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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第402話

第402話 


 ガレスとの話し合いを終えたヴィオラは、砦の中を歩いていた。


 先ほどの戦闘で損傷した箇所の修復、負傷者の確認、敵の戦力。


 そして、明日には到着する予定の第一隊。


 確認することは多い。


 今回の攻勢はこれまでより明らかに大きい。


 第一隊が到着するまでは、無理に攻める必要はない。


 砦を守り切る。


 それが今の役目だった。


「ヴィオラさん」


 不意に声をかけられる。


 振り返ると、そこにはルシアンがいた。


「お疲れ様です。ヴィオラさん」


「ルシアン。他のみんなは?」


「武器の手入れをしながら、次の戦闘に備えて休んでいます」


「そう」


 ヴィオラが頷く。


「あなたも休んでおいた方がいい。いつ次が来るか分からないんだから」


「そうですね。その前に少しだけ」


「何?」


「今日はありがとうございました」


「何が?」


「テオドールのことです」


 ヴィオラが僅かに首を傾げる。


「彼にはまだまだ伸びてもらわなければ困るので、ああいう風に指摘してもらえると助かります」


「仲間に厳しいのね」


「彼に強くなってもらわなければならないのは、事実なので」


 ルシアンはそう言って、僅かに視線を外へ向けた。


「普段行動を共にしているのは勇者レオン。今後はより過酷な戦場に赴くことになりますから」


「……そう」


 ヴィオラは少しだけルシアンを見つめた。


 今日の戦い。


 ルシアンにはほとんど危なげがなかった。


 周囲の魔物に対応しながら、あの魔族とも戦い、テオドールの援護までしていた。


 それでいて、自分が前に出すぎることもない。


 アーカディアの学生。


 そう考えると、やはり異質だった。


「ねえ、ルシアン」


「はい?」


「あなたは私が嫌じゃないの?」


「何故ですか?」


 本当に分からないというように聞き返され、ヴィオラが少し困った顔をする。


「私は結構厳しいでしょ」


「そうですね」


「そこは否定しないのね」


「事実ですから」


「……あなたも結構言うわね」


 ヴィオラが小さく息を吐く。


「第四隊の中でも嫌われてるから」


「でも、ヴィオラさんが言っていることは正しいですよね」


「え?」


「理不尽なことを言っているわけではないですし」


「まあ、そうだけど」


 ルシアンは少しだけ笑う。


「それに、ヴィオラさんのそれは優しさから来るものですよね」


「――」


 ヴィオラが目を見開いた。


「……何を言ってるの?」


「違いますか?」


「…………」


「戦場なんて、いつ死んでもおかしくはない」


 先ほどまでと変わらない穏やかな声。


「なるべく仲間を死なせないために、普段から厳しく言っているのでしょう?」


 ヴィオラは答えなかった。


 ただ、ルシアンを見る。


 少しして。


「……なぜ?」


「普段の様子を見ていれば何となく分かります」


「そんなに分かりやすいつもりはないんだけど」


「そうですか?」


「そうよ」


「先の戦闘中も、常に私たちに気を配っていましたよね」


「それは……」


「テオドールが危なくなればすぐに動いていました。アリシアさんやレイモンドさんの位置も常に確認していた」


 ルシアンが続ける。


「ただ厳しいだけの人なら、あそこまではしないと思いますよ」


「…………」


 ヴィオラは僅かに顔を逸らした。


「……アリシアたちには言わないで」


「何をですか?」


「今の話よ」


 ヴィオラがルシアンを見る。


「やり辛くなるから」


「わざわざ言いませんよ」


「ならいいわ」


 それだけ答える。


 少しだけ沈黙が流れた。


「それで、ガレスさんとの話はどうでしたか?」


「詳しい話は明日するわ」


「分かりました」


「明日も魔族が攻めてくると思うから、あなたも早く休みなさい」


「はい」


 ルシアンが頷く。


「明日もよろしくお願いします」


「ええ」


 ルシアンがその場を離れていく。


 ヴィオラはその背中を少しだけ見送った。


「……優しさ、ね」


 小さく呟く。


 そんなつもりでやっているわけではない。


 必要だから言っているだけだ。


 そう思いながら、ヴィオラも自分の休息場所へと歩き始めた。


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