第76話
第76話
あれから、いろいろなことがあった。
王都での日常は大きくは変わらない。朝は鍛錬、昼は学び、夜は魔力の制御。そんな生活が淡々と続いている。
だが、水面下では状況は確実に動いていた。
ルシアンは今、四つに分かれている。
一つは王都にいるルシアン自身。これまで通りの生活を送りながら、周囲との関係を保ち、日常の中に身を置いている。
二つ目は冒険者ルクス。各地のギルドを回り、依頼をこなしながら実力と情報を積み重ねている。表の世界で活動しながら、冒険者たちの間に流れる噂や情勢を集める役目だ。
三つ目はレイヴン。世界各地を渡り歩き、裏社会の情報を集める存在。国同士の動き、魔族の活動、貴族たちの思惑。表には出ない情報を追い、静かに動いている。
そして四つ目――カイル。
邪神教の内部に潜り込んだ分体だった。新入り信者として振る舞いながら、組織の内側を探っている。まだ立場は低いが、その戦闘力はすでに信者たちの間で噂になり始めていた。
四人はそれぞれ別の場所で動いている。
だが、完全に孤立しているわけではない。
時折、意識を繋げる。
情報を整理し、互いの状況を共有する。
それだけで十分だった。
四つの人格はそれぞれ自立している。だからこそ負担は大きくない。むしろ効率は良い。
世界の情報は、以前とは比べものにならない速度で集まっていた。
その中でも、最近よく耳にする話題がある。
中立都市アーカディア。
大陸の中央に存在する巨大都市。どの国にも属さない都市国家であり、政治的にも軍事的にも特別な場所だ。
そして――そこにある学園。
アーカディア学園。
大陸中から優秀な若者が集まる場所だ。魔法、剣術、戦術、政治、歴史。あらゆる分野の教育が行われ、未来の英雄や指導者が生まれる場所でもある。
ルシアンは剣を振りながら、小さく息を吐いた。
王都の外れ。
いつもの鍛錬場だ。
剣を振る。踏み込み、斬る。魔力を流す。風を感じ、身体の動きを確かめる。無駄な動きを削り、魔力の流れを整える。
その途中で、ふと動きを止めた。
「……もうすぐか」
小さく呟く。
誕生日が近い。
ルシアンはもうすぐ十四歳になる。
そして、十四歳は一つの区切りの年だ。
学園へ進む年齢。
もちろん王都にも学校はある。だがルシアンの目標はそこではない。
アーカディア学園。
そこへ行く。
すでに情報は集まっていた。
レイヴンが集めた情報。
ルクスが冒険者ギルドで聞いた噂。
そして王都の中でも流れている話。
勇者レオン。
聖女フィアナ。
二人も同い年だ。
そして二人とも、アーカディア学園を目指している。
偶然ではないだろう。
勇者と聖女。
未来の中心になる存在だ。
ルシアンは剣を鞘に収めた。
「……ちょうどいい」
静かに呟く。
彼らがいる場所。
世界の中心に近い場所。
そこに行けば、情報も、人も、集まる。
そして――邪神へ繋がる道も、きっと見えてくる。
ルシアンは空を見上げた。
青い空が広がっている。
次の目的地は決まっていた。
中立都市アーカディア。
そして――
アーカディア学園。
ルシアンの次の舞台は、そこだった。




