第71話
第71話
鍛冶場にはすでに多くのドワーフが集まっていた。誰かが呼んだわけではない。だが、あの最後の一撃の音を聞けば分かる。鍛冶の終わりを告げる音だった。
炉の炎はまだ強く燃えている。熱気が空間を満たし、金属と炭の匂いが漂っている。
その中央に、バルグラムが立っていた。
巨大な金床の上には、一振りの剣。
まだ赤熱している刃だった。魔鉱石と地竜の素材を混ぜて打たれたそれは、普通の鉄とは違う色をしている。黒に近い銀色の刃。表面には、地竜の鱗を思わせる細かな紋様がうっすらと浮かんでいる。
ルシアンは少し離れた場所からそれを見ていた。
周囲のドワーフたちも静かだった。
誰も軽口を叩かない。
鍛冶の最後の工程が残っているからだ。
バルグラムは剣をトングで掴み、炉からゆっくりと持ち上げる。赤く燃える刃が空気を焼くように揺らめいた。
そのまま、すぐ横に置かれた大きな水槽へ近づく。
そして――
躊躇なく刃を沈めた。
ジュウウウウッ!!
凄まじい蒸気が噴き上がる。白い煙が鍛冶場を覆い、一瞬視界が消える。熱気と水蒸気が混ざり、空気が震える。
その中で、わずかに光が走る。
魔力だった。
水槽の中から、淡い黒い光がゆっくりと広がっていく。
「……ほう」
誰かの声が漏れる。
ドワーフたちの目が細くなる。
普通の武器では起きない反応だった。
やがて蒸気がゆっくりと消えていく。
バルグラムは剣を水から引き上げた。
赤熱していた刃はすでに冷えている。だが先ほどよりも、はっきりと魔力を帯びていた。刃の奥に静かな力が宿っている。
鍛冶場が静まり返る。
バルグラムはしばらく刃を見つめていた。重さ、バランス、魔力の流れを確かめるように軽く振る。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
視線がルシアンを捉える。
「……レイヴン」
低い声だった。
「来い」
ルシアンは静かに歩み出る。ドワーフたちの視線が一斉に集まる。人間のための武器が、今ここで完成したのだ。
バルグラムは剣を差し出した。
「約束の武器だ」
短い言葉。
ルシアンは両手で剣を受け取る。
その瞬間、わずかに刃が震えた。
魔力が流れる。
剣の内部で、何かが応える感覚があった。
「……ほう」
後ろでボルグラムが呟く。
「もう反応しておるか」
ドワーフたちがざわめく。
「魔力に反応してる」
「最初からか?」
「とんでもねぇ剣だな」
ルシアンはゆっくりと刃を見つめた。軽い。だが芯は重い。そして――魔力が驚くほど自然に流れる。
バルグラムが腕を組む。
「どうだ」
短く聞く。
ルシアンは小さく息を吐き、剣を軽く振る。空気が鋭く裂けた。
「……いい武器です」
率直な言葉だった。
バルグラムは鼻を鳴らす。
「当然だ」
一拍。
「俺が打ったんだからな」
そして、顎で剣を指す。
「最後の仕上げが残ってる」
ルシアンが視線を向ける。
「お前の魔力を流せ」
短く言う。
「馴染ませろ。そうすりゃ完成だ」
ルシアンは剣を軽く握り直す。
ゆっくりと魔力を流す。
刃の内部へ、静かに。
すると――
剣が応えた。
刃の紋様がわずかに光る。魔力が流れ、循環し、剣の中に定着していく。
抵抗はない。
むしろ、受け入れている。
まるで最初からこの魔力を待っていたかのように。
ルシアンはゆっくりと魔力を止めた。
剣は静かになった。
だが、先ほどとは違う。
今この瞬間、この剣は完全に――ルシアンの武器になっていた。
バルグラムが頷く。
「……完成だ」
鍛冶場の空気が少しだけ緩んだ。
新しい刃が、今ここに生まれた。




