第61話 sideバルグラム
第61話
ドワーフの集落の中心部、巨大な鍛冶場。岩盤を削って造られた広い空間には、いくつもの鍛冶炉が並んでいる。
炉の奥では魔力炉が唸りを上げ、赤く溶けた金属の光が岩壁を照らしていた。鉄を打つ音、炎が燃え上がる音、重いハンマーが金属を叩く響き。それらが重なり、この場所の空気を震わせている。
だがその日、鍛冶場の一角だけは様子が違っていた。
バルグラム・ドゥルガンの炉。
そこに集まる視線が多すぎた。
ドワーフたちが腕を組み、無言で見守っている。その中には、次の長の候補者たちもいた。
「……本当に打つ気か」
誰かが呟く。
「高純度の魔鉱石だぞ」
「奴に加工できるのか?」
低い声が広がる。
バルグラムは聞いていないようだった。炉の前に立ち、静かに準備を進めている。巨大な金床。鍛冶用の長いトング。何本ものハンマー。すべて使い込まれた道具だった。
やがてマジックバックから素材が取り出される。
まず――黒く光る高純度の魔鉱石。それだけでも周囲の視線は集まる。
だが次に取り出されたものを見て、ざわめきが起こった。
巨大な鱗。
分厚く、黒く、金属のような光沢を持つそれは、普通の魔物の素材ではなかった。
「……地竜の鱗か」
誰かが言う。
その言葉に別のドワーフが近づいて覗き込む。だがすぐに眉をひそめた。
「……いや、待て」
手に取ろうとして、途中で止める。その鱗からはわずかに魔力が滲んでいた。普通の素材とは違う。重い。ただの物質ではないような圧がある。
地竜は本来、山岳地帯に棲む強力な魔物だ。通常個体でもAランクに分類される。だが、この鱗から感じられる力は――明らかにそれを超えていた。
「……普通の地竜じゃねぇな」
低く呟く声。
「こんな魔力……見たことがねぇ」
ざわめきが広がる。だがバルグラムは何も言わない。静かに炉へ魔鉱石を入れる。
炎が唸る。魔力炉が応えるように震え、火力が一気に上がる。炉の奥で鉱石が赤く染まり始める。
ドワーフの鍛冶は力だけではない。温度、魔力、時間。そのすべてを読み、最適な瞬間を見極める。
バルグラムはただ炉を見つめていた。
やがて鉱石を取り出す。赤く輝く塊を金床へ置く。ハンマーを持つ。
周囲の空気が静まる。
そして――
ガンッ!!
重い音が鍛冶場に響いた。
ドワーフの鍛冶は基本的に複数人で行う。だがバルグラムは一人で打つ。
ガンッ!
再び叩く。
火花が散る。
ガンッ! ガンッ!
リズムが生まれる。重く、正確な音。
「……無駄がねぇ」
誰かが小さく言う。
「あいつ……腕は確かだ」
候補者の一人が鼻を鳴らす。
「だが武器は打てても長になれるとは限らん」
別のドワーフが答える。
「……あれを見ても同じことが言えるか?」
バルグラムのハンマーは止まらない。
打つ。
打つ。
打つ。
魔鉱石の形が変わる。地竜の骨が炉へ入れられ、溶けた金属と混ざる。さらに鱗が加えられる。
炉の炎が暴れ、魔力が空気を震わせる。
ドワーフの鍛冶はただの金属加工ではない。魔力を叩き込む技術。
バルグラムは無言のまま、それを続ける。周囲の視線など気にしない。ただ、打つ。
ハンマーの音だけが鍛冶場を満たしていた。
そして誰もが理解し始めていた。
これは――ただの武器ではない。




