第84話
第84話
第四会場に割り当てられた受験者たちは、教師の指示に従って校舎へ移動していた。
石造りの廊下を進み、案内されたのは広い講義室だった。長い机が整然と並び、すでに何人かの受験者が席についている。窓の外には学園の訓練場が見え、遠くでは別の会場の試験が進んでいるらしく、時折金属のぶつかる音が聞こえていた。
ルシアンも指定された席に座る。
ほどなくして教師が問題用紙を配り始めた。
「これより筆記試験を行う」
教室の前に立った教師が言う。
「試験時間は九十分」
「問題は魔法理論、戦術基礎、魔物学、歴史などだ」
机に問題用紙が置かれる。
「裏返したまま待て」
受験者たちが静かに待つ。
やがて教師が言った。
「始め」
紙をめくる音が一斉に広がった。
ルシアンも問題用紙に目を落とす。
(……やはりこの程度か)
想定していた内容だった。
魔力循環の基礎理論。代表的な魔物の弱点。小規模戦闘における陣形判断。歴史問題も多くは近代のものだ。
難しい問題ではない。
むしろ――
(全部解ける)
だが、全部解く必要はない。
ここで目立つ理由はない。
ルシアンはペンを走らせながら、意図的にいくつかの問題を飛ばした。確実に分かるものでも、少し考えるふりをする。計算問題も一つだけ途中で止める。
満点は取らない。
だが低すぎもしない。
上位には入るが、目立つほどではない位置。
それくらいがちょうどいい。
周囲では受験者たちが真剣な表情で問題に向かっていた。額に汗を浮かべている者もいる。ペンの走る音だけが教室に響く。
九十分は長い。
だが問題量を考えれば妥当な時間だった。
時間はゆっくりと過ぎていく。
そして――
「終了」
教師の声が響いた。
「筆記試験はここまでだ」
問題用紙が回収されていく。
受験者たちは一斉に息を吐いた。張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
ルシアンは静かに席を立った。
教師が続けて言う。
「次の試験は午後から行う」
「それまで昼休憩だ」
受験者たちはぞろぞろと教室を出ていく。
校舎の外へ出ると、学園の中庭にはすでに多くの受験者が集まっていた。持参した食料を食べている者、試験の出来を話している者、静かに休んでいる者。
ルシアンは木陰のベンチに腰を下ろした。
持ってきていた簡単な食事を取り出す。パンと干し肉。水を一口飲み、ゆっくりと食べる。
周囲では受験生たちの会話が聞こえていた。
「筆記、思ったより簡単だったな」
「いや最後の戦術問題難しくなかったか?」
「俺そこ空欄だわ……」
そんな声を聞きながら、ルシアンは静かに空を見上げた。
(……午後か)
次は魔法試験。
そして――
実技試験。
試験の本番は、むしろこれからだった。




