第79話
第79話
レグナス帝国の領土に入ってから、数日が経っていた。
帝国の街道は広く整備されている。軍事国家らしく道幅も広く、ところどころに小さな詰所が設けられていた。兵士の姿も王国側より多い。
街の造りも少し違う。
石造りの建物は厚く、城壁も高い。門の前には常に兵士が立ち、商隊や旅人の出入りを確認している。
ルシアンはそうした街をいくつか通り抜けながら、西へ進んでいた。
帝国の街に入るたび、簡単な検問がある。
「どこから来た」
「アルケシア王国の王都です」
「目的地は」
「アーカディアです」
証明書を見せる。
伯爵家の紋章が刻まれた証書を確認すると、兵士の態度は少しだけ丁寧になる。
「確認した。通っていい」
「ありがとうございます」
やり取りはそれだけだ。
帝国の兵士は無駄な会話を好まないらしい。
街を通り抜けるたび、ルシアンは市場や街の様子を少しだけ見て回った。王国とは雰囲気が違う。商人の声も、街の活気も、どこか荒々しい。
だが活力はある。
軍事国家という印象は間違っていない。
ある街の市場を通った時、旅人たちの会話が聞こえた。
「もうすぐ学園の試験だろ」
「アーカディア学園か」
「今年はすごいらしいぞ」
「レグナスの第三皇子が受けるって噂だ」
ルシアンはそのまま歩きながら聞いていた。
グランヴェル・レグナス。
レグナス帝国第三皇子。
レイヴンが集めた情報でも、すでに名前は出ている。
火属性のみだが、その火力は異常。
入学試験では首席になるであろう人物。
噂になるのも無理はない。
ルシアンは街を出ると、再び街道を進んだ。
帝国の領土は広い。
だが、終わりは近い。
丘を越えたところで、ルシアンはふと足を止めた。
遠くの地平線。
巨大な城壁が、かすかに見えている。
(……あれか)
中立都市アーカディア。
どの国にも属さない都市国家。大陸の中央に位置し、各国の人間が集まる場所。
そして、その中心にある場所。
アーカディア学園。
勇者、聖女、王族、貴族。
未来の英雄たちが集まる学園だ。
ルシアンは静かに息を吐いた。
帝国の領土を抜ければ、もうすぐそこだ。
ルシアンは再び歩き出した。
次の舞台は、すぐそこまで近づいていた。




