第62話 sideバルグラム
第62話
鍛冶場に響くハンマーの音は、長い時間途切れることがなかった。
ガンッ。
ガンッ。
ガンッ。
重く、正確な音が、炉の熱気の中で何度も反響する。
バルグラムは止まらない。
高純度の魔鉱石はすでに形を変え、巨大な斧の輪郭を帯び始めていた。そこへ地竜の骨が溶かされ、混ざり、さらに鱗が叩き込まれる。普通の鍛冶ならばあり得ない工程だった。
だがバルグラムは迷わない。
叩く。
叩く。
叩く。
火花が舞い、金床の上で魔力が弾ける。
その様子を見ていたドワーフの一人が呟いた。
「……おかしい」
「何がだ」
「魔力の流れだ」
鍛冶炉から溢れる魔力が、斧へ吸い込まれている。まるで武器そのものが魔力を呼び込んでいるかのようだった。
候補者の一人が眉をひそめる。
「……ただの斧じゃねぇな」
それでも口には出さない。まだ完成していない。完成するまでは評価などできない。だが――空気は変わっていた。誰も軽口を叩かない。誰も馬鹿にしない。全員が見ている。バルグラムの鍛冶を。
そして最後の工程に入る。
赤く輝く斧の刃を、バルグラムが持ち上げる。炉の炎が一段と強くなる。魔力炉が唸り、鍛冶場の空気が震えた。
バルグラムは斧を炎の中へ戻す。そして取り出す。
次の瞬間。
ガンッ!!
今までで最も重い一撃が金床に叩き込まれた。
金属音が鍛冶場全体に響き渡る。そして――魔力が弾けた。
斧の刃が淡く光る。空気が震える。鍛冶場にいたドワーフたちが一斉に息を呑んだ。
「……完成だ」
バルグラムが静かに言う。
それだけだった。だが誰も声を出さない。
斧が、そこにあった。
巨大な刃。黒く輝く刃金。地竜の鱗を思わせる紋様が刃に浮かび、柄には濃い魔力が静かに流れている。ただ置かれているだけなのに、存在感が違う。
沈黙が続く。
やがて一人のドワーフが前へ出た。長候補の一人だった。斧を見つめる。そしてバルグラムを見る。
数秒の沈黙。
やがて小さく息を吐いた。
「……参ったな」
苦笑する。
「こんな武器を見せられて、張り合う気にはなれん」
そして静かに言った。
「俺の負けだ」
鍛冶場がざわつく。別の候補者も前へ出る。武器を見て、目を細める。
「……文句はねぇ」
短く言う。
「長はお前だ」
それで終わりだった。
勝敗は決まった。
周囲のドワーフたちもざわめきながら頷く。
「確かに……」
「こんな武器は見たことがねぇ」
「ドゥルガンの名に恥じねぇな」
さっきまで疑いを向けていた視線が、今は変わっていた。尊敬。そして――認めた目。
その様子を少し離れた場所で見ていたボルグラム・ドゥルガンが、小さく息を吐く。
「……見事だ」
短い言葉だった。だがそれで十分だった。
バルグラムは何も言わない。ただ、完成した斧を静かに見下ろしていた。




