第416話
第416話
剣を振るう。
迫ってきた魔物を斬る。
次。
横から来た魔族の攻撃を受ける。
「…………っ」
弾き、距離を取る。また次が来る。
ユリウスは戦い続けていた。
だが。
「…………」
集中できない。
こんなことは珍しかった。
敵の動きは見えている。何をしてくるのかも分かる。
それなのに、僅かに反応が遅れる。
剣を振るう判断が遅れる。魔法を使う判断が遅れる。
理由は分かっていた。
(僕のせいだ)
今回の状況、明らかに自分が原因だった。
止まれと言われた。
何度も。
カトレアにも、レオンにも。
それでも聞かなかった。
自分なら倒せると思った。
前回も圧倒した相手。
今回も攻撃は当たらなかった。
こちらの攻撃は通っていた。
だから、一人で何とかなる。
そう思っていた。
結果、罠に嵌められた。
フェルディナント、カトレア、レオン。
三人まで巻き込んだ。
「…………」
魔物の爪を剣で受ける。
「くっ……!」
押し返し、雷を放つ。
魔物が吹き飛ぶ。
倒せる。
今だって戦えている。
それなのに。
周囲を見る。
大量の魔物と魔族。
その中には、自分よりも明らかに強い気配も存在している。
(父さんなら……)
父。
ライナー・クロイツ。
第一隊隊長。
幼い頃から何度もその背中を見てきた。
父なら、この状況でも一人で突破できたかもしれない。
敵を斬り、魔物を倒し、包囲を破って何事もなかったように帰ってくる。
だが、自分は。
「…………っ」
できない。
一人だったなら、とっくに死んでいる。
大量の魔物に囲まれ、魔族に狙われ、どこかで攻撃を受け、そのまま蹂躙されて。
(僕は……)
今。
生きている。
それは自分が強いからではない。
三人がいるから。
フェルディナントが、カトレアが、レオンが。
自分を助けているから。
(情けない……)
剣を握る手に力が入る。
何でもできた。
一度見れば、大抵のことはできる。
剣も、魔法も、誰かが何度も練習して身につけることを、自分は簡単に身につけられた。
だから、自分ならできると思っていた。
なのに。
「…………」
情けない。
その言葉が頭から離れない。
「ユリウス!」
「――!」
声。
顔を上げる。
目の前に魔族の剣が迫っていた。
「っ!」
反応が遅れた。
避けられない。
だが、剣が届く直前。
「はぁっ!」
横から飛び込んできたレオンが攻撃を受け止めた。
金属音。
「くっ!」
レオンが魔族の剣を弾く。
そのまま蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!」
魔族が後退する。
「ユリウス!」
「…………」
「集中しろ!」
レオンが叫ぶ。
「今は戦ってるんだぞ!」
「……分かってますよ」
「分かってない!」
「…………!」
レオンがユリウスを見る。
「考えるのは後にしろ! 今は生き残ることだけ考えろ!」
「…………」
「俺たち全員で帰るんだ!」
それだけ言うと、レオンは再び前を向いた。
「ルーチェ!」
『ウン! レオン、ヒダリ!』
「ああ!」
レオンが走る。
左から迫った魔物の攻撃をかわし、斬る。
その直後、別の魔物がレオンへ飛びかかった。
『レオンニ、テヲダサナイデ!』
ルーチェの周囲に光が集まる。
次の瞬間、眩い光が一直線に放たれた。
「ギャッ!」
レオンへ飛びかかろうとしていた魔物を光が撃ち抜く。
魔物の身体が大きくよろめいた。
「ありがとう、ルーチェ!」
『エヘヘ! マカセテ!』
嬉しそうに笑いながら、ルーチェがレオンの傍を飛ぶ。
『レオン、ツギクルヨ!』
「ああ!」
すぐに次へ。
「…………」
ユリウスはその背中を見る。
「ユリウス!」
今度はフェルディナント。
「右だ!」
「っ!」
振り向く。
魔法が迫っている。
ユリウスが防ごうとするより早く、水の壁が展開された。
衝突。
魔法が弾ける。
「ぼさっとするな!」
「……すみません」
フェルディナントは返事をせず、周囲を見る。
「…………」
レオン、ユリウス。
二人の動きを確認する。
そして、僅かに位置を変えた。
ユリウスに近づく。
「カトレア!」
「分かってる!」
カトレアも気づいていた。
ユリウスの動きが悪い。
先ほどまでとは明らかに違う。
一方で。
「はぁっ!」
レオンが魔族の攻撃をかわす。
そのまま懐へ。
一閃。
さらに背後から迫る魔物。
『ウシロ!』
「分かってる!」
振り返らない。
一歩前へ。
爪が空を切る。
身体を回転させながら剣を振るう。
魔物の身体が斬り裂かれた。
「…………」
フェルディナントが僅かに目を細める。
(こいつ……)
最初より動きが良くなっている。
この状況に慣れてきている。
敵が多く、攻撃がどこから来るか分からない。
一瞬の判断を間違えれば死ぬ。
そんな状況の中、レオンの動きは少しずつ研ぎ澄まされていた。
ルーチェの補助もある。
それだけではない。
自分で周囲を見ている。
敵の動きを読んで、危険を察知している。
今では、ほとんどカバーを必要としていない。
(なら)
フェルディナントがユリウスを見る。
こちらだ。
「ユリウス、下がれ!」
「え?」
「いいから下がれ!」
直後、巨大な炎が迫る。
「――!」
フェルディナントが前へ出る。
水。
激突。
炎と水がぶつかり、大量の蒸気が広がった。
「ちっ……!」
威力が高い。
今までの敵とは違う。
「フェルディナント!」
「ああ。分かってる」
カトレアも表情を変える。
蒸気の向こう。
気配。
一つ。いや複数。
「ようやく出てきたか」
フェルディナントが剣を構える。
姿を現したのは魔族。
これまで周囲にいた者たちとは、纏う魔力が明らかに違う。
SS級。
「…………」
ユリウスを誘い込んだ魔族もいる。
その横。
別の魔族が剣を抜いた。
地面を蹴る。
「速――」
ユリウスの目が見開かれる。
狙いは自分。
「させない!」
カトレアが割って入る。
剣が激突する。
「くっ……!」
重い。
カトレアの足が地面を滑る。
「カトレアさん!」
「前を見なさい!」
ユリウスの背後。
魔法陣。
「っ!」
今度は反応する。
振り返り、剣を振るい、魔法を弾く。
だが、その瞬間にも別方向から魔物が迫る。
「ユリウス!」
フェルディナントが斬り捨てる。
「…………っ」
また助けられた。
「気にするな! 今は戦え!」
「……はい!」
ユリウスが剣を構え直す。
だが、敵の攻勢は止まらない。
魔物、魔族。
そして、今まで後方にいたSS級の魔族たちまで戦闘へ加わり始めた。
「レオン!」
「大丈夫です!」
レオンは剣を振るう。
攻撃をかわす。弾く、斬る。
動きはさらに良くなっている。
対してユリウスは。
「…………っ」
剣を振るう。
遅い。
普段なら見逃さない隙を逃す。普段ならかわしていた攻撃を防御する。
普段なら一人で処理していた敵を、フェルディナントとカトレアに助けられる。
焦る。
情けない。
そう思えば思うほど、身体が動かなくなる。
「…………」
フェルディナントがそんなユリウスを見る。
そして周囲で増え続ける敵。
前へ出てきたSS級の魔族。
後方を塞ぐ大型魔物。
「……これは」
小さく息を吐く。
先ほどより明らかに、状況は悪くなっていた。




