第45話
第45話
バルグラムが足を止めた地点から先、空気は明確に変わっていた。濃い魔力の中に、さらに異質な層が重なっている。流れは乱れているはずなのに、中心だけが不自然なほど静かに沈んでいる。
ルシアンは一歩踏み込み、ゆっくりと視線を巡らせる。
(……ここだな)
“歪み”ではない。明確な“境界”。
その奥に、何かがある。
地面に手をかざす。魔力を流す。
瞬間、弾かれる。
(……封印)
バルグラムの言っていた通りだった。触れただけで分かる。外から干渉することを拒む構造。無理にこじ開ければ反発が来る類のもの。
「……どうだ」
後ろから声が飛ぶ。
「あります。間違いなく」
ルシアンは立ち上がる。
「ただ――」
一拍。
「普通には開けられませんね」
バルグラムが鼻を鳴らす。
「だろうな。俺もそこで止めた」
ルシアンは再び視線を落とす。
封印の構造をなぞる。魔力の流れ、組み方、重なり。
(……喰えるな)
完全に壊すのではない。
削る。
構造ごと取り込み、崩す。
イクリプスなら可能だ。
ただし――
(時間がかかる)
表層だけではない。深い。何層も重なっている。強引にやれば開くが、相応に時間を取られる。
ルシアンは静かに息を吐いた。
(……順番を変えるか)
目的はここだ。
だが、今すぐである必要はない。
バルグラムの方は素材が揃えばすぐに動ける。
なら――
「先に別の用を済ませます」
ルシアンは振り返る。
バルグラムがわずかに眉を動かす。
「……いいのか」
「ええ。これは時間がかかる」
視線だけで封印を示す。
「中途半端に触るより、後で一気に処理した方が早い」
一拍。
「あなたの方は、素材さえあれば終わるんでしょう」
バルグラムは短く息を吐いた。
「……まあな」
「なら先にそちらを」
即断だった。
迷いがない。
バルグラムは数秒だけルシアンを見る。
「……優先順位を間違えねぇタイプか」
「必要な順番にするだけです」
淡々と返す。
それで十分だった。
バルグラムは踵を返す。
「なら行くぞ。もう少し奥だ」
「はい」
ルシアンもすぐに続く。
一度だけ、背後を見る。
封印の場所。静かに沈む“何か”。
(逃げはしない)
確信がある。
だから今は離れる。
足を止めず、二人はさらに奥へ進む。
高純度の魔鉱石を探して。




