第417話
第417話
敵の攻勢は、さらに激しさを増していた。
『レオン、ミギカラ!』
「分かった!」
ルーチェの声に反応し、レオンが身体を沈める。
直後、頭上を魔族の剣が通過した。
「はぁっ!」
下から斬り上げる。
「ぐっ!」
魔族が後退。
そこへ。
『ワタシモ!』
ルーチェの周囲に光が集まる。
放たれた光が魔族を撃ち抜いた。
「がっ……!」
体勢を崩した魔族へ、レオンが踏み込む。
一閃。
「よし!」
『ヤッタ!』
「ああ! 次だ!」
『ウン!』
レオンとルーチェが次の敵へ向き直る。
その動きには、先ほどまで以上の余裕が生まれていた。
敵の数は多い。
四方から攻撃が飛んでくる。
それでもレオンは少しずつ、この状況に適応していた。
「…………」
フェルディナントは周囲の敵を捌きながら、その様子を確認する。
レオンは大丈夫だ。
完全に任せていいわけではない。
だが、逐一助ける必要はなくなっている。
問題は。
「ユリウス!」
「っ!」
ユリウスが剣を上げる。
魔物の爪を受ける。
「くっ……!」
力任せに押し返す。
そこへ別の魔物。
「――!」
ユリウスが振り返る。
だが、遅い。
「下がれ!」
フェルディナントが割って入る。
魔物の攻撃を受け流し、そのまま首を斬り裂いた。
「…………」
「ユリウス」
「……分かってます」
「なら集中しろ」
「はい」
返事はする。
だが、やはりいつものユリウスではない。
フェルディナントにも分かる。
剣が鈍い、判断が遅い。
何より、迷っている。
「…………」
ユリウスは唇を噛む。
また助けられた。
先ほどから何度目だ。
(何をしてるんだ、僕は……)
分かっている。
集中しなければならない。
考えるのは後。
レオンにも言われた。
それなのに、剣を振るうたび、周囲を見るたび。
目に入ってしまう。
フェルディナント、カトレア、レオン。
自分のせいで、三人はここにいる。
「…………っ」
魔物が迫る。
斬る。
次。
魔法。
避ける。
できる。
まだ戦える。
それなのに。
「ユリウス! 左!」
「!」
カトレアの声。
ユリウスが反応する。
左。
剣を持った魔族。
速い。
SS級。
「っ!」
剣を合わせる。
金属音。
「くっ……!」
重い。
ユリウスの身体が押し込まれる。
「この……!」
魔力を高める。
身体強化で押し返す。
すぐに反撃。
魔族が剣で受ける。
一撃、二撃、三撃。
「…………!」
戦える。
相手は強い。
それでも、対応できないほどではない。
ユリウスが踏み込もうとする。
「追うな!」
フェルディナントの声。
「…………っ」
足を止める。
魔族はそのまま距離を取った。
追わない。
今度は、言われた通りに。
「…………」
その時、別方向で複数の魔法陣が展開された。
「来るわよ!」
カトレアが叫ぶ。
炎、水、雷。
魔法が一斉に四人へ降り注ぐ。
「散るな!」
フェルディナントも魔法を展開。
水が広がり、炎を防ぐ。
カトレアが氷を作り出す。
飛来する魔法を次々と受け止めた。
「レオン!」
「大丈夫です!」
レオンが剣を振るう。
光を纏った剣が魔法を弾く。
『レオン、コッチモ!』
ルーチェが光を放つ。
別方向から迫っていた魔法と衝突。
爆発。
レオンはその中を抜ける。
「はぁっ!」
接近してきた魔物を斬る。
そのまま下がる。
深追いしない。
「…………」
フェルディナントが一瞬だけ見る。
やはり、レオンは問題ない。
むしろ戦えば戦うほど、動きが良くなっている。
「ユリウス!」
「!」
再び意識を戻す。
ユリウスの前に魔法。
「くっ!」
剣を振るい、弾く。
一つ、二つ、三つ、最後の一つ。
「――っ」
僅かに反応が遅れる。
横へ飛ぶ。
頬を掠める。
血が流れた。
「…………」
こんな攻撃、普段なら。
「考えるな!」
「!」
フェルディナントが叫ぶ。
「今のお前が考えても動きが鈍るだけだ!」
「…………」
「目の前だけ見ろ!」
「……はい!」
ユリウスが剣を握り直す。
その直後、強い気配。
「!」
前方でSS級の魔族が動いた。
一人ではない。
近接戦を仕掛けてくる者。
その後方では別の魔族が魔法を準備している。
「来るぞ!」
フェルディナントが前へ。
剣がぶつかる。
衝撃。
「っ!」
フェルディナントの足元が僅かに沈む。
すぐに受け流す。
反撃。
魔族が避ける。
「カトレア!」
「分かってる!」
後方から放たれた魔法。
カトレアが氷の壁を作る。
激突。
砕け散る氷。
「まだ来る!」
さらに魔法。
今度はレオンへ。
『レオン!』
「見えてる!」
かわす。
だが、その先に魔物。
「はぁっ!」
レオンが斬る。
『コッチハ、マカセテ!』
ルーチェが光を放つ。
横から迫っていた魔物の顔面を撃ち抜く。
「ありがとう!」
『ウン!』
レオンは止まらない。
ルーチェと共に次の敵へ。
一方。
「…………っ!」
ユリウスも魔物を斬る。
魔法をかわす。
さらに剣を受ける。
だが遅い。
普段よりも、明らかに。
「ユリウス!」
カトレアがユリウスの横へ入る。
迫っていた魔族の剣を弾いた。
「下がって!」
「僕なら――」
「いいから!」
「…………」
ユリウスが下がる。
カトレアが代わりに魔族と斬り結ぶ。
「…………っ」
まただ。
また、自分のせいでカトレアが戦っている。
(僕が……)
自分がもっとちゃんと戦えば。
フェルディナントも、カトレアも、ここまで自分を気にする必要はない。
分かっている。
分かっているのに。
「……っ」
思えば思うほど。
身体が動かない。
「ユリウス!」
「!」
正面。
魔物が大きく口を開く。
ユリウスが剣を構える。
その瞬間、別方向。
魔力。
「――!」
同時。
魔物は正面、魔法は横。
どちらを。
一瞬、迷った。
「ユリウス!」
カトレアが動く。
魔族と戦っていたにもかかわらず。
無理やり距離を取る。
ユリウスの横へ。
氷。
横から飛んできた魔法を防ぐ。
「――っ!」
だが、その瞬間。
「カトレア!」
フェルディナントが叫んだ。
先ほどまでカトレアと戦っていた魔族。
その姿が消えている。
「――!」
背後。
カトレアが振り向く。
剣が迫っていた。
防御。
間に合わない。
「くっ!」
身体を捻る。
刃が走る。
「――っ!」
血が飛んだ。
「カトレアさん!」
レオンの声。
「カトレア!」
フェルディナントが魔族へ斬りかかる。
魔族は無理をせず後退した。
「…………」
カトレアが数歩よろめく。
脇腹。
服が裂け。
そこから血が流れていた。
「大丈夫ですか!?」
ユリウスが駆け寄ろうとする。
「来ないで!」
「っ」
「持ち場を離れない!」
カトレアが剣を構え直す。
「でも、血が……」
「これくらい大丈夫よ」
「…………」
「戦える」
強がりではない。
まだ動ける。
致命傷でもない。
だが、傷を負った。
自分を守るために。
「……何で」
「何?」
「何で僕を……」
カトレアがユリウスを見る。
「何でって……」
そして、少し苛立ったように眉を寄せた。
「貴方を無事に連れて帰るのも、私たちの仕事なの!」
「…………」
「十四歳の子供を戦場で見捨てられるわけないでしょ!」
「子供って……」
「今はそこに文句言うところじゃない!」
「…………」
「分かったなら剣を構えて!」
「……はい」
ユリウスが剣を構える。
だが、視線が一瞬、カトレアの脇腹へ向く。
血。
自分のせいで流れた血。
「…………」
胸の奥が重い。
今まで感じたことのないほど、重い。
「ユリウス!」
レオンの声。
「っ!」
顔を上げる。
「今は前を見ろ!」
「…………」
「カトレアさんは俺たちが守ればいい!」
「……僕たちが?」
「ああ!」
レオンが剣を構える。
『ワタシモイルヨ!』
ルーチェがレオンの横で光を纏う。
「そうだな」
『ウン!』
「…………」
ユリウスは二人を見る。
そしてカトレア、フェルディナント。
もう一度、自分の剣を見る。
「…………」
まだ、頭の中は整理できない。
情けなさも、後悔も、消えていない。
それでも、剣を握る手に。
少しだけ、力が戻った。
その時。
「――!」
フェルディナントが表情を変える。
「全員、構えろ!」
前方。
SS級の魔族たちが動く。
それだけではない。
周囲の魔物も一斉にこちらを向いた。
さらに、後方を塞いでいた大型の魔物が、ゆっくりと動き始める。
「……冗談でしょ」
傷口を押さえながら、カトレアが剣を構える。
「どうやら」
フェルディナントも構える。
「休ませてくれる気はないらしいな」
ユリウスが息を呑む。
前、横、後ろ、再び敵が迫る。
そして、今度は先ほどまで以上に強い敵が一斉に。




