第52話
第52話
魔鉱石の回収を終え、二人は一度足を止めた。周囲は静かだった。先ほどまでの激戦の気配は、もう残っていない。
バルグラムが担いだ袋を軽く揺らす。中には切り出した高純度の魔鉱石が収まっている。
「……十分だ」
短く言う。
ルシアンも頷く。
「これで作れますか」
「ああ。これなら文句は出ねぇ」
一拍。
「出ても、叩き潰すだけだがな」
低く言い切る。
ルシアンは何も言わない。ただ事実として受け取る。
バルグラムは腰に下げた黒い袋――マジックバックに手を伸ばす。
「こいつに入れる」
地竜の死骸へ歩み寄る。巨大な体から鱗、骨、爪を的確に切り出し、次々と袋へ収めていく。見た目では到底収まらない量だが、問題なく飲み込まれていく。
「魔鉱石と合わせりゃ、いい武器になる」
一拍。
「お前の分もな」
ルシアンの視線がわずかに動く。
「……いいんですか」
「最初に言っただろうが。手伝えば打ってやるってな」
当たり前のように返す。
「それに今のままじゃ足りねぇだろ」
折れた剣のことを指している。
ルシアンは短く頷く。
「……確かに」
否定はしない。
バルグラムは鼻を鳴らす。
「任せとけ。今のよりはマシなもんにしてやる」
「期待しています」
それで十分だった。
すべての素材を回収し終え、袋の口を閉じる。何事もなかったかのように軽く担ぐ。
短い沈黙。風が抜ける。
ルシアンは山の奥――封印の方向へ視線を向ける。
(……次だ)
バルグラムもその視線を追う。
「……行くのか」
「はい」
即答。
「時間がかかります」
一拍。
「しばらくは戻らないと思います」
バルグラムは頷く。
「だろうな。あれは短期でどうこうなるもんじゃねぇ」
そして少しだけ間を置く。
「……集落の件だが」
ルシアンが視線を向ける。
「勝手に来るな」
低く、はっきりと言う。
「外の人間を簡単に通す場所じゃねぇ。特に今はな」
長を決める最中。余計な存在は受け入れられない。
「半月後だ」
一拍。
「こっちから迎えに行く」
ルシアンは頷く。
「分かりました」
「それまでに終わらせろとは言わねぇが――」
少しだけ目を細める。
「生きてろ」
「問題ありません」
即答だった。
バルグラムは小さく息を吐く。
「……だろうな」
背を向ける。
「武器、用意しておく」
「はい」
「逃げるなよ」
「そのつもりはありません」
短いやり取り。それで十分だった。
バルグラムはそのまま山を下りていく。迷いのない足取り。
ルシアンは一瞬だけその背を見て――視線を切る。
向かう先は一つ。
封印。
あの“境界”。
(……終わらせる)
足を踏み出す。
重い魔力の中、迷いはない。
止まらず、ただ前へ進む。




