第48話
第48話
地竜の咆哮が山肌を震わせる。暴れるたびに岩が砕け、足場が崩れ、空気そのものが押し潰されるように重くなる。戦場は安定しない。だが、それでも二人は止まらなかった。
バルグラムが正面から圧を受け止める。大斧を振るい、振り下ろされる前脚を逸らし、無理やり軌道をずらす。まともに受ければ砕ける一撃を、技術と膂力で捻じ曲げる。その一瞬で生まれた隙に、ルシアンが踏み込む。
触れる。黒を流す。削る。
(……遅い)
分かっている。それでも止めない。地竜の魔力は濃く、流れも太い。イクリプスで削れてはいるが、量が違う。奪っても、まだある。削っても、なお残る。
バルグラムの一撃が同じ箇所へ叩き込まれる。鈍い音が響き、鱗がわずかに軋む。
(……通り始めている)
確実に前進している。だが、足りない。
次の瞬間、地竜が身体を捻る。尾が横薙ぎに振り抜かれる。空気ごと叩き割る一撃。
「来るぞ!」
ルシアンは跳ぶ。だが巨体の一撃は範囲が違う。直撃は外すが、風圧と衝撃で体が弾かれる。岩に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。
(……問題ない)
すぐに立ち上がる。痛みはあるが、動きに支障はない。そのまま間合いを詰める。
地竜は止まらない。次は噛みつき。巨大な顎が迫る。速度も重さも桁違い。
正面には入らない。踏み込みではなく、最初から外した位置から斜めに滑り込む。死角へ。
触れる。黒を流す。削る。削る。削る。
だが、次の瞬間――前脚が振り下ろされる。回避が間に合わない。
割り込む影。
バルグラムが斧で受ける。衝撃が直撃し、地面が砕け、足場ごと沈む。
「……っ、止まるな!」
「分かっています」
短く返し、ルシアンは離れない。削り続ける。バルグラムもまた同じ箇所へ叩き込み続ける。連携というより、役割の分担。互いにやるべきことをやるだけで成立している。
地竜が暴れる。地面を抉り、岩を砕き、空気を震わせる。それでも二人は間合いを外さない。離れれば再生に追いつかれる。だから張り付く。
(……まだ浅い)
確実に削れている。だが決定打には遠い。削る速度より、再生がわずかに上回る。
(……なら、上回るまで削る)
単純な話だった。
その時、ルシアンの手にわずかな違和感が走る。刃が、ほんの僅かに軋む。
視線は動かさない。だが理解する。
(……負荷が大きいな)
ここまでの連続戦闘。そしてこの相手。硬すぎる。攻撃の通らない相手を無理に斬り続けている。蓄積しないはずがない。
もう一度、同じ箇所へ斬る。鈍い感触。わずかな手応え。そして――微細な引っかかり。
(……来るか)
まだ折れてはいない。だが余裕はない。
バルグラムが吠える。
「一点だ! そこを割る!」
「了解」
即答。思考はすでに一致している。
(……それまで持てばいい)
武器が保つ間に、決定打を通す。それが最短。ならば迷う理由はない。
再び踏み込む。触れる。削る。バルグラムが叩き込む。削る。叩く。削る。叩く。
繰り返し。精度だけを上げていく。
地竜の動きがわずかに鈍る。確実に削れている証拠。だが同時に、圧は増していく。咆哮に乗る魔力が濃くなり、空気そのものが重くなる。
(……間に合わないか)
時間は長くない。
その中で、さらに一撃。
斬る。
――嫌な感触。
刃の奥で、何かが軋む。
(……限界か)
それでも止めない。止まれば終わる。
ルシアンは踏み込む。削る。バルグラムが叩き込む。わずかに、鱗が裂ける。
だが同時に――
限界もまた、確実に近づいていた。




