない。
グランヴェルは楽しそうだった。
「まだだ」
低く言う。
「まだ終わるな」
炎を纏った剣が振り下ろされる。
ルシアンは受け止めた。
衝撃が腕へ伝わる。
地面がわずかに砕けた。
周囲の受験者たちが息を呑む。
それでもルシアンは崩れない。
剣を滑らせ、後退する。
グランヴェルの目が鋭くなった。
「……面白い」
口元が歪む。
「では」
炎がさらに膨れ上がる。
空気が熱を帯びる。
グランヴェルが剣を構え直した。
「もう少し付き合え」
その声には、はっきりとした興味が混じっていた。
そして次の瞬間――
炎の魔力が、さらに高まった。
第四会場の訓練場の空気が、緊張で張り詰めていく。
ルシアンは静かに剣を構えた。
戦いは――
まだ終わらない。




