表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第2章
72/179

第71話

第71話 


 鍛冶場にはすでに多くのドワーフが集まっていた。誰かが呼んだわけではない。だが、あの最後の一撃の音を聞けば分かる。鍛冶の終わりを告げる音だった。


 炉の炎はまだ強く燃えている。熱気が空間を満たし、金属と炭の匂いが漂っている。


 その中央に、バルグラムが立っていた。


 巨大な金床の上には、一振りの剣。


 まだ赤熱している刃だった。魔鉱石と地竜の素材を混ぜて打たれたそれは、普通の鉄とは違う色をしている。黒に近い銀色の刃。表面には、地竜の鱗を思わせる細かな紋様がうっすらと浮かんでいる。


 ルシアンは少し離れた場所からそれを見ていた。


 周囲のドワーフたちも静かだった。


 誰も軽口を叩かない。


 鍛冶の最後の工程が残っているからだ。


 バルグラムは剣をトングで掴み、炉からゆっくりと持ち上げる。赤く燃える刃が空気を焼くように揺らめいた。


 そのまま、すぐ横に置かれた大きな水槽へ近づく。


 そして――


 躊躇なく刃を沈めた。


 ジュウウウウッ!!


 凄まじい蒸気が噴き上がる。白い煙が鍛冶場を覆い、一瞬視界が消える。熱気と水蒸気が混ざり、空気が震える。


 その中で、わずかに光が走る。


 魔力だった。


 水槽の中から、淡い黒い光がゆっくりと広がっていく。


「……ほう」


 誰かの声が漏れる。


 ドワーフたちの目が細くなる。


 普通の武器では起きない反応だった。


 やがて蒸気がゆっくりと消えていく。


 バルグラムは剣を水から引き上げた。


 赤熱していた刃はすでに冷えている。だが先ほどよりも、はっきりと魔力を帯びていた。刃の奥に静かな力が宿っている。


 鍛冶場が静まり返る。


 バルグラムはしばらく刃を見つめていた。重さ、バランス、魔力の流れを確かめるように軽く振る。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


 視線がルシアンを捉える。


「……レイヴン」


 低い声だった。


「来い」


 ルシアンは静かに歩み出る。ドワーフたちの視線が一斉に集まる。人間のための武器が、今ここで完成したのだ。


 バルグラムは剣を差し出した。


「約束の武器だ」


 短い言葉。


 ルシアンは両手で剣を受け取る。


 その瞬間、わずかに刃が震えた。


 魔力が流れる。


 剣の内部で、何かが応える感覚があった。


「……ほう」


 後ろでボルグラムが呟く。


「もう反応しておるか」


 ドワーフたちがざわめく。


「魔力に反応してる」


「最初からか?」


「とんでもねぇ剣だな」


 ルシアンはゆっくりと刃を見つめた。軽い。だが芯は重い。そして――魔力が驚くほど自然に流れる。


 バルグラムが腕を組む。


「どうだ」


 短く聞く。


 ルシアンは小さく息を吐き、剣を軽く振る。空気が鋭く裂けた。


「……いい武器です」


 率直な言葉だった。


 バルグラムは鼻を鳴らす。


「当然だ」


 一拍。


「俺が打ったんだからな」


 そして、顎で剣を指す。


「最後の仕上げが残ってる」


 ルシアンが視線を向ける。


「お前の魔力を流せ」


 短く言う。


「馴染ませろ。そうすりゃ完成だ」


 ルシアンは剣を軽く握り直す。


 ゆっくりと魔力を流す。


 刃の内部へ、静かに。


 すると――


 剣が応えた。


 刃の紋様がわずかに光る。魔力が流れ、循環し、剣の中に定着していく。


 抵抗はない。


 むしろ、受け入れている。


 まるで最初からこの魔力を待っていたかのように。


 ルシアンはゆっくりと魔力を止めた。


 剣は静かになった。


 だが、先ほどとは違う。


 今この瞬間、この剣は完全に――ルシアンの武器になっていた。


 バルグラムが頷く。


「……完成だ」


 鍛冶場の空気が少しだけ緩んだ。


 新しい刃が、今ここに生まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ