表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第2章
62/175

第61話 sideバルグラム

第61話 


 ドワーフの集落の中心部、巨大な鍛冶場。岩盤を削って造られた広い空間には、いくつもの鍛冶炉が並んでいる。


 炉の奥では魔力炉が唸りを上げ、赤く溶けた金属の光が岩壁を照らしていた。鉄を打つ音、炎が燃え上がる音、重いハンマーが金属を叩く響き。それらが重なり、この場所の空気を震わせている。


 だがその日、鍛冶場の一角だけは様子が違っていた。


 バルグラム・ドゥルガンの炉。


 そこに集まる視線が多すぎた。


 ドワーフたちが腕を組み、無言で見守っている。その中には、次の長の候補者たちもいた。


「……本当に打つ気か」


 誰かが呟く。


「高純度の魔鉱石だぞ」


「奴に加工できるのか?」


 低い声が広がる。


 バルグラムは聞いていないようだった。炉の前に立ち、静かに準備を進めている。巨大な金床。鍛冶用の長いトング。何本ものハンマー。すべて使い込まれた道具だった。


 やがてマジックバックから素材が取り出される。


 まず――黒く光る高純度の魔鉱石。それだけでも周囲の視線は集まる。


 だが次に取り出されたものを見て、ざわめきが起こった。


 巨大な鱗。


 分厚く、黒く、金属のような光沢を持つそれは、普通の魔物の素材ではなかった。


「……地竜の鱗か」


 誰かが言う。


 その言葉に別のドワーフが近づいて覗き込む。だがすぐに眉をひそめた。


「……いや、待て」


 手に取ろうとして、途中で止める。その鱗からはわずかに魔力が滲んでいた。普通の素材とは違う。重い。ただの物質ではないような圧がある。


 地竜は本来、山岳地帯に棲む強力な魔物だ。通常個体でもAランクに分類される。だが、この鱗から感じられる力は――明らかにそれを超えていた。


「……普通の地竜じゃねぇな」


 低く呟く声。


「こんな魔力……見たことがねぇ」


 ざわめきが広がる。だがバルグラムは何も言わない。静かに炉へ魔鉱石を入れる。


 炎が唸る。魔力炉が応えるように震え、火力が一気に上がる。炉の奥で鉱石が赤く染まり始める。


 ドワーフの鍛冶は力だけではない。温度、魔力、時間。そのすべてを読み、最適な瞬間を見極める。


 バルグラムはただ炉を見つめていた。


 やがて鉱石を取り出す。赤く輝く塊を金床へ置く。ハンマーを持つ。


 周囲の空気が静まる。


 そして――


 ガンッ!!


 重い音が鍛冶場に響いた。


 ドワーフの鍛冶は基本的に複数人で行う。だがバルグラムは一人で打つ。


 ガンッ!


 再び叩く。


 火花が散る。


 ガンッ! ガンッ!


 リズムが生まれる。重く、正確な音。


「……無駄がねぇ」


 誰かが小さく言う。


「あいつ……腕は確かだ」


 候補者の一人が鼻を鳴らす。


「だが武器は打てても長になれるとは限らん」


 別のドワーフが答える。


「……あれを見ても同じことが言えるか?」


 バルグラムのハンマーは止まらない。


 打つ。


 打つ。


 打つ。


 魔鉱石の形が変わる。地竜の骨が炉へ入れられ、溶けた金属と混ざる。さらに鱗が加えられる。


 炉の炎が暴れ、魔力が空気を震わせる。


 ドワーフの鍛冶はただの金属加工ではない。魔力を叩き込む技術。


 バルグラムは無言のまま、それを続ける。周囲の視線など気にしない。ただ、打つ。


 ハンマーの音だけが鍛冶場を満たしていた。


 そして誰もが理解し始めていた。


 これは――ただの武器ではない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ