第54話
第55話
奥へ進むほどに、空間の質が変わっていく。
重いのではない。満ちすぎている。魔力が濃すぎて、輪郭が曖昧になる。距離も、上下も、正確には測れない。
(……別の領域だな)
それでも足は止まらない。感覚が導くままに進む。
やがて、開けた。
何もない空間。ただ中心だけが異様に“濃い”。
そこに、いた。
三つの存在。輪郭は薄く、今にも消えそうだ。それでも“格”だけははっきりと分かる。
ルシアンは足を止める。
沈黙。
最初に揺れたのは風の気配だった。
「……来たか」
静かで、よく通る声。
「私は風の神、シルヴァリオン」
理知的な響き。だがどこか縛られない自由さがある。
続いて、力強い気配が前に出る。
「よくここまで来たな!」
明るく、真っ直ぐな声。
「俺は闘いの神、ベルグラードだ」
重さよりも“気持ちの良さ”が先に来る声音。
最後に、影がわずかに揺れる。
「……ラウネリス」
短い。
「影を司る」
それだけ。だが視線だけは確かに向けられている。
ルシアンは頷く。
「ルシアンです」
簡潔な名乗り。
ベルグラードが小さく笑う。
「いいな、無駄がねぇ」
シルヴァリオンが続ける。
「お前の行動は見ている」
一拍。
「この山に入ってからのすべてを」
ラウネリスは無言のまま、わずかに気配を寄せる。
ベルグラードが指折り数えるように言う。
「魔物の密度に飲まれず、進み続けた」
「ドワーフを助けた」
「SS相当を相手にしても折れなかった」
そこで少しだけ笑う。
「しかも、ドワーフを助けたのは見返り目当てじゃねぇな」
ルシアンは何も言わない。
シルヴァリオンが静かに補足する。
「打算はあったとしても、判断は一貫している。“必要だからやる”という軸がぶれていない」
ラウネリスが一言だけ。
「……歪みがない」
ベルグラードが頷く。
「だから分かる。お前は“いいやつ”だ」
あっさりと言い切る。
ルシアンは表情を変えない。
だが否定もしない。
シルヴァリオンが続ける。
「我らの力を託すに値するかどうか――その点については、すでに結論は出ている」
一拍。
「値する」
ラウネリスもわずかに気配を動かす。
「……問題ない」
ベルグラードが腕を組むように気配を固める。
「だから本来なら、このまま力を渡してもいい」
だが――
空気がわずかに引き締まる。
「念のため、聞かせろ」
真っ直ぐな声。
「その力で、何を為す」
シルヴァリオンも続ける。
「力そのものではなく、“使い道”だ」
ラウネリス。
「……目的」
三方向からの問い。
重圧ではない。
確認。
それでも、軽いものではない。
ルシアンは迷わない。
視線を三柱へ向けたまま、口を開く。
その答えが、すべてを決めると分かっているからだ。




