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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第401話

第401話


 魔族がルシアンたちを見渡す。


 その間にも、周囲では戦闘が続いていた。


 魔物の咆哮、剣戟、魔法が炸裂する音。


 その全てが入り混じっている。


「ふむ」


 魔族は周囲を一度確認すると、再びルシアンたちへ視線を戻した。


「なるほど。先ほどからよく動いていると思っていたが……貴殿らは少し、面倒そうなのでね」


 魔力が膨れ上がる。


「ここで潰しておくとしよう」


「来る!」


 ヴィオラの声と同時、魔族の姿が消えた。


「っ!」


 槍を構えたヴィオラの前へ現れる。


 衝突。


 ヴィオラが攻撃を受け止める。


「アリシア!」


「分かってます!」


 横からアリシアが斬りかかる。


 魔族が一歩下がる。


 そこへレイモンドの魔法が飛んだ。


 さらに。


「はぁっ!」


 テオドールの雷。


 魔族が大きく後ろへ跳ぶ。


「ふむ……」


 避けきれなかった雷が僅かに身体を掠めていた。


 魔族がその箇所を見る。


「学生にしては悪くない」


「まだだ!」


 テオドールが再び杖を向ける。


 だが。


「テオドール、右です」


「っ!」


 ルシアンの声で、テオドールが振り向く。


 魔物が迫っていた。


 咄嗟に風を放ち、吹き飛ばす。


 その間に。


「余所見はいけないな」


「――!」


 魔族がテオドールへ迫っていた。


 速い。


 テオドールが反応するより早く――


 ガキンッ!


 その攻撃をヴィオラが止めた。


「下がって!」


「すみません!」


 テオドールが距離を取る。


 アリシアが魔族へ迫った。


 斬撃。


 防がれる。


 レイモンドが魔法を放つ。


 魔族が避ける。


 そこへルシアンが踏み込んだ。


 剣が走る。


「おっと」


 魔族が受け止める。


 そのまま押し合い――離れた。


「なるほど」


 魔族の視線がルシアンへ向く。


「貴殿もなかなか――」


 その横から魔物が飛び込んできた。


 ルシアンが斬り伏せる。


 だが、一体ではない。


 次、さらにその後ろからも、魔族だけを見ているわけにはいかなかった。


「面倒ですね」


「同感だ」


 レイモンドが魔物へ魔法を放つ。


 ヴィオラとアリシアも次々と迫る魔物を倒していく。


 その隙を、魔族は見逃さない。


「そこか」


 狙われたのは――またテオドール。


「くっ!」


 テオドールが魔法を放つ。


 水が魔族へ襲いかかる。


 魔族が魔法で相殺する。


 続けて雷。


「ほう」


 今度は避けた。


 だが、テオドールへ迫る足が止まる。


「通用してる……!」


 テオドールの魔法は効いている。


 まともに当てられれば、目の前の魔族にも十分に傷を負わせられる。


 しかし。


「後ろ!」


「っ!」


 再び魔物。


 振り返って魔法を放ち、倒す。


 前へ向き直る。


 もう魔族がいる。


「しまっ――」


 剣が割り込んだ。


 ルシアンだった。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ……」


「なら、周りを」


「分かってる!」


 答えながら、テオドールは歯を食いしばった。


 分かっている。


 自分が狙われている。


 そして、その度に誰かが自分を助けている。


「ふむ」


 魔族もそれを理解していた。


 視線が再びテオドールへ。


「やはり、そこか」


「させない!」


 アリシアが間へ入る。


 魔族の攻撃を剣で受け止めた。


 ヴィオラの槍。


 魔族が避ける。


 レイモンドの魔法。


 さらにルシアン。


 四人の攻撃が重なる。


 魔族も簡単には対応できない。


 押される。


 だが、テオドールを狙われる度に、誰かが攻撃を中断して助けに入る。


 あと一歩。


 そこから攻め切れない。


「くそっ……!」


 テオドールにも分かっていた。


 自分がいなければ。


 いや、自分がもっと上手く立ち回れていれば、この戦いは違っていた。


 魔族がこちらを崩すために、自分を狙っている。


「……舐めるな!」


 杖を向ける。


 雷が迸った。


「む?」


 魔族が咄嗟に回避する。


 しかし、完全には避けられない。


 雷が肩を掠める。


 焦げた跡。


 確かに傷を負わせた。


「ふむ……威力は十分か」


 魔族が自らの肩を見る。


 テオドールがさらに魔力を練る。


「もう一発――」


「前!」


 ヴィオラの声。


「っ!」


 魔物が迫る。


 まただ。


 テオドールが魔法を切り替える。


 風で吹き飛ばした。


 その瞬間、魔族が踏み込む。


「させないよ」


 今度はレイモンドが割って入った。


 魔法が炸裂。


 魔族が後ろへ下がる。


「大丈夫か?」


「……はい」


「なら戦闘に集中」


「はい!」


 戦いは続いた。


 魔物を倒しながら、魔族の攻撃を凌ぎながら、砦の周囲から離れないよう戦い続ける。


 そして――。


 しばらくして、遠くから何かの音が響いた。


 魔族が動きを止める。


「……時間か」


 周囲の魔族たちも次々と後退し始めていた。


「逃がさない!」


 テオドールが杖を向ける。


「追わない!」


 ヴィオラの声に、その手が止まった。


「……っ」


 魔族が僅かに笑う。


「賢明だ」


 そのまま後方へ下がっていく。


「今回はここまでとしよう」


 魔物たちも魔族に続いて撤退を始める。


 追撃はしない。


 防衛が目的なのだから。


 やがて、戦場に静けさが戻った。


     ◇


 ルシアンたちも砦へ戻った。


 負傷者の確認を終えた後、五人が集まる。


「まずルシアン」


「はい」


「特に言うことはない」


「ありがとうございます」


 ヴィオラが次を見る。


「テオドール」


「……はい」


「もっと落ち着いて立ち回って」


 テオドールが俯きかける。


「魔法の威力は十分。あの魔族にも通用していた」


「はい」


「でも、周りが見えなくなりすぎ。攻撃することばかり考えないで」


「……はい」


「今回、何度助けられたかは自分でも分かってる?」


「分かってます」


 テオドールが杖を強く握る。


 ヴィオラはそれ以上責めなかった。


「ならいい。次に活かして」


「はい」


「今日はいつまた襲撃が来るか分からない。今のうちに休んでおいて」


 全員が頷く。


「私はガレスさんと今後について話してくる」


 そう言い残し、ヴィオラはその場を離れていった。


 残った四人。


 しばらく沈黙が続いた。


「そんな顔しないの」


 最初に口を開いたのはアリシアだった。


「……そんな顔してますか?」


「してるよ」


 テオドールが小さく息を吐く。


「俺、完全に足引っ張ってましたよね」


「まあ、そこは否定しないけど」


「アリシアさん……」


「魔法はちゃんと通用してた。だったら、次はもっと上手くやればいい」


「……ありがとうございます」


「実際、威力に関しては問題ないよ」


 レイモンドも口を開いた。


「ありがとうございます」


「テオドールは魔法を撃つことに集中しすぎだね」


「……やっぱりそうですか」


「ああ。魔法使いだからこそ、撃っていない時が重要なんだ」


 レイモンドは壁に背を預ける。


「敵だけを見るんじゃなく、味方も見る。自分の立ち位置も確認する。誰がどこにいて、自分が狙われた時にどこへ逃げれば味方が動きやすいか。それも考えておくといい」


「なるほど……」


「魔法を使う時間より、次にどう動くかを考えている時間の方が長いくらいでちょうどいい」


「はい。ありがとうございます」


 テオドールが何度か頷く。


「…………」


 その横でルシアンが黙っていた。


「ルシアン?」


 テオドールが見る。


「何だ」


「テオドール」


 いつもと変わらない声。


 だが。


「このままでは、この先の戦いについてこられませんよ」


「……!」


 アリシアがルシアンを見る。


 レイモンドも何も言わず、二人へ視線を向けた。


「分かっている」


「本当に?」


「……何だよ」


「今日の相手は強かった。でも、あれがこの先に待っている最強の敵ではありません」


「…………」


「レオンがこれから立つ戦場は、今日とは比べものにならないほど激しくなるはずです」


 テオドールが黙る。


「その時も、誰かに守ってもらいながら戦うつもりですか?」


「そんなわけないだろ!」


「なら、もっと強くなってください」


 ルシアンが真っ直ぐテオドールを見る。


「今のままでは足りません」


「……分かっている」


「だったら――」


「分かっているって言ってるだろ!」


 テオドールの声が響いた。


「…………」


 ルシアンは何も言わない。


 テオドールが俯く。


「……分かっているんだ」


 自分が足りないことくらい。


 アーカディアへ来る前、テオドールはずっと褒められてきた。


 魔法の才能がある。将来は優れた魔法使いになる。


 幼い頃から何度も言われてきた。


 自分でもそう思っていた。


 アーカディアに入ってからも。上には上がいる。


 それくらい分かっていた。


 だが最初は、ここまでではなかった。


 レオン。


 入学した頃は、今ほど離れていたはずがない。


 それが今はどうだ。


 あいつはどんどん先へ行く。


 自分だって強くなっている。


 それなのに差は縮まるどころか、広がっている。


 ルシアンも、レオンも、そして他の仲間たちも。


「……俺は」


 この程度なのか。


 昔、周りから褒められていた才能など。


 この場所では、その程度のものだったのか。


「…………」


 違う。


 テオドールが顔を上げる。


 そんなはずがない。


 ここで諦めるつもりなどない。


 置いていかれるつもりもない。


「あいつらに……」


 杖を握る。


「あいつらに置いていかれてたまるかよ」


 ルシアンの口元が僅かに上がった。


「その意気です」


「……お前、わざと煽っただろう」


「何のことでしょう?」


「絶対そうだろ」


 テオドールが睨む。


 だが、先ほどまでの沈んだ表情は消えていた。


「次は今日みたいにはならない」


「期待しています」


「ああ」


 テオドールは立ち上がる。


 今日、自分が足を引っ張ったことは変わらない。


 ならば次は変える。


 勇者と共に戦う魔法使いとして。


 これから先も、あいつらと肩を並べて戦うために。


 ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。


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