第82話
第82話
アーカディアに来てから数日が経った。
入学試験まではまだ時間がある。街の様子も一通り見て回ったルシアンは、この日は街の外れにある広場へ来ていた。石畳が敷かれた簡易の鍛錬場で、冒険者や受験生らしい若者たちがそれぞれ剣や魔法の練習をしている。
学園の試験が近いからだろう。同年代の姿も多かった。
ルシアンは少し離れた場所で剣を振っていた。踏み込み、振るい、止める。魔力は使わない。ただ体の動きだけを確かめるように繰り返す。速さも力も抑えているが、それでも動きには無駄がない。
数十合ほど振ったところで、不意に声が飛んだ。
「おお! 今の動き、すげぇな!」
振り返ると、ひとりの少年が立っていた。背は同年代より頭一つほど高く、体つきもかなりしっかりしている。肩幅も広く、いかにも前線に立つ戦士のような雰囲気だ。背中には大きな盾が背負われていた。
「思わず見入っちまった!」
少年は気さくに笑う。
「剣、かなりやるだろ?」
「それなりに」
ルシアンは短く答える。
少年は気にした様子もなく頷いた。
「俺の名前はガイウス!」
拳を胸に軽く当てて名乗る。
「ガイウスですか」
「おう!」
元気よく頷く。
「アンタも学園の試験、受けるんだろ?」
「ええ」
「やっぱりな!」
ガイウスは嬉しそうに笑った。
「この時期、ここで鍛えてるやつはだいたい受験生だよな」
そう言ってルシアンの剣をちらりと見る。
「ちょっと手合わせしてみないか?」
完全に戦いたい顔だった。
ルシアンは小さく息を吐く。
「軽くなら」
「よし!」
ガイウスは嬉しそうに盾を構える。訓練用の剣を拾い、地面を軽く踏みしめた。
「行くぞ!」
踏み込んだ。
思ったより速い。盾を前に出しながら一気に距離を詰める。力任せの突進ではなく、体の重心がしっかりしている。
ルシアンは半歩下がり、剣で受け流す。
ガイウスは止まらない。盾で押し込みながら剣を振る。連続して打ち込んでくる。
(……基礎はしっかりしている)
荒さはあるが、戦い慣れている動きだった。
数合ほど打ち合ったところで、ルシアンは剣を止めた。
「この辺で」
「え?」
ガイウスが動きを止める。
「もう少し続ければ終わりそうでした」
ルシアンが静かに言うと、ガイウスは一瞬きょとんとした。
そしてすぐに大笑いした。
「ははは! マジか!」
「強いなアンタ!」
素直に言う。
「ルシアンです」
「ルシアンか!」
ガイウスは嬉しそうに頷く。
「試験で当たったら面白そうだな!」
ルシアンは軽く首を振った。
「それは難しいかもしれません」
「ん?」
「武の試験は複数の会場で同時に行われるそうです」
アーカディア学園の試験は受験者が多い。そのため、まず試験日は文と武で分けられている。さらに武の試験も一か所ではなく、いくつかの会場で同時に進められるらしい。
「へぇー」
ガイウスが腕を組む。
「じゃあ、同じ会場になるかどうかも運ってわけか」
「そうですね。受験者の数を考えると、同じ会場になる確率は高くないと思います」
「なるほどな」
ガイウスは納得したように笑った。
「まあでも!」
盾を肩に担ぎながら言う。
「どこで試験受けてもやることは同じだ!」
「勝てばいい!」
真っ直ぐな言葉だった。
ルシアンは小さく頷く。
「そうですね」
ガイウスは満足そうに笑った。
「よし! 俺もう少し鍛えてくる!」
そう言って再び盾を構える。振り返って言った。
「ルシアン! 試験でまた会おうぜ!」
「ええ」
ルシアンは短く答えた。
ガイウスは元気よく鍛錬を再開する。盾を使った突進の練習を始めていた。
その様子を少しだけ見てから、ルシアンは再び剣を構える。
試験まで、あと少しだった。




