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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第414話

第414話


 同じ頃、戦場の別の場所でも、激しい戦闘が続いていた。


「《サンダー・ランス》!」


 放たれた雷が魔物の身体を貫く。


「ギャアアアッ!」


 倒れる魔物。


 その横から別の魔物が飛び出すが。


「遅い!」


 テオドールが杖を向ける。


 地面が隆起し、魔物の足を止める。


 そこへヴィオラの槍。


 一撃で急所を貫いた。


「次、右から来る!」


「ああ!」


 以前なら、魔法を放つことに意識を向けすぎていただろう。


 だが、今は違う。


 魔法を撃つ、周囲を見る、移動する、仲間の位置を確認する。


 まだ完璧とは言えない。


 それでも、この半月で随分と慣れた。


 少なくとも、今の戦いに危なげはない。


「…………」


 ルシアンはそんなテオドールを横目に見ながら剣を振るう。


 一体。


 さらに一体。


 近づいてきた魔物を淡々と斬り伏せる。


 その間にも、意識の一部を別の場所へ向けていた。


(レオンは少しピンチですね)


 ユリウス、レオン、フェルディナント、カトレア。


 四人は既に本隊から大きく離れている。


 そして、周囲には多数の敵。


 退路も塞がれた。


(随分と奥まで誘い込まれましたね)


 ルシアンは戦いながら、四人の状況を把握していた。


 別に、この戦場全てを見通しているわけではない。


 もっと単純な理由だった。


 レオンの影。


 そこには随分前から、ルシアンの分身が潜んでいる。


 レオン本人にも気づかれないように。


 ずっと。


(レオンには死なれては困りますからね)


 勇者であるレオンは、これから先の計画に必要不可欠な存在。


 何より、ルシアン自身もレオンを死なせるつもりなどなかった。


 だから、万が一の時に手を出せるよう、あらかじめ分身を潜ませている。


 今回のユリウスの突出も、それを追ったレオンたちの動きも、全て把握していた。


「ルシアン!」


「はい」


 ヴィオラの声。


「前を片付ける! 左をお願い!」


「分かりました」


 ルシアンが手を向ける。


 魔法が放たれる。


 迫っていた魔物がまとめて吹き飛んだ。


 そのまま剣を振り、残った一体を斬り伏せる。


(さて)


 戦いながら気配を探る。


 遠く離れた場所、レオンたちの周囲には強い気配がいくつもある。


 SS級の魔族、SS級の魔物、数も多い。


(ピンチはピンチですが……)


 助けるつもりはなかった。


 少なくとも今は。


(この程度は自分たちで乗り切ってもらわなければ困ります)


 この先レオンが戦う相手は、今とは比較にならない。


 四天王、魔王。


 そして、その先に待つもの。


 ここでルシアンが手を出さなければ切り抜けられないようでは困る。


 それに。


(即死でなければ、どうとでもできますしね)


 分身はすぐ近くにいる。


 本当に危険になれば、いつでも介入できる。


 多少の傷なら問題ない。


 命さえ残っていれば助けられる。


 だから手を出すのは、本当に絶体絶命になった時だけ。


「はっ!」


 ヴィオラの槍が魔族の攻撃を逸らす。


「テオドール!」


「分かっています!」


 雷撃。


 魔族が体勢を崩す。


 そこへアリシアが踏み込んだ。


 ルシアンも横から迫る魔物を斬る。


 連携に問題はない。


(テオドールも随分慣れましたね)


 最初の頃とは違う。


 周囲を見る余裕も出てきた。


 魔法を撃つことだけに集中していない。


 この調子なら、少なくとも今回の試験で求めていたものは得られそうだった。


 ルシアンは再び気配を探る。


(ノエルは……)


 少し離れた場所。


 第七隊と共にノエルも戦場へ出ている。


 周囲の気配を確認する。


 特に問題はない。


 近くに突出して強い敵もいない。


(こちらも大丈夫そうですね)


 さらに範囲を広げる。


 戦場の各所で激突する強大な気配。


 隊長たちもそれぞれSS上位の魔物や魔族を相手にしている。


 だが。


(こちらも、もう少しでしょうか)


 均衡は崩れ始めている。


 ルミナス騎士団側へ。


 隊長たちの戦いが決着すれば、余裕のできた者から他の場所へ回れる。


 そうなれば戦況は一気に傾くだろう。


「…………」


 その時、ルシアンが僅かに目を細めた。


(あれは……)


 戦場から離れた場所。


 直接戦闘には参加せず、遠方から戦場全体を見ている気配が一つ。


 魔族。


 戦っていない。


 だが、周囲の魔族たちへ何かを伝えている。


 その直後、本隊近くの魔族と魔物が一斉に動きを変えた。


(なるほど)


 どうやらあれが指示を出しているらしい。


 戦場を俯瞰し、各所へ指示を送り続けている。


「…………」


 ルシアンは周囲を見る。


 ヴィオラ、アリシア、レイモンド、テオドール。


 全員が目の前の敵へ意識を向けている。


 他の騎士たちも同じ。


 誰もルシアンを見ていない。


 剣を振るい、魔物を斬る。


 その動作の最中、僅かに魔力を動かした。


 遠方。


 戦場を見下ろしていた魔族が。


「――?」


 何かに気づく。


 だが、もう遅い。


 次の瞬間、その姿が消えた。


 悲鳴すらない。


 何が起きたのかを理解する時間もない。


 跡形もなく。


 ただ、そこにいた魔族だけが消え去った。


「…………」


 ルシアンは何事もなかったかのように剣を振るう。


「ギャッ!」


 目の前の魔物が倒れる。


 少しして、変化が起きた。


「……?」


 ヴィオラが眉を寄せる。


「敵の動きが……」


「少し鈍りましたね」


 アリシアも気づく。


 先ほどまで統率されていた敵の動き。


 それが僅かに乱れ始めている。


 攻める場所や退くタイミング、増援を送る場所。


 少しずつ噛み合わなくなっていた。


「何かあったのか?」


 テオドールが周囲を見る。


「さあ」


 ルシアンは剣についた血を払う。


「こちらにとっては好都合ですね」


「それはそうだが……」


「話は後!」


 ヴィオラが槍を構える。


「今のうちに押すわよ!」


「はい!」


「ああ!」


 再び戦闘が始まる。


 ルシアンも前へ出る。


 そして、もう一度だけ遠く離れたレオンたちの状況を確認した。


(少しは手助けしましたが)


 敵全体の統率は崩した。


 隊長たちも、そう遠くないうちに目の前の敵を倒す。


 そうなれば、救援が動けるようになる。


(あとは、なるべく自力でどうにかしてほしいですね)


 レオンなら、きっとこの程度では終わらない。


 そう思いながら、ルシアンは次の魔物へ剣を振るった。


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