第49話
第49話
鈍い音が確かに響いた。斬撃と同時に走った違和感は、次の瞬間には確信に変わる。刃が耐えきれず、根元から砕けた。破片が弾け、岩に当たって乾いた音を立てる。手に残ったのは半ばで途切れた剣だった。
(……折れたか)
想定はしていた。だが、この相手ではやはり早い。ここまで無理を通してきた分、限界は近かった。
だが、止まる理由にはならない。
ルシアンは迷いなく剣を捨てた。視線を上げる。地竜は止まらない。むしろ削られ続けたことで、動きが荒く、圧が増している。
「武器が……!」
バルグラムが一瞬だけ視線を寄越す。
「問題ありません」
即答だった。
やることは変わらない。むしろ単純になる。
踏み込む。
地竜の前脚が振り下ろされる。重い。これまでよりも明らかに圧が強い。まともに受ければ終わる。だが正面には入らない。最初から外した位置へ滑り込む。死角へ。
触れる。
黒を流す――イクリプス。
(……やはり遅い)
食い込みは鈍い。それでも止めない。削る。削る。削る。
地竜が即座に反応する。尾が横薙ぎに振り抜かれる。回避が間に合わない。衝撃が直撃し、体が弾かれる。岩に叩きつけられ、視界が一瞬揺れる。
(……浅い)
致命ではない。すぐに立ち上がる。
その間に、バルグラムが前へ出ていた。
「こっちだ!」
吠え、大斧を振り上げる。正面から叩きつける一撃。地竜の視線が完全に向く。
振り下ろされる腕を、真正面から受ける。
衝撃が走る。地面が砕け、足場が沈む。それでもバルグラムは退かない。踏み込み、押し返す。だが――
(……長くは持たない)
ルシアンは即座に理解する。
「前、任せます」
「任せろ!」
役割が定まる。
バルグラムが正面を抑える。すべての圧を引き受ける。ルシアンは削る。
踏み込む。今度は躊躇がない。剣はない。なら直接、内側を喰い破る。
触れる。黒を流す。今までよりも深く、強く。
(……喰らう)
削るのではない。奪うのでもない。食い破る。
だが――
(硬い……!)
抵抗が異常だ。魔力の流れが太すぎる。削れている。だが遅い。量が違う。
地竜が暴れる。圧がさらに増す。バルグラムの体が押される。足場が崩れ、膝がわずかに沈む。
「……まだか!」
「もう少しです」
事実だけを返す。
再び踏み込む。同じ箇所。何度も叩き込まれている一点へ。触れる。黒を集中させる。
削る。削る。削る。
抵抗は強い。だが――
(……変わった)
食い込みがわずかに軽くなる。
バルグラムがそれを逃さない。
「そこだ!」
全力の一撃。大斧が叩き込まれる。今までで最も重い一撃。鈍い音とともに、鱗がわずかに軋む。
だが、まだ足りない。
地竜が咆哮する。空気が震え、魔力が爆発するように膨れ上がる。圧が一段上がる。バルグラムの体が押し戻される。
(……時間がない)
このままでは押し切られる。
なら――
(さらに、内側へ)
ルシアンは踏み込む。今までよりも深く。躱すのではなく、動きの内側へ入り込む。
触れる。
黒を、さらに深く流し込む。
(喰らえ)
意思を込める。削るのではなく、構造ごと噛み砕くように。
その瞬間、感触が変わる。
(……そこか)
抵抗の“芯”に触れる。
バルグラムが吠える。
「合わせろ!」
「はい」
同時だった。
黒が食い込み、斧が叩き込まれる。
今までとは違う手応え。
確実に壊れ始めている。
だが、終わりではない。
地竜は崩れない。むしろ最後の抵抗のように暴れる。山が揺れ、岩が崩れ、空気が軋む。
戦いは、まだ終わらない。




