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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第413話

第413話


「待ちなさい、ユリウス!」


 カトレアの声が飛ぶ。


 だが。


「大丈夫です!」


 ユリウスは止まらない。


 視線の先。


 先ほど斬りつけた魔族が、こちらへ魔法を放ちながら後退している。


 炎が迫るが、身体を傾けてかわす。


 続けて風、跳ぶ。


 着地と同時に地面を蹴った。


「逃がしませんよ」


「くっ……!」


 ユリウスの剣が魔族の身体を掠める。


 魔族がさらに後退する。


 距離が開く。


 追う。


 魔法が飛んでくる。


 かわす。


 さらに追う。


 その繰り返し。


「ユリウス!」


 後方からレオンの声。


「一回止まれ!」


「あと少しです!」


 ユリウスは前だけを見ていた。


 相手の動きは完全に見えている。


 魔法も当たらない。


 距離を詰めれば攻撃も通る。


 前回と何も変わらない。


 自分が勝つ。


 それだけだった。


「くそっ!」


 レオンが速度を上げる。


 その後ろをフェルディナントとカトレアも追っていた。


「全然聞いてないじゃない!」


「だから言っただろ。返事だけだって」


「そんなこと言ってる場合!?」


「分かってる!」


 フェルディナントが周囲へ視線を走らせる。


「……まずいな」


「何が?」


「離れすぎてる」


 カトレアも振り返る。


「…………!」


 乱戦の中。


 いつの間にか第一隊の本隊がかなり遠くなっていた。


 周囲には魔族と魔物。


 戦闘を続けながら移動してきたことで、距離の感覚が狂っている。


「ユリウス! もういい! 戻るわよ!」


「でも、もう少しで――」


「命令よ!」


「…………」


 ユリウスが僅かに速度を落とす。


 その時、前方の魔族が振り返った。


「……ふっ」


「?」


 笑った。


 先ほどまで逃げ続けていた魔族が。


 ユリウスを見て笑った。


「――ユリウス!」


 フェルディナントの声が響く。


 直後。


 轟音。


「っ!?」


 大地が揺れた。


 背後。


 レオンたちが振り返る。


「なっ……!」


 巨大な何かが地面へ降り立っていた。


 魔物。


 それも。


 今まで戦ってきたものとは明らかに違う。


「SS上位……!」


 カトレアの表情が変わる。


 巨大な魔物が咆哮する。


 空気が震えた。


「グオオオオオオオオオッ!!」


「くっ!」


 それだけで風が吹き荒れる。


 だが、問題はそれだけではない。


「後ろ!」


 レオンが叫ぶ。


 大型の魔物の周囲。


 先ほどまで自分たちが通ってきた場所へ、次々と敵が集まってくる。


 魔物、魔族。一体、二体。そんな数ではない。


「……嘘でしょ」


 カトレアが呟く。


 大量。


 完全に道が塞がれていく。


「いつの間に……」


 レオンが周囲を見る。


 右、敵。左、敵。後ろには大型の魔物と、大量の魔族、魔物。


「…………」


 フェルディナントが剣を構えた。


「やられたな」


「フェルディナントさん?」


「囲まれた」


 その一言。


 レオンが息を呑む。


「…………」


 ユリウスも足を止めていた。


 目の前、追い続けていた魔族。


 先ほどまで必死に逃げていたはずの相手が、もう逃げていない。


「……どういうこと?」


 ユリウスが尋ねる。


「どういうこと、ですか」


 魔族が笑う。


「…………」


「まだ分からないか?」


 傷だらけの身体。


 ユリウスに斬られ、血を流している。


 それでも、その顔には余裕が戻っていた。


「俺がお前から逃げていた理由だよ」


「……僕に勝てないからでしょ?」


「ああ」


 あっさりと認めた。


「お前は強い」


「…………」


「前回、嫌というほど思い知らされたよ」


 魔族が自分の傷へ目を向ける。


「正面から戦えば、俺ではお前には勝てないだろう」


「だったら――」


「だからこそだ」


 言葉を遮る。


「勝てない相手と、正面から戦う必要などない」


「…………」


 ユリウスの表情が僅かに変わる。


「前回の戦いで、お前のことはよく分かった」


「僕のこと?」


「ああ」


 魔族が笑う。


「強い。非常に強い。それほど若いにもかかわらず、俺を一方的に追い詰めるほどに」


「…………」


「そして――」


 その目が細められる。


「逃げれば、追ってくる」


「……!」


「自分なら倒せる。自分なら問題ない。そう思えば、周囲が何を言おうと追ってくる」


「…………」


「実に分かりやすい」


 ユリウスの顔から、僅かに余裕が消えた。


「だから、わざと……?」


「ああ」


 魔族が両手を広げる。


「お前をここまで連れてくるためだよ」


 その言葉と同時、周囲から次々と気配が現れる。


 魔族、魔物。


 先ほどまで乱戦の中に紛れていた敵が、こちらへ集まり始めている。


「それだけじゃないわ」


 カトレアが周囲を見る。


「こいつら……最初から私たちを通してたのよ」


「…………!」


 レオンも気づく。


 ユリウスを追っている間。


 敵はいた。


 戦いもした。


 だが、進めないほどではなかった。


 まるでこちらが奥へ進めるように、道を残されていた。


「気づくのが遅かったね」


 別の声。


「!」


 全員がそちらを見る。


 魔族の一人が、ゆっくりと前へ出てくる。


 以前、ルシアンたち第四隊の前に現れた魔族。


 周囲を観察し、戦況を見ながら戦っていた魔族だった。


「ふむ」


 魔族がユリウスを見る。


「話に聞いていた通りだ」


「…………」


「貴殿は随分と強いようだが」


 僅かに笑う。


「少々、分かりやすすぎますね」


「…………っ」


 ユリウスが剣を握る手に力を込めた。


「前回の戦いで、こちらも学ばせてもらいました」


 魔族が周囲へ視線を向ける。


「若い者の中に、随分と厄介な者たちがいる」


 レオン。そしてユリウス。


「成長される前に消しておくべきだと判断しましてね」


「最初から……俺たちを?」


 レオンが呟く。


「全員が来るとは限りませんでしたが」


 魔族がユリウスを見る。


「少なくとも、貴殿なら来ると思っていましたよ」


「…………」


 ユリウスは何も言えない。


 初めてだった。


 自分が相手を見ていたのではない。


 自分が見られていた。


 自分の行動を読まれ、自分の性格を利用され、ここまで誘い込まれた。


「……ユリウス」


 カトレアが前へ出る。


 ユリウスを庇うように。


「話は後よ」


「…………」


「フェルディナント」


「ああ」


 フェルディナントも剣を構える。


「レオン、ユリウス。俺たちから離れるな」


「はい!」


「…………」


「ユリウス!」


「……分かりました」


 ユリウスも剣を構える。


 周囲には大量の敵。


 そして本隊へ戻る道を塞ぐ、SS上位の大型魔物。


 完全に退路を断たれていた。


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