表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第2章 力をその手に
65/181

第64話 sideバルグラム

第64話 


 山岳地帯の風は相変わらず冷たかった。


 ドワーフの集落を出てから数日。岩肌の続く険しい道を、バルグラムは迷いなく進んでいた。肩には大斧。腰にはマジックバック。足取りは重いが、迷いはない。


 出発する前のことを思い出す。


 鍛冶場で武器を打ち終えたあと、父――ボルグラムに呼び止められた。


「……山の奥へ行ったと言っていたな」


「ああ」


「どうやって戻った」


 短い問いだった。


 バルグラムは少しだけ考え、答えた。


「手を貸してくれたガキがいた」


 それだけだった。


 だがボルグラムの眉がわずかに動く。


「人間か」


「ああ」


「山の奥で出会った」


 しばらくの沈黙。


 そして父は小さく息を吐いた。


「……ならば礼を言わねばならんな」


 低い声だった。


「迎えに行け」


 それだけ言う。


「人間が一人で来れば余計な騒ぎになる」


 バルグラムは頷いた。


 それで話は終わった。


 そして今――その少年を迎えに向かっている。


(……あのガキ)


 山岳地帯の奥で出会った少年。普通ではない。あの場所で平然と動き回る人間など、本来いるはずがない。


 岩場を越え、尾根を下りる。空気が変わる。ここから先は魔物の気配が濃い。


 その時――


 気配が動いた。


「……来たか」


 岩陰から二つの影が現れる。


 マウンテンオーガ。それも通常の個体より明らかに大きい。山岳地帯でも上位に入る魔物だ。


 Sランク。


 それが二体。


 低い唸り声を上げながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。


 バルグラムは立ち止まった。肩から大斧を降ろし、地面に柄を突く。


「……ちょうどいい」


 息を吐く。


 ここ最近は鍛冶ばかりだった。体も少し鈍っている。


 オーガの一体が咆哮する。


 次の瞬間、突進。


 地面を砕きながら迫る巨体。振り上げられる腕は岩を砕く力を持つ。


 バルグラムは踏み込もうとした。


 その瞬間だった。


 影が揺れた。


 オーガの背後。


 地面の影が、ほんの一瞬だけ歪む。


 そして――


 黒い刃が走った。


 音は小さい。


 だが次の瞬間、オーガの首がずれた。巨体がそのまま崩れ落ちる。


 もう一体が反応するより早く、影が動く。空気が裂ける。


 首元に一閃。


 巨体が沈む。


 戦闘は――一瞬で終わっていた。


 バルグラムは動かなかった。ただ前を見ている。


 岩場の影から、一人の少年が歩いて出てきた。


 フードを被った人間の少年。


 ルシアンだった。


 足取りは静か。呼吸も乱れていない。まるで今の戦闘など何もなかったかのようだった。


 バルグラムは数秒、黙って見ていた。


 そして言う。


「……強くなりやがったな」


 ルシアンは軽く首を傾ける。


「少しだけです」


 淡々と答える。


 バルグラムは鼻を鳴らす。


「少し、でSランクを二体か」


 ルシアンは特に否定しない。


 少しの沈黙。


 山岳の風が吹き抜ける。


 やがてバルグラムが言った。


「迎えに来た」


 短い言葉。


「父が礼を言いたいらしい」


 ルシアンは一瞬だけ目を細める。


「……礼ですか」


「ああ」


 バルグラムは斧を肩に担ぎ直す。


「集落に来い」


 それだけ言って歩き出す。


 ルシアンはその背を見て、わずかに口元を緩めた。


 そして静かに歩き出す。


 ドワーフの集落へ向かって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ