第69話
第69話
室内には落ち着いた空気が戻っていた。先ほどまでの張り詰めた空気は消え、代わりに静かな時間が流れている。ボルグラムは椅子に腰掛けたまま腕を組み、目の前の二人を見ていた。
「さて」
低く言う。
「神託の話はこれ以上聞かん。言えぬものは言えぬのだろう」
ルシアンは静かに頷いた。
ボルグラムは視線を息子へ向ける。
「それで、お前が言っていた武器の話はどうなっている」
バルグラムは腕を組んだまま答える。
「打ってる。もう形は出来てる。仕上げに時間がかかる」
ボルグラムの眉がわずかに動いた。
「ほう。素材は」
「山で手に入れたやつだ」
それだけでボルグラムは理解したようだった。先日鍛冶場で見た素材――高純度の魔鉱石と、あの地竜の鱗。普通の素材ではない。
「……贅沢な武器だな」
小さく呟く。
バルグラムは肩をすくめる。
「約束だからな」
視線がルシアンへ向く。
「山で言ったろ。武器は打つって」
ルシアンは小さく頷く。
「覚えています」
あの山岳地帯で交わした約束。封印の場所を教えてもらい、その代わりに魔鉱石を探すのを手伝う。そして武器を打つ。ドワーフは約束を軽く扱わない。
ボルグラムはそれを理解していた。
「剣と言っていたな」
「ああ」
バルグラムは言う。
「魔力が通りやすい剣だ。ただ切れるだけの武器じゃねぇ。使い手の魔力に馴染む」
一拍置く。
「使い手と一緒に強くなる武器だ」
ボルグラムの目がわずかに細くなる。
「……面白い」
静かに言った。そんな武器は簡単に作れるものではない。ドワーフでも、腕のある鍛冶師しか挑まない領域だ。
そしてその武器を――息子はこの少年のために打っている。
ボルグラムはルシアンを見る。
「息子はな、気に入った相手にしか武器を打たん」
一拍。
「しかも、あの素材だ」
あれは普通の武器ではない。
ルシアンは静かに答える。
「……光栄です」
率直な言葉だった。
バルグラムは鼻を鳴らす。
「まだ完成してねぇ。もう少しかかる」
ルシアンは頷く。
「急ぎません。ここにいさせてもらえれば、それで十分です」
ボルグラムはその言葉を聞き、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「ならば決まりだ」
低い声。
「客人として迎えよう」
ルシアンを見る。
「ルシアン殿。この集落にいる間は安心して過ごすといい」
その言葉には長としての重みがあった。
バルグラムが横で小さく笑う。
「言ったろ。悪い場所じゃねぇ」
ルシアンはわずかに目を細める。
山岳地帯の奥で始まった縁は、今こうしてドワーフの集落へと繋がっていた。そして――約束の武器は、もうすぐ完成する。




