第410話
第410話
大規模試験も、残すところ一週間。
長いと思っていた一ヶ月の試験も、終わりが見え始めていた。
そんな中、ルミナス騎士団本部に一つの報告が入った。
「魔族の集団?」
レオンが聞き返す。
「ああ」
アレスが頷いた。
「第七隊が魔族領内で発見した。かなりの規模らしい」
第一隊の面々が集められている。
レオン、グランヴェル、レティシア。
そしてユリウスもその場にいた。
「目的は分かっているのか?」
グランヴェルが尋ねる。
「今のところは分かっていない。ただ、こちらへ向かって移動している」
「また攻めてくるつもりでしょうか?」
「可能性はあるな」
先日の砦での防衛戦。
あれから大規模な攻勢は確認されていなかった。
しかし。
「それと、第七隊から追加の報告がある」
アレスの表情が僅かに引き締まる。
「確認された魔族の中に、先日第三隊の砦を襲撃した連中がいるそうだ」
「……あいつらか」
レオンも表情を変えた。
戦斧を使う魔族、剣を使う魔族、剣と魔法を併用していた魔族。
さらに、ユリウスが一方的に追い立てていた魔族もいる。
「SSクラスが複数いることも確認されている」
フェルディナントが続ける。
「今回はかなり大きな任務になるよ」
「第一隊だけではないんですか?」
レティシアが尋ねる。
「ああ。今回は第一隊、第二隊、第四隊、第七隊で迎撃する」
「四つの隊か……」
レオンが呟く。
これまで経験した任務の中でもかなりの規模だった。
「第七隊が敵の動きを追う。第二隊は機動力を活かして敵の側面を抑える。第四隊は各隊の援護」
「そして俺たち第一隊が正面か」
グランヴェルが笑う。
「分かりやすくていい」
「楽しそうにするな」
アレスが言う。
「今回はSSクラスが複数いる。数も多い。慎重に進めるぞ」
「当然だ」
グランヴェルが答える。
その横。
「…………」
カトレアがユリウスを見る。
「ユリウス」
「はい?」
「貴方は絶対に勝手に動かないでよ」
「分かってますよ」
「本当に?」
「はい」
「…………」
カトレアは疑わしそうに睨む。
「何ですか?」
「信用できないのよ」
「酷いですね」
「今まで何回同じことを言ったと思ってるの!」
「でも、ちゃんと帰ってきてるじゃないですか」
「そういう問題じゃない!」
また始まった。
レオンが苦笑する。
この半月、ユリウスは何度も任務に同行した。
だが、突出する癖は未だに直っていない。
敵を見つければ誰よりも先に向かう。
自分で倒せると判断すれば、味方を待たずに仕掛ける。
その度にカトレアたちから注意されていた。
「今回はいつもと違うからね」
カトレアが続ける。
「SSクラスが何人もいるの。貴方一人でどうにかできる相手じゃないわ」
「分かってます」
「なら、絶対に指示を聞くこと」
「はい」
「勝手に追いかけない」
「はい」
「一人で敵の中に突っ込まない」
「はい」
「……本当に分かってる?」
「分かってますよ」
「…………」
カトレアがさらに睨む。
しかし、ユリウスは涼しい顔。
「返事だけはいいんだよな……」
レオンが小さく呟く。
「いつものことだ」
フェルディナントが苦笑する。
「だから心配なのよ」
「まあまあ」
「貴方ももっと強く言いなさいよ!」
「何で俺が怒られるんだよ」
レオンはユリウスを見る。
「ユリウス」
「何ですか?」
「今日は本当に一人で行かない方がいいぞ」
「レオンさんまで?」
「ああ」
レオンは真剣な表情だった。
「前に戦ったあいつら、本当に強かったから」
「そうですか?」
「そうですかって……」
ユリウスにとっては、あの時追い詰めた魔族もそれほど脅威ではなかったのかもしれない。
だが、今回は一人ではない。
同等。あるいは、それ以上の魔族が複数いる。
「とにかく、みんなで戦おう」
「…………」
「な?」
「分かりました」
ユリウスが頷く。
「…………」
レオンは少し安心する。
だが。
「レオン」
横からレティシアに声をかけられる。
「何?」
「今ので安心した?」
「え?」
「私は全然してないわよ」
「……俺もちょっと心配だ」
レオンが苦笑する。
「何度も言われて直っていないのだろう?」
グランヴェルが言う。
「今回だけ素直に従うとは思えんな」
「グランヴェルさんまで……」
ユリウスが呆れたように見る。
「信用とは積み重ねるものだ」
「貴方がまともなこと言ってる」
「レティシア、貴様は俺を何だと思っている?」
「グランヴェル」
「どういう意味だ」
「そのままの意味よ」
「お前たちもそろそろ準備しろ」
アレスの一言で会話が止まる。
「第七隊が今も敵を追っている。こちらも間もなく出発するぞ」
「はい!」
レオンが剣を確認する。
今回の敵は多い。
その中には、SSクラスの魔族が複数。
先日の防衛戦以上の戦いになる可能性もある。
「ルーチェ」
『ウン!』
「今日も頼むぞ」
『マカセテ!』
準備を進める。
そして。
「…………」
レオンがもう一度ユリウスを見る。
本人は普段と何も変わらない。
緊張している様子すらなかった。
本当に大丈夫だろうか。
「……ちゃんと一緒に動こうな」
「分かってますって」
「ならいいけど……」
返事はいつも通り。
それが余計に不安だった。
やがて準備を終えた騎士たちが、次々と本部を出発していく。
第一隊、第二隊、第四隊。そして、既に敵を追っている第七隊。
大規模試験も終盤。
四つの隊による大規模な迎撃任務が始まろうとしていた。




