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果てなき世界  作者: 影川明空人
第2章
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第41話

第41話


 山岳地帯に入ってから数日、進み続けているが目的の場所には辿り着かない。理由は明確だった。周囲一帯を満たす魔力の密度が異常に高い。流れは安定せず、渦のように乱れ、常に形を変えている。


(……濃すぎる)


 呼吸をするだけで分かる。体内に入る魔力が重い。質が高い分、制御を誤れば逆に足を引く。通常なら利点になる環境が、ここでは“情報を潰すノイズ”になっていた。


 本来なら拾えるはずの違和感が、すべてこの中に埋もれる。魔力による探知は機能しない。どこを見ても同じように濃く、同じように歪んでいる。


(なら、自分で探すしかない)


 視る。感じる。歩く。魔力ではなく、空気の流れ、地形の歪み、足裏に伝わる感触。曖昧なズレだけを頼りに範囲を削る。それ以外に方法はない。


 だが、その“削る作業”すら簡単ではなかった。


(……多いな)


 魔物の数が異常だった。岩陰からストーンリザードが三体、ほぼ同時に飛び出す。落下と同時に爪が振り下ろされる。


 半歩ずらす。一体の軌道を外し、そのまま踏み込み首を断つ。二体目は回避と同時に腕へ触れ、黒を流し込む。内側から削る。抵抗はあるが短い。崩れる。


 三体目は距離を取るが、遅い。間合いを詰め、斬る。


 静寂は、すぐに破られる。


 別方向からゴブリンが四体。さらに上空、ハーピーの影。


(……休ませる気がないな)


 魔物は散発ではなく連続する。間隔が短い。まるでこの環境そのものが“湧き続けている”ような密度だった。


(この環境……魔物が生まれやすい)


 高密度の魔力が、発生源になっている。だから数が多く、質も高い。進めば戦闘は増え、止まれば寄ってくる。休息すら完全には取れない。


 夜も同じだった。岩場の影で短く体を休める。だが気配は消えない。遠くで鳴き声、近くで擦れる音。完全な静寂は訪れない。


(……削られるな)


 体力ではない。集中力。だが思考は鈍らない。むしろ研ぎ澄まされていく。余計なものが削ぎ落とされ、必要な判断だけが残る。


 数日さらに進む。戦い、排除し、進路を微調整しながら、少しずつ範囲を絞る。その中で、何度か同じような違和感に触れる。


(……また、ここか)


 魔力の流れに、わずかな“引っかかり”。だが場所は固定されていない。昨日感じた位置と、今日のそれはズレている。


(場所じゃないな)


 歪みそのものが動いている。流れの中に埋もれ、形を変えながら存在している。


 だから特定できない。


 ルシアンは足を止め、目を閉じる。魔力を頼らない。あえて遮断する。代わりに、自分の感覚だけに集中する。


 風の流れ。温度の差。音の反響。岩の配置。


 すべてを拾い、そこに混じる“違和感だけ”を切り出す。


 時間をかける。無理に進まない。


(……見えてきた)


 やり方はこれだ。場所を探すのではなく、“歪みの動き”を追う。流れの中で変化しないもの、それが中心に近い。


 再び歩き出す。今度は無駄がない。戦闘も最小限で処理し、余計な方向には逸れない。


 途中、マウンテンウルフの群れが襲いかかる。六体。連携あり。


 一体目を斬り、二体目の牙を受け流し、三体目に触れて削る。流れ作業のように処理していく。動きに迷いはない。


(……慣れたな)


 この環境、この密度、この戦闘頻度。


 すでに“前提”として処理できている。


 風が強く吹き抜ける。岩肌が軋む。魔力は相変わらず濃いままだが、その中でわずかな差が浮かび上がる。


 今までより、はっきりと。


 ルシアンは足を止め、視線を上げる。


(……近いな)


 確信に変わる。


 広大だったはずの山が、少しだけ“狭く”感じられる。


 目標が、輪郭を持ち始めている。


 ルシアンは再び歩き出す。今度は迷わない。無駄もない。


 山の奥、濃すぎる魔力の中で、探索は確実に核心へと近づいていた。


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