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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第418話

第418話


 敵が動く。


 前方から魔族、左右から魔物。


 そして後方では、退路を塞いでいた大型の魔物がゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「来るぞ!」


 フェルディナントが叫ぶ。


 直後、魔法が降り注いだ。


「カトレア!」


「分かってる!」


 カトレアが手を向ける。


 氷の壁。


 炎がぶつかる。


 爆発。


「くっ……!」


 傷口が痛む。


 それでも魔法を止めない。


「カトレアさん!」


「こっちはいいから前!」


「っ!」


 レオンが振り返る。


 魔物が迫っていた。


『レオン!』


「分かってる!」


 剣を振るい、爪を弾く。


 そのまま一歩踏み込み、胴を斬り裂いた。


『ツギ、ミギ!』


「ああ!」


 右。


 別の魔物。


 レオンが動くより先に。


『エイッ!』


 ルーチェから光が放たれた。


「ギャッ!」


 魔物が怯む。


「ありがとう、ルーチェ!」


『ウン! マカセテ!』


 レオンが踏み込む。


 一閃。


 魔物が倒れる。


「…………」


 ユリウスも戦う。


 剣を振るい、迫る魔物を斬る。


 次。


 魔法を避ける。


 だが。


「…………っ」


 視界の端。


 カトレアの姿が見える。


 脇腹から流れる血。


 自分を庇って負った傷。


「ユリウス!」


「!」


 フェルディナントの声。


 正面から魔族が迫っている。


「っ!」


 剣を上げる。


 激突。


「くっ……!」


 押される。


 身体強化を強め、押し返す。


 魔族が一度離れる。


 追わない。


 追ってはいけない。


「…………」


 分かっている。


 今度こそ、言われたことを守らなければならない。


 だが、それだけでは駄目だ。


 今の自分は、ただ守られている。


「ユリウス、右だ!」


「はい!」


 フェルディナントの声に従う。


 右から来た魔物を斬る。


 背後から魔法。


「――!」


 ユリウスが振り向く。


 だが、フェルディナントが水の魔法をぶつける。


「前だけ見てろ!」


「……はい」


 また、助けられた。


「…………っ」


 剣を握る。


 情けない。


 その言葉が、また頭に浮かぶ。


「はぁっ!」


 レオンの声。


 ユリウスがそちらを見る。


 レオンは戦っている。


 先ほどよりも、さらに動きが良くなっている。


 ルーチェと声を掛け合い、互いの死角を補い、敵の攻撃をかわし、必要以上に追わず、確実に倒している。


「…………」


 年齢は大して変わらない。


 なのに今の自分とは、まるで違う。


「ユリウス!」


「っ!」


 今度はカトレア。


「左!」


「分かってます!」


 左からの攻撃を剣で受け、弾く。


 反撃。


 魔族の肩を斬る。


「ぐっ!」


 魔族が下がる。


 止まる。


 追わない。


「…………」


 できる。


 落ち着け。


 今は目の前の戦いに。


 だが。


「ふむ」


「!」


 聞き覚えのある声。


 ユリウスを罠へ誘い込んだ魔族の一人。


 知略に長けた魔族が、こちらを見ていた。


「随分と大人しくなりましたね」


「…………」


「先ほどまでの威勢はどうしました?」


「黙ってください」


「自分の行動を後悔していますか?」


「…………!」


 剣を握る手に力が入る。


「分かりやすい」


 魔族が僅かに笑う。


「やはり、まだ子供ですね」


「……黙れ」


「ユリウス!」


 フェルディナントの声。


「相手の言葉に乗るな!」


「…………っ」


 分かっている。


 分かっているのに。


「まあ、当然でしょう」


 魔族は続ける。


「貴殿一人の行動で、三人を死地へ連れ込んだのですから」


「…………」


「黙れ!」


 レオンが叫んだ。


「!」


 ユリウスがレオンを見る。


「今は関係ないだろ!」


「ほう」


「俺たちはまだ生きてる!」


 レオンが魔物の攻撃を弾く。


「だったら、全員で帰ればいい!」


「…………」


 ユリウスが目を見開く。


「随分と前向きですね」


「当たり前だ!」


『レオン、マエ!』


「おっと!」


 レオンが攻撃をかわす。


 そのまま敵へ剣を振るう。


 魔族は小さく息を吐いた。


「……ならば」


 手を上げる。


「その余裕がいつまで続くか、試してみましょう」


 その合図で、周囲の敵が一斉に動いた。


「来るぞ!」


 フェルディナントが前へ。


 SS級の魔族と激突。


 剣と剣。


 衝撃が周囲へ広がる。


「っ!」


 別方向から魔法。


「させない!」


 カトレアが防ぐ。


 だが。


「くっ……!」


 傷口から再び血が流れる。


「カトレア!」


「大丈夫!」


 フェルディナントは動けない。


 目の前にはSS級。


 カトレアにも次々と魔法が飛ぶ。


 レオン、ユリウス。二人もそれぞれ敵に囲まれる。


「はぁっ!」


 レオンが剣を振るう。


 一体。


 かわす。


 二体目。


『レオン!』


 ルーチェの光が三体目を牽制する。


「助かった!」


『ウン!』


 レオンはまだ動ける。


 対して。


「…………っ!」


 ユリウスが剣を振るう。


 魔物を斬る。


 直後、背後。


「!」


 振り向く。


 間に合う。


 剣を合わせ、弾く。


「っ!」


 横から魔法。


 身体を沈め、かわす。


 さらに上。


「――!」


 魔物が飛びかかっている。


 剣を向け、雷で撃ち抜く。


「…………!」


 できた。


 今度は一人で。


 そう思った瞬間。


「ユリウス! まだだ!」


「え?」


 フェルディナントの声。


 足元。


 魔法陣。


「――!」


 いつの間に。


 地面から無数の槍が突き出す。


 ユリウスが跳ぶ。


 避ける。


 だが、空中。


「……しまっ」


 逃げ場がない。


 正面の魔族が剣を振り上げている。


「もらった!」


「――っ!」


 ユリウスが剣を構える。


 間に合わない。


「ユリウス!」


 誰かが叫んだ。


 次の瞬間。


 衝撃。


「――え?」


 目の前に。


 背中。


「ぐっ……!」


「レオンさん……?」


 レオンがいた。


 ユリウスと魔族の間へ割って入り。


 剣を受け止めている。


「このっ!」


 レオンが魔族を押し返す。


 だが、横から別の魔法。


『レオン!』


 ルーチェが光を放つ。


 魔法とぶつかり、弾ける。


 しかし、完全には止めきれない。


「っ!」


 レオンの身体を魔法が掠める。


 血が飛ぶ。


「レオン!」


『レオン!』


 カトレアとルーチェの声。


「大丈夫!」


 レオンが着地する。


 腕から血が流れている。


「…………」


 ユリウスが、動かない。


「ユリウス!」


「…………」


「ユリウス!」


「……何で」


「え?」


 ユリウスがレオンを見る。


「何で……僕を庇ったんですか」


「何でって……」


 レオンが一瞬。


 本当に分からないという顔をした。


「仲間だろ?」


「…………」


「それ以外に理由いるか?」


「でも……」


 ユリウスの声が震える。


「今回のことは僕のせいですよ」


「うん」


「…………」


 あっさり。


 レオンは頷いた。


「そこは帰ったらちゃんと謝った方がいいと思う」


「…………」


「たぶんめちゃくちゃ怒られるぞ」


「……何ですか、それ」


「でも」


 レオンが剣を構える。


「それと、今ここでユリウスを見捨てるのは別だろ」


「…………」


「今は全員で帰ることだけ考えよう」


 ユリウスは何も言えなかった。


 レオンの腕、血が流れている。


 カトレアも、傷を負っている。


 フェルディナントは、ずっと自分たちを守りながら戦っている。


「…………」


 自分のせいだ。


 それは変わらない。


 自分が勝手に追った。


 自分なら何とかなると思った。


 そして失敗した。


 それなのに三人はまだ、自分を守っている。


(……嫌だ)


「ユリウス?」


 レオンが見る。


(嫌だ)


 カトレアが傷つくのも、フェルディナントが自分を守るために無理をするのも、レオンが自分のせいで血を流すのも。


(そんなのは……嫌だ)


 ふと、思い出す。


 少し前、レオンに言われた言葉。


『たぶんいつかユリウスにも、剣を振る理由が見つかるよ』


「…………」


 剣を振る理由。


 今でも、そんなものが何なのか、よく分からない。


 でも。


「……レオンさん」


「ん?」


「一つ、お願いしてもいいですか」


「何だ?」


 ユリウスが剣を握り直す。


「少しだけ、僕に合わせてください」


「…………」


 レオンが笑った。


「ああ!」


「フェルディナントさん!」


「聞こえてる!」


「カトレアさんも!」


「何よ!」


「……僕が前を止めます」


 カトレアが目を見開く。


「だから、後ろをお願いします」


「…………」


 いつもなら、自分一人でやる。自分が倒す。自分の方が早い。


 そう言っていた少年が。


 初めて自分から、仲間へ頼った。


「……分かったわ」


 カトレアが剣を構える。


「でも、勝手に行ったら今度こそ殴るからね」


「行きませんよ」


「本当に?」


「……たぶん」


「ユリウス!」


「冗談です」


 ほんの少しだけ、いつもの調子が戻る。


 フェルディナントが笑った。


「なら、頼むぞ」


「はい」


 ユリウスが前を見る。


 大量の魔族、魔物、SS級の強敵。


 状況は、何も変わっていない。


 むしろ、悪くなっている。


 それでも、先ほどまでとは違った。


「…………」


 ユリウスが剣を構える。


 一人で勝つ必要はない、一人で全部倒す必要もない。


 三人がいる。


 なら、四人で戦えばいい。


「行きます」


 地面を蹴る。


 今度は一人ではなく。


「レオンさん!」


「ああ!」


 レオンも同時に駆け出した。


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