第67話
第67話
集落の奥へ進んだところで、バルグラムは足を止めた。
そこには一人のドワーフが立っていた。
灰色の髭を胸元まで伸ばし、太い腕を組んでいる。年齢は高いが、背筋は曲がっていない。鋭い目が二人を静かに見ていた。
ボルグラム・ドゥルガン。
この集落の長であり、バルグラムの父でもある。
「……戻ったか」
低い声だった。
「ああ」
バルグラムが短く答える。
ボルグラムの視線がゆっくりと動く。
レイヴンへ向けられる。
「……その人間か」
バルグラムが頷く。
「山の奥で助けてくれたやつだ」
短い説明。
ボルグラムはしばらくルシアンを見ていた。
鋭い視線だったが、敵意はない。ただ観察している。
やがてルシアンが一歩前へ出る。
「初めまして」
落ち着いた声で言う。
「レイヴンと申します」
軽く頭を下げる。
「山岳地帯の奥で、バルグラムさんと偶然出会いました」
ボルグラムは小さく頷く。
「話は聞いた」
短く言う。
「息子を助けてくれたそうだな」
「助けたというほどではありません」
「それでもだ」
ボルグラムは静かに言う。
「礼は言わねばならん」
ドワーフは恩を軽く扱わない。
その言葉には、はっきりとした重みがあった。
「……ありがとうございます」
ルシアンは素直に答える。
ボルグラムは数秒だけ二人を見ていた。
そして言った。
「立ち話も何だ」
背を向ける。
「中へ来い」
短い言葉だった。
バルグラムが顎で合図する。
「行くぞ」
二人は長の住居へと入った。
岩を削って作られた広い室内。壁には古い武器や工具が並び、奥には大きなテーブルが置かれている。
扉が閉まる。
外の喧騒が消えた。
静かな空間。
ルシアンはそこで一度息を吐いた。
「……ここなら問題ないですね」
そう言って、足元の影が揺れる。
黒い影が身体を覆い、ゆっくりと形が変わる。
背が縮む。
体格が変わる。
顔立ちが変化する。
やがて影が消える。
そこに立っていたのは――
先ほどの青年ではなく、元の姿の少年だった。
バルグラムは腕を組んだまま見ている。
だがボルグラムの目がわずかに細くなる。
「……ほう」
短く息を漏らす。
ルシアンは改めて一歩前へ出た。
「申し遅れました」
静かに言う。
「本当の名はルシアンといいます」
深く頭を下げる。
「事情があり、外では姿を変えています」
一度顔を上げる。
「先ほどの姿と名前も、そのためのものです」
ボルグラムは黙って聞いていた。
ルシアンは続ける。
「今後もその姿と偽名を使うことを、どうかお許しください」
短い沈黙。
そしてボルグラムはゆっくりと椅子に腰を下ろした。
腕を組む。
視線をルシアンへ向ける。
その目は――
先ほどよりも、少しだけ興味を帯びていた。




