第47話
第47話
夜が明ける前、二人はすでに動き出していた。風は冷たく、空気は重い。昨日よりもさらに魔力の密度が増している。
バルグラムが低く言う。
「……この先だ。鉱脈がある」
ルシアンは頷く。同時に理解していた。
(……いるな)
気配が違う。これまでのAやSとは明確に質が異なる。重い。濃い。ただ存在しているだけで、周囲の魔力の流れを歪めている。
進む。
やがて視界が開けた。岩壁に囲まれた窪地。その中心にいた。
地竜。
全長は十五メートルを優に超える。黒い鱗が鈍く光り、体表を魔力が流れている。
(……別格だな)
ただの強さではない。存在そのものが圧を持つ。
(ゼルキスほどじゃないが……近い“質”を感じる)
それでも、戦うしかない。
「行くぞ」
「はい」
同時に踏み込む。
バルグラムが正面から入る。地面を砕く踏み込み。大斧を振り上げ、そのまま叩きつける。
地竜が目を開く。
反応が速い。首を振るだけで軌道をずらし、同時に前脚を振り下ろす。
衝撃。
バルグラムが受け流すが、完全には殺しきれない。体が後方へ押され、足場が崩れる。
その隙を逃さない。
地竜が突進する。巨体が一直線に迫る。岩を砕き、地面を抉りながらの一撃。
ルシアンは正面にいない。
踏み込みではなく、あらかじめ外した位置から斜めに跳ぶ。直撃は避けるが、風圧で体が流される。
(……重い)
着地と同時に踏み込み直す。すれ違いざまに斬る。
――弾かれる。
(硬い)
想定以上だ。刃が通らない。
地竜が即座に振り返る。尾が横薙ぎに振られる。跳ぶ。完全回避ではない。掠める。だが耐える。
その間にバルグラムが立て直す。
「こっちだ!」
再度踏み込み、首元へ全力の一撃を叩き込む。
鈍い音。通らない。
「……ちっ」
即座に引く。次の瞬間、地竜が咆哮する。
空気が震える。圧が乗る。
(……ただの威圧じゃない)
魔力が干渉してくる。思考が鈍るような重さ。それでも止まらない。
ルシアンは踏み込む。斬らない。触れる。黒を流し込む――イクリプス。
(……硬い)
食い込みが遅い。魔力抵抗が異常に高い。削れてはいる。だが僅か。
その間に、地竜が反応する。腕が振り下ろされる。回避が間に合わない。
バルグラムが割り込む。斧で受ける。衝撃が直撃する。大きく弾かれる。
「……問題ねぇ!」
すぐに立ち上がる。だが無傷ではない。
(単独じゃ無理だな)
理解する。だからこそ――
「削ります」
「任せろ!」
役割が決まる。
ルシアンが前へ出る。今度は回避だけではない。攻撃を誘う。
踏み込み。地竜が噛みつく。その瞬間、横へ滑る。完全には避けない。距離を詰めるための動き。
触れる。黒を流す。削る。遅い。だが確実。
その間にバルグラムが側面へ回る。斧を振るう。同じ箇所へ、何度も。通らないなら、壊すまで叩く。連撃。
地竜が暴れる。地面が砕け、岩が崩れる。それでも二人は離れない。
ルシアンは触れ続ける。削る。わずかずつでも奪う。バルグラムは叩き続ける。一点に集中して負荷を重ねる。
(……削れている)
ほんのわずかだが、確実に。
この戦いは短く終わらない。だが――
(崩せる)
二人は止まらなかった。




