第44話
第44話
バルグラムの案内は迷いがなかった。岩場を縫うように進み、足場の悪い斜面も躊躇なく踏み越えていく。遠回りに見えて無駄がない。経験で最短を選んでいる動きだった。
ルシアンも黙って後を追う。すでに気配は読めている。戦闘になることも含めて、進行に支障はない。
先に動いたのは岩陰だった。
ストーンリザードが二体、同時に飛び出す。ほぼ同時に爪が振り下ろされる。
だが――
「右、任せろ」
バルグラムが一歩前へ出る。大斧が唸り、右側の一体を正面から叩き潰す。硬い鱗ごと砕く一撃。純粋な膂力と技術。
左はルシアン。
半歩ずらし、踏み込み、首元へ斬撃。浅い。だが止まらない。すぐに間合いを詰め、触れる。黒を流す。内側から削る。
動きが鈍る。
そこへ二撃目。断つ。
ほぼ同時に沈黙。
無駄がない。
「……悪くねぇな」
バルグラムが短く言う。
「そちらも」
それだけで十分だった。
さらに進む。魔物の密度は明らかに上がっていた。単発では来ない。間隔も短い。
マウンテンウルフが五体、挟むように現れる。
バルグラムが前へ出る。斧の一振りで一体を弾き飛ばす。だが群れは止まらない。
その隙にルシアンが横へ回る。二体目に触れ、削る。動きが鈍った個体を即座に処理。残りの連携も崩れる。
崩れた群れを、二人で順に潰す。
連携というより、干渉しない動き。互いの間合いを潰さず、必要なところだけ手を出す。
(……無駄がない)
ルシアンは内心で評価する。力だけではない。戦い慣れている。
さらに奥へ。
空気が一段と重くなる。魔力が濃いだけではない。“質”が変わっている。
その時――上から圧が落ちてきた。
ハーピー。だがこれまでとは違う。個体が大きい。翼の動きに無駄がない。
(……S相当)
急降下。
ルシアンが迎えに出る。爪を外し、斬る。だが止まらない。反撃が速い。回転して距離を取る。
「厄介だな」
バルグラムが踏み込む。斧を振り上げ、軌道を制限する。ハーピーが上昇しきれない。
その一瞬。
ルシアンが間合いへ入る。触れる。黒を流す。
抵抗は強い。だが削れる。
動きが鈍る。
そこへバルグラムの一撃。翼を叩き折る。落ちる。
ルシアンが止めを刺す。
沈黙。
短いが、今までより一段上の手応え。
「……この辺りからSランク相当のやつが混じり始める」
バルグラムが低く言う。
「ええ」
ルシアンも頷く。
だが苦戦はない。二人であれば処理できる範囲。
さらに進む。
戦闘は続く。Aランクが当たり前のように現れ、その中にS相当が混じる。だが流れは変わらない。
バルグラムが正面を押さえ、ルシアンが削る。
あるいは、ルシアンが崩し、バルグラムが叩き潰す。
どちらでも成立する。
止まらない。
そして――
ふと、バルグラムが足を止めた。
「……この先だ」
声が少しだけ低くなる。
ルシアンも止まる。
空気が違う。
濃い魔力の中に、さらに異質な“歪み”が混じっている。
流れが乱れているのに、中心だけが静かに沈んでいるような感覚。
(……ここか)
確信する。
バルグラムが前を見たまま言う。
「前に来たのはここまでだ」
一歩も踏み込まない。
「この先にある」
ルシアンは視線を奥へ向ける。
見えない。だが、分かる。
ここが境界だ。
その先に、封印されている“何か”がある。
ルシアンは一歩、踏み出した。
迷いはない。
ついに――目的地に辿り着いた。




