第56話
第56話
空間の空気が変わった。
三柱の神の気配が、わずかに動く。
それは攻撃でも威圧でもない。決意に近いものだった。
ベルグラードが笑う。
「よし、決まりだ」
「そこまで覚悟があるなら」
「俺たちの力をくれてやる」
その言葉に、シルヴァリオンが静かに続ける。
「我らはすでに消えかけの存在だ」
「いずれ、この場も崩れる」
一拍。
「だが力は残っている」
ラウネリスが短く言う。
「……受け取れ」
三柱の気配が同時に揺れた。
その瞬間、空間の魔力が変質する。
(……来る)
ルシアンは動かない。
逃げる必要も、避ける必要もない。
受け入れるだけだ。
最初に流れ込んできたのは、荒々しい力だった。
ベルグラード。
叩きつけるような奔流。純粋な闘争の力。押し潰すような重さで体の奥へ流れ込む。
(……重い)
だが止めない。
その直後、別の流れが重なる。
シルヴァリオン。
軽い。だが制御が難しい。風のように自由で、掴みどころがない。束ねなければすぐに拡散する。
そして最後に――
深く沈むような力。
ラウネリス。
音もなく入り込む。だが底が見えない。影のように静かで、どこまでも広がる。
三つの力が、同時に流れ込む。
(……量が違う)
魔力ではない。
もっと根源的なもの。
意識が揺れる。
だがルシアンはすぐに座り込んだ。
無理に動けば制御を失う。
(……まとめる)
流れを読む。
ベルグラードの力は荒い。だが芯がある。中心に据える。
シルヴァリオンの力は拡散する。流れを作り、制御の枠に収める。
ラウネリスの力は深い。底へ沈める。
三つを、ぶつけない。
まとめる。
だが――
(……まだ足りない)
処理が追いつかない。
力は止まらない。
流れ込む量が増える。
体の奥が軋む。
魔力回路が悲鳴を上げる。
視界が揺れる。
空間が歪む。
ベルグラードが笑う。
「はは、いいな」
「ちゃんと抑え込んでやがる」
シルヴァリオンが言う。
「だが、まだ終わりではない」
ラウネリス。
「……ここから」
次の瞬間。
流れが一段、強くなる。
(……っ)
意識が揺れる。
体の中で力が暴れる。
ベルグラードの力が衝突する。
シルヴァリオンの力が暴れる。
ラウネリスの力が沈む。
三つがぶつかり合う。
(……抑える)
集中する。
逃がさない。
だが――
限界が近い。
制御しきれない力が外へ溢れ始める。
地面が軋む。
空間が震える。
封印の内部そのものが揺れ始める。
ベルグラードが静かに言う。
「……ここからが本番だ」
シルヴァリオン。
「完全に馴染むまで、時間がかかる」
ラウネリス。
「……耐えろ」
その瞬間――
さらに大きな奔流が流れ込んだ。
視界が白く染まる。
制御が崩れる。
ルシアンの体から、制御不能の魔力が噴き出した。




