第43話
第43話
山岳の風が吹き抜ける。戦闘の余韻は消え、残っているのは砕けた岩と魔物の死骸だけだった。
バルグラムは斧を肩に担ぎ、ルシアンを見る。
「……で、目的があるんだろ」
短い問い。警戒はあるが、敵意はない。
ルシアンはわずかに間を置く。(……問題ない)戦闘の動きで分かる。判断、間合い、引き際。どれも信用に足る。
「ある場所を探しています」
隠さず言う。
バルグラムの目が細くなる。
「……どんな場所だ」
「魔力の流れが歪んでいる場所です」
一瞬の沈黙の後、バルグラムが低く息を吐いた。
「……やっぱりか」
小さく呟く。
「心当たりがあるんですか」
「ある。昔、一度だけ見つけた」
淡々と続ける。
「山の奥だ。明らかに流れが狂ってる場所があった」
一歩、岩に足をかける。
「中には入ってねぇ。入れなかった。封印されてたからな」
「……封印」
「触れただけで分かる。無理に壊すもんじゃねぇ類だ」
一拍。
「だから放置した。誰にも言ってねぇ。面倒になるだけだ」
ルシアンは頷く。
「そこへ行く気か?」
「はい」
「死ぬぞ」
「そのつもりはありません」
即答。バルグラムは鼻を鳴らした。
「……言うと思ったがな」
一拍置いて、視線を逸らす。
「俺も奥に用がある」
ルシアンは黙って聞く。
「魔鉱石だ。しかも高純度のやつだ」
斧を軽く叩く。
「この辺じゃ足りねぇ。もっと奥だ」
そして、少しだけ声が低くなる。
「……今、集落で長を決めてる」
ルシアンの視線がわずかに動く。
「候補は何人かいる。俺もその一人だ」
淡々としているが、その奥に確かな意志がある。
「選び方は単純だ。全員を黙らせる武器を打てるかどうか」
一拍。
「だから素材がいる。中途半端なもんじゃ意味がねぇ」
ルシアンは短く問う。
「認められていないんですか」
バルグラムは一瞬だけ黙る。
「……昔、集落を出た」
それだけ言う。
「止められてもな。勝手に出て、人間の国で鍛冶やってた」
視線は前のまま。
「戻ってきたのは五年前だ」
一拍。
「印象は最悪だ」
だが、声は揺れない。
「だから、腕で黙らせるしかねぇ」
ルシアンは理解する。言葉ではなく結果で覆すタイプ。
(……同じだな)
バルグラムが視線を戻す。
「で、だ」
「俺はその場所の“大まかな位置”を知ってる」
「お前はそこを探してる」
一歩近づく。
「代わりに、魔鉱石探しに付き合え」
さらに続ける。
「見返りはそれだけじゃねぇ。武器も打ってやる」
ルシアンの目がわずかに細くなる。
「……条件は」
「ねぇ」
即答。
「ただし、途中で死ぬな。それだけだ」
単純で、無駄がない。
ルシアンは一瞬だけ考え――
「分かりました。手伝います」
頷く。
成立。
バルグラムは小さく息を吐く。
「決まりだな」
背を向ける。
「まずはその場所だ。案内してやる」
歩き出す。
「位置を掴めば、後は好きにしろ」
ルシアンもすぐに続く。
並ばず、少し後ろ。
だが歩幅は合う。
言葉はない。だが目的は一致している。
封印の場所へ。その先にあるものへ。
そして――そのさらに奥へ。




