第397話
第397話
「では――」
ライナーが二人を見る。
「始めろ」
先に動いたのはレオンだった。
地面を強く蹴る。
一瞬で間合いを詰め、その勢いのまま剣を振り抜いた。
フェルディナントが剣を合わせる。
甲高い音。
「っ!」
レオンは止まらない。
弾かれた剣をすぐに返す。
二撃目、三撃目。
フェルディナントが受ける。
レオンが踏み込む。
横薙ぎ。
受け止められる。
ならばと剣を引き、すぐに突きを放つ。
フェルディナントが身体を捻った。
剣先が僅かに横を通り過ぎる。
直後、フェルディナントの剣が振るわれた。
「っ!」
レオンが咄嗟に剣を合わせる。
ガキンッ!
身体が僅かに後ろへ押された。
先ほどまでとは違う。
シャロンとの戦いでは、フェルディナントから攻めることはほとんどなかった。
だが、今は違う。
フェルディナントが一歩踏み込む。
剣が迫る。
レオンが受け流す。
そのまま反撃。
フェルディナントも受ける。
一合、二合、三合。
剣と剣が激しくぶつかり合う。
「はぁっ!」
レオンが大きく踏み込んだ。
フェルディナントが受け止める。
そのまま互いに力を込め――
同時に離れた。
「ふぅ……」
レオンが小さく息を吐く。
フェルディナントも剣を下げない。
先ほどまで浮かべていた余裕のある表情も、少しだけ変わっていた。
「なるほど」
フェルディナントが笑う。
「そろそろ準備運動は終わりかい?」
「……分かりましたか」
「まだ上げられるんだろう?」
「はい」
レオンが剣を握り直す。
身体を巡る魔力が増していく。
『レオン!』
「頼む、ルーチェ」
『ウン!』
ルーチェの力がレオンへ重なる。
さらに、視界が変わる。
僅かに先の未来。
フェルディナントがどう動くのか。
いくつもの可能性がレオンの中へ流れ込んでくる。
「行きます!」
「ああ」
レオンが消えた。
「!」
先ほどより速い。
一瞬でフェルディナントの前へ。
剣が振り下ろされる。
フェルディナントが受ける。
だが。
「っ……!」
今度はフェルディナントの身体が僅かに沈んだ。
レオンが剣を返す。
フェルディナントが動くより先に、その進路へ剣を振るう。
「なるほど……!」
フェルディナントが後ろへ跳んだ。
レオンが追う。
フェルディナントの剣が横から迫る。
その未来は見えている。
レオンが僅かに身体を沈める。
剣が頭上を通過。
「はぁっ!」
下から斬り上げる。
フェルディナントが剣で受け止めた。
その瞬間、レオンの背後から光が飛ぶ。
『イケー!』
ルーチェだ。
「おっと」
フェルディナントが横へ跳ぶ。
光が地面へ突き刺さった。
そこへレオンが迫る。
だが。
「今度はこちらの番だ」
フェルディナントの周囲に魔力が集まった。
光が放たれる。
「っ!」
レオンが横へ跳ぶ。
そこへフェルディナントが踏み込んできた。
剣。
レオンが受ける。
次の瞬間、横から水が襲いかかった。
「うわっ!」
レオンが強引に身体を捻る。
水がすぐ横を通り過ぎる。
体勢を立て直すより先にフェルディナントが来る。
未来が見える。
右から剣。
レオンが先に動く。
剣を受け流し、そのまま懐へ。
「っ!」
フェルディナントが後退する。
ルーチェの光。
さらにレオンの斬撃。
フェルディナントが魔法で迎え撃つ。
光がぶつかり。
水が弾け。
その間を二人の剣が走る。
「すげぇな……」
見ていた第一隊の騎士が呟いた。
「ああ」
「フェルディナントを相手にここまでやるとは」
「流石は勇者だな」
第一隊の騎士たちも、いつの間にか真剣な表情で戦いを見ていた。
学生の実力確認。
最初はその程度だった。
だが、今は違う。
フェルディナントも明らかに先ほどまでより動いている。
「四ヶ月前より、また伸びたな」
アレスが呟く。
その隣でカトレアが腕を組む。
「これならフェルディナントも楽じゃないでしょうね」
「ああ」
戦いは続く。
レオンが未来を見て攻撃を避ける。
フェルディナントがその動きを読み、さらに次の手を重ねる。
ルーチェが隙を狙って魔法を放つ。
「はぁっ!」
レオンの剣をフェルディナントが受け流す。
放たれた光をレオンが避ける。
水。
剣。
さらに光。
攻撃が途切れない。
「くっ……!」
レオンも必死に食らいつく。
だが、楽しい。
自然と口元が上がる。
「まだまだ!」
『マダマダ!』
「いいね」
フェルディナントも笑った。
「なら――」
その瞬間、フェルディナントの魔力が変化した。
「……?」
レオンが足を止める。
フェルディナントの足元に薄い靄が生まれていた。
それは少しずつ広がっていく。
「霧……?」
レオンが呟く。
さらに霧が濃くなろうとした、その時。
「そこまでだ」
ライナーの声が響いた。
フェルディナントが動きを止める。
「もういいんですか?」
「ああ」
ライナーがレオンを見る。
「レオンの実力は十分分かった」
フェルディナントが肩を竦める。
「残念」
発生していた霧が消えていく。
「何だったんですか? 今の」
「それはまた今度だね」
フェルディナントが剣を収める。
「機会があれば見せるよ」
「……分かりました」
少し気になったが、レオンも剣を収めた。
『オワリ?』
「ああ。終わりみたいだ」
『モット、タタカイタカッタ!』
「俺もだよ」
レオンが苦笑する。
フェルディナントがレオンへ近づいた。
「強いね」
「ありがとうございます」
「学生だと思って甘く見る必要はなさそうだ」
レオンが嬉しそうに笑う。
「でも、まだフェルディナントさんの方が上ですよね」
「さて、どうだろうね」
「絶対そうですよ」
「なら、この一ヶ月で追いついてみるといい」
「はい!」
レオンが大きく頷いた。
そのまま戻る。
「お疲れさま」
レティシアが声をかける。
「ありがとう」
「随分楽しそうだったわね」
「強い人と戦うのは楽しいからな」
「そういうところ、本当に変わらないわね」
「そうか?」
「ええ」
その横でグランヴェルが立ち上がった。
「次は俺だな」
ライナーが頷く。
「ああ」
そして。
「アレス」
「はい」
呼ばれたアレスが前へ出た。
その瞬間、周囲の第一隊の騎士たちの空気が僅かに変わった。
「おっ」
「次はアレスか」
カトレアも興味深そうに二人を見る。
グランヴェルが訓練場の中央へ。
アレスもその向かいへ立った。
「久しぶりだな、グランヴェル」
「ああ」
グランヴェルが剣を抜く。
「武闘大会では見ているだけだったな」
「そうだな」
「ならばちょうどいい」
グランヴェルの口元が僅かに上がる。
「今の俺がどこまで通じるか、確かめさせてもらう」
アレスも剣へ手をかけた。
「来い」
レオンが二人を見つめる。
「アレス先輩とグランヴェル……」
その戦いが、始まろうとしていた。




