第408話 sideライナー
第408話
大規模試験が始まってから、半月。
一ヶ月に及ぶ試験も、折り返しへと入っていた。
ルミナス騎士団本部。
その一室には、アーカディアの教師陣と各隊の代表者たちが集まっていた。
目的は、ここまでの情報交換。
各隊へ配属された学生たちが、どのように任務をこなしているのか。
実戦で何ができているのか。
そして、残り半月で何を経験させるべきなのか。
それぞれから報告が行われていた。
「第三隊に配属された学生たちは問題ない」
報告を聞きながら、レオニードが手元の資料へ目を落とす。
「ガイウスはどうだ?」
「かなりいいな。元々守る戦いに向いている。実戦経験はまだ足りないが、周りを見て動けるようになってきている」
「そうか」
レオニードが頷く。
続いて、別の隊。
「第六隊も問題ありません。フィアナさんは既に実戦でも十分に通用します」
「治癒だけではなく、周囲の状況を見て動けるのも大きいですね」
「本人が前に出ようとしないのもいい。自分の役割をよく理解しています」
第七隊からも報告が上がる。
「ノエルもいいな」
「斥候としての基礎は既にできている。精霊との連携もあるから、索敵能力に関してはかなり高い」
「まだ経験不足な部分はあるが、それはこれからだろう」
第二隊。
第五隊。
それぞれからも、配属された学生たちについて報告されていく。
多少の課題はある。
当然だった。
彼らはまだ学生。ルミナス騎士団の騎士たちと同じように動けるわけではない。
それでも、全体的な評価は高かった。
「第四隊は?」
「よくやってるよ」
ヴァレインが答える。
「最初は実戦経験の差がかなり出てたけどね。半月も連れ回してれば、流石に慣れてくる」
「ルシアンとテオドールは?」
「ルシアンは特に問題なし。どこに連れていっても安定してる」
ヴァレインが続ける。
「テオドールも最初に比べれば随分よくなったよ。魔法の威力は元々高いし、周りも見られるようになってきた」
「そうか」
「まあ、まだまだ鍛えられるけどね」
そう言ってヴァレインが笑う。
そして第一隊。
「こちらも問題ない」
ライナーが答える。
「レオン、グランヴェル、レティシア。この三人は既に前線でも十分戦力になる」
先日の防衛戦。
魔族との戦闘も経験した。
そこでの動きも悪くない。
「シャロンとディオンも、それぞれ課題はあるが順調だ」
「なるほど」
一通りの報告を聞き終える。
レオニードが腕を組んだ。
「今のところ、大きな問題はなさそうだな」
「ああ」
ヴィクトールが頷く。
今回の大規模試験。
アーカディアの学生を一ヶ月間ルミナス騎士団へ預け、実際の任務を経験させる。
これまでにはなかった試みだった。
「こちらとしても悪くない」
一人の隊長が口を開く。
「学生のうちから実戦での動きを見られるのは大きい」
「そうだな」
「入団希望者の力量だけじゃなく、性格もある程度分かる」
ルミナス騎士団へ入るために必要なのは、単純な強さだけではない。
仲間と行動できるか。
命令を守れるか。
危険な状況でも役割を果たせるか。
実戦でなければ分からない部分も多い。
「卒業後に声をかけやすくなるのも助かるな」
「今回来ている学生の中にも、何人か欲しいのはいる」
「もう目をつけてるのか?」
「当然だろ」
そんな声も上がる。
「アーカディア側としても、生徒たちがここで得られるものは大きい」
レオニードが言う。
「この半月だけでも、学院の中だけでは得られない経験を積めている」
「なら、今後も続ける価値はありそうだな」
ヴィクトールの言葉に、何人かが頷く。
改善すべき点はあるだろう。
配属先、任務の選定、学生たちの安全。
初めてだからこそ見えてきた問題もある。
それでも、今回限りで終わらせる理由はなかった。
「残り半月も頼む」
レオニードが言う。
「任された以上は最後まで面倒を見るさ」
隊長の一人が答えた。
◇
話し合いが終わる。
教師や隊長たちが次々と部屋を出ていく。
そんな中。
「ライナー」
ヴィクトールが声をかけた。
「はい」
「少しいいか?」
「もちろんです」
二人だけがその場に残る。
ヴィクトールは椅子へ座ったまま、ライナーを見る。
「ユリウスはどうだ?」
「…………」
「勇者たちと関わらせて、何か変わったか?」
ライナーは少し考える。
「報告では、現状大きな変化は見られませんね」
「そうか」
「相変わらず突出することもあるようです。カトレアたちから何度も注意を受けています」
「聞いているか?」
「聞いてはいるようです」
「聞いているだけか」
「ええ」
ライナーが小さく息を吐く。
「ただ――」
「何だ?」
「レオンのことを興味深そうに観察しているようです」
「勇者を?」
「はい」
訓練中や任務中。以前よりレオンを見ることが増えている。
特に、訓練が終わった後。
一人で剣を振り続けるレオンを、ユリウスが眺めていることがあるという。
「なるほど」
ヴィクトールが僅かに頷く。
「何か感じるものがあったか」
「そこまでは分かりません」
「そうか」
しばらく沈黙する。
そして。
「ユリウスはいずれ、ルミナス騎士団を引っ張っていく存在になる」
ヴィクトールが静かに言った。
「実力は申し分ない。あとは精神面が成長すれば」
「そうですね」
ライナーもそれを否定しない。
十四歳。
それでいて、既に並の騎士を遥かに上回る実力を持つ。
剣、魔法。
どちらにも類い稀な才能がある。
見たものを驚くほどの速さで吸収する。
将来どこまで強くなるのか。
それすら分からない。
だが。
「ユリウスは何でもできてしまうが故に、挫折を知らない」
ライナーが言う。
「あれでは人の上に立つことはできません」
「……そうだな」
「強ければいいわけではない。それを本人が理解していない」
自分一人でできる。
自分がやった方が早い。
それが通用してしまった。
これまでずっと。
だからこそ、仲間に頼る必要性を知らない。
できない者の気持ちも分からない。
「いずれ実力だけなら、俺を超えるかもしれません」
「いずれ、か?」
ヴィクトールが僅かに笑う。
「親のお前が随分控えめな評価をする」
「今はまだ俺の方が強いですから」
「そういうことにしておこう」
「総長」
「冗談だ」
ヴィクトールが笑う。
だが、すぐに表情を戻した。
「今回の出会いが、いい方向に進むといいのだが」
「……はい」
ライナーも頷く。
勇者レオン。
才能だけでここまで来たわけではない少年。
負け、悩み。それでも前へ進み続けている。
ユリウスとは、あまりにも違う。
「何か一つでも、あいつが持ち帰ってくれればいいんですが」
「焦る必要はない」
ヴィクトールが立ち上がる。
「まだ十四だ」
「そうですね」
「半月で人間が変わるなら、誰も苦労はしない」
残された試験期間は、あと半月。
そこで何かが変わるのか。
あるいは、何も変わらないのか。
それはまだ、誰にも分からなかった。




