第51話
第51話
崩れた地竜の巨体を越え、二人は奥へ進む。先ほどまでの暴風のような戦闘が嘘のように、空気は静かだった。だが魔力の密度だけは変わらない。むしろ、中心に近づくにつれてさらに濃くなっている。
(……ここか)
視界の先、岩壁が剥き出しになった一帯。そこに、微かに光を帯びた鉱脈が走っていた。
バルグラムが足を止める。
「……当たりだ」
短く言うが、その声にはわずかな熱が混じっていた。
ルシアンも近づく。手をかざすまでもない。分かる。
(……濃い)
魔力の“質”が違う。これまで見てきた魔鉱石とは別物。内側に圧縮された魔力が、ほとんど結晶のように安定している。
バルグラムがしゃがみ込み、岩肌に手を当てる。
「高純度……どころじゃねぇな」
低く呟く。
「ここまでのは久しぶりだ」
指先で軽く叩く。返ってくる音を聞く。
それだけで判断している。
「……芯まで詰まってる。割れば分かるが、間違いねぇ。上物だ」
ルシアンは黙って見ている。
「これなら、全員黙らせられるか」
問いではない。確認でもない。
バルグラムは立ち上がる。
「黙らせる」
断言だった。
一歩踏み出し、大斧を構える。
「離れてろ。下手に触ると割れる」
「分かりました」
ルシアンは距離を取る。
次の瞬間――
斧が振り下ろされる。
衝撃は一点に集中している。砕くのではなく、“切り出す”一撃。岩ごと抉り取るのではなく、鉱石だけを抜くための技術。
鈍い音。
だが砕けない。
バルグラムが舌打ちする。
「……やっぱ硬ぇな」
だが焦りはない。
もう一度、角度を変えて振るう。今度は少し深く、しかし同じ一点へ。
音が変わる。
内部に亀裂が走る感触。
「……そこだ」
三撃目。
正確に重ねる。
岩が割れ、内部から淡く光る塊が姿を現した。
魔鉱石。
だがただの塊ではない。表面に微細な模様が走り、内部で魔力が脈動しているのが見える。
バルグラムがそれを拾い上げる。
重い。
だが、その重さは質量だけではない。
「……いいな」
短く言う。
だがその一言にすべてが詰まっていた。
ルシアンも近づく。
「それで足りますか」
「いや、もう少し欲しい」
即答だった。
「一本で終わらせる気はねぇ。叩きつけるには足りねぇ」
視線が鉱脈へ向く。
「徹底的にやる」
その言葉に迷いはない。
ルシアンは頷く。
「分かりました。手伝います」
「助かる」
短いやり取り。
それで十分だった。
再び斧が振るわれる。今度はリズムが一定になる。一撃一撃に無駄がない。砕くのではなく、選別しながら切り出していく。
ルシアンは周囲の警戒に回る。だが気配はない。
(……縄張りの主は倒した)
だから今は静かだ。
しばらくして、いくつかの塊が並ぶ。
どれも同じように光を帯びている。
バルグラムがそれを見下ろす。
「……十分だな」
ゆっくりと息を吐く。
肩の力が、ほんのわずかに抜ける。
「これで作れる」
一拍。
「全部、ひっくり返す」
静かな声だった。
だが確信があった。
ルシアンはその横顔を見て、何も言わない。
(……問題ないな)
この男はやる。
そう判断している。
バルグラムが鉱石をまとめる。
「戻るぞ」
「はい」
短く応じる。
二人は来た道へと向き直る。
目的の一つは達成された。
残るは――
(封印)
あの場所。
ルシアンは一度だけ奥を振り返る。
そして歩き出す。
次に向かう先は、すでに決まっていた。




