第415話
第415話
状況は最悪だった。
前、右、左、そして後方。
どこを見ても敵がいる。
魔族、魔物。
その数は、四人で正面から相手をするにはあまりにも多い。
「来るぞ!」
フェルディナントの声。
「はい!」
レオンが剣を構える。
直後、正面から三体の魔物が飛び込んできた。
「はぁっ!」
一体目の攻撃を弾く。
返す剣で斬りつける。
倒れるのを確認するより先に、身体を捻る。
二体目。
迫る爪をかわし、その懐へ。
一閃。
『レオン、ウエ!』
「っ!」
ルーチェの声。
頭上から魔法。
レオンが横へ飛ぶ。
地面が弾ける。
だが着地した先、別の魔族が既に剣を振り上げていた。
「――!」
間に合わない。
その瞬間。
金属音。
「危ないよ」
フェルディナントだった。
魔族の剣を受け流し、そのまま斬り返す。
「ありがとうございます!」
「礼はいい! 次が来る!」
「はい!」
休む暇などない。
次から次へと敵が押し寄せてくる。
「邪魔です!」
ユリウスが剣を振るい、魔物を斬り捨てる。
続けて手を向けた。
雷が走る。
「ギャアアアッ!」
二体、三体。
魔物がまとめて倒れる。
その隙間を抜け、魔族が接近した。
「見えてますよ」
ユリウスが振り向く。
剣と剣がぶつかる。
一撃、二撃、三撃。
ユリウスが押す。
相手は後退する。
「このっ――」
「ユリウス! 前に出すぎ!」
カトレアの声。
「大丈夫です!」
「だからそれをやめなさいって言ってるの!」
ユリウスが魔族へ踏み込もうとする。
だが、その横で別の魔物が口を開いた。
魔力が集まる。
「っ!」
ユリウスも気づく。
しかし、それより先に氷の刃が魔物へ突き刺さった。
「ギッ!?」
カトレアが魔物を睨む。
「周りを見なさい!」
「……見てましたよ」
「見てたら今の動きはしない!」
「…………」
「下がって!」
ユリウスが僅かに顔をしかめる。
それでも、今度は従った。
後ろへ下がる。
「…………」
カトレアが一瞬だけユリウスを見る。
そしてすぐに前へ向き直った。
四人とも戦えている。
レオンも、ユリウスも、この数の敵を前にしてなお、次々と魔族や魔物を倒している。
だが、この状況を切り抜けられるかは別の話だった。
「フェルディナント!」
「分かってる!」
カトレアの死角から迫っていた魔法。
フェルディナントが水の魔法をぶつけ、軌道を逸らす。
その直後。
「レオン、下がれ!」
「え?」
「いいから!」
レオンが反射的に下がる。
直前までいた場所へ巨大な腕が振り下ろされた。
轟音。
地面が砕ける。
「くっ……!」
「ぼさっとするなよ!」
「すみません!」
フェルディナントはそのまま別の魔族の攻撃を受け流す。
「……ったく」
レオン、ユリウス。
二人とも強い。
そこに疑いはない。
既にこの戦場でも十分に戦力となっている。
それでも、二人に何かあった時、仕方がなかったでは済まされない。
レオンはアーカディアの学生。
そしてユリウスは、まだ十四歳の子供だ。
「カトレア!」
「何!」
「二人を前に出しすぎるな!」
「分かってるわよ!」
カトレアも同じことを考えている。
自分たちだけなら、もっと前へ出られる。もっと攻められる。
だが、今は違う。
二人の動きや周囲の敵、互いの位置を確認しながら、戦わなければならない。
「…………」
フェルディナントが周囲を見る。
敵はまだ多い。
倒している。
確実に倒している。
それなのに、減ったように見えない。
そして、さらに奥には強い気配。
先ほどユリウスを誘い込んだ魔族。
それ以外にも、SS級の気配が複数ある。
後方にはSS上位の大型魔物。
「……厳しいな」
小さく呟く。
「フェルディナント?」
「いや」
カトレアへ視線を向ける。
「全部倒して戻るのは無理だ」
「…………」
カトレアも周囲を見る。
そして。
「そうね」
即座に同意した。
四人で敵を全滅させる。
不可能とは言わない。
だが、そのためには攻めなければならない。
消耗するし、傷も増える。
何より。
レオンとユリウスを危険に晒すことになる。
「レオン! ユリウス!」
「はい!」
「何ですか?」
「方針を変える!」
フェルディナントが迫る魔物を斬り払う。
「倒すことを優先するな!」
「え?」
「ここを突破するんじゃないんですか?」
「しない!」
フェルディナントが即答する。
「この状況で無理に突破しようとすれば消耗する。俺たちの目的は敵を倒すことじゃない」
剣を構え直す。
「生き残ることだ」
「…………」
「本隊は俺たちがいなくなったことに気づく。必ず助けが来る」
カトレアも続ける。
「それまで耐えるわよ」
「でも――」
ユリウスが口を開く。
「ユリウス」
カトレアが遮った。
「今度は聞きなさい」
「…………」
強い声だった。
ユリウスは何も言わない。
「勝手に敵を追わない。無理に倒そうとしない。私たちから離れない」
「…………」
「返事は?」
「……分かりました」
「よし」
カトレアが前を向く。
「レオンも」
「はい!」
「ルーチェも周囲をお願い」
『マカセテ!』
四人が距離を縮める。
先ほどまでよりも。
さらに近く。
互いを守れる位置へ。
「攻撃は必要最低限!」
フェルディナントが指示を飛ばす。
「深追いするな! 敵が下がったら追わなくていい!」
「はい!」
「分かりました」
「魔法も無駄撃ちしない! 長くなると思いなさい!」
カトレアが飛んできた魔法を氷で防ぐ。
ユリウスも剣を構え直した。
攻めるためではなく、守るために。
「…………」
レオンが息を整える。
周囲を見る。
大量の敵。逃げ道はない。
助けがいつ来るかも分からない。
それでも。
「耐えればいいんですね」
「ああ」
フェルディナントが笑う。
直後、再び魔物たちが殺到する。
「来るわよ!」
「はい!」
レオンが剣を握る。
ユリウスも隣で構える。
フェルディナントとカトレアが二人を挟むように立つ。
倒し切る必要はない。
突破する必要もない。
ただ生き残る。
助けが来る、その時まで。
四人は持久戦へと切り替えた。




