第396話
第396話
第一隊の隊舎を一通り案内された後。
レオンたちは、広い訓練場へと連れてこられていた。
「さて」
ライナーが五人の前に立つ。
「資料でお前たちのことは把握している。だが、資料と実際に見るのとでは違う」
その後ろには、第一隊の騎士たち。
アレス。
フェルディナント。
カトレア。
他にも何人もの隊員が集まっていた。
「これから簡単に実力を確認する」
「実力の確認……」
レオンが呟く。
「ああ。今後の任務でどこまで任せられるかを判断するためだ」
ライナーが振り返る。
「カトレア」
「はい」
呼ばれたカトレアが前へ出る。
そのまま訓練場の中央へ。
「まずはディオンだ」
「はい!」
ディオンも前へ出た。
Aクラスの生徒。
だが、武闘大会ではSクラスの生徒たちを押し退け、ベスト8まで勝ち進んでいる。
決して弱くない。
それでも、今回第一隊へ配属された五人の中では、最も実力が劣る。
「よろしくお願いします」
「ええ。好きに攻めてきていいわよ」
カトレアが剣を抜く。
ディオンも剣を構えた。
「始めろ」
ライナーの声。
「はっ!」
同時にディオンが飛び出した。
一気に距離を詰める。
鋭い斬撃。
カトレアは半歩動いて躱す。
ディオンはすぐに剣を返した。
「っ!」
二撃目、三撃目。連続して剣を振るう。
だが、カトレアは慌てない。
剣で受け、流し。
必要最低限の動きで攻撃を捌いていく。
「まだ!」
ディオンがさらに踏み込む。
魔力が高まる。
剣を大きく振り抜いた。
カトレアが一歩横へ。
「なっ――」
空振り。
直後、ディオンの首元に剣が添えられた。
「そこまで」
ライナーの声が響く。
「……参りました」
ディオンが剣を下ろす。
「悪くないわ」
カトレアも剣を下ろした。
「ちゃんと相手を見ながら攻められてる。ただ、攻め始めると少し真っ直ぐすぎるわね」
「はい」
「もう少し相手に選択肢を押しつけることを考えた方がいいかも」
「ありがとうございます」
ディオンが一礼して戻ってくる。
「どうだった?」
レオンが尋ねる。
「強い」
即答だった。
「全然崩せなかった」
「そう見えたな……」
レオンがカトレアを見る。
息一つ乱れていない。
「次」
ライナーが告げる。
「レティシア」
「はい」
レティシアが前へ出た。
カトレアはそのまま。
「連戦で大丈夫なんですか?」
レティシアが尋ねる。
「気にしなくていいわよ」
カトレアが笑う。
「それとも休んだ方がいい?」
「いえ」
レティシアの表情が変わる。
「その必要がないのなら、このままお願いします」
「いいわね」
二人が距離を取る。
「始めろ」
今度はカトレアが待つ。
先に動いたのはレティシア。
魔力が一気に高まった。
「――!」
放たれた魔法が訓練場を駆け抜ける。
カトレアが横へ跳ぶ。
そのすぐ後を追うように、次の魔法。
「おっ」
見ていた第一隊の騎士の一人が声を漏らす。
「学生であの威力か」
「結構やるな」
別の騎士も感心したように呟いた。
レティシアは止まらない。
次々と魔法を放ち、カトレアの動ける場所を削っていく。
「はぁっ!」
さらに一撃。
爆発。
土煙が上がる。
「やったか?」
レオンが目を凝らす。
「まだだ」
アレスが短く言った。
直後、土煙からカトレアが飛び出した。
「っ!」
レティシアは反応し、すぐに魔法を放つ。
だが、カトレアが僅かに身体を傾ける。
魔法が横を通り過ぎた。
さらに一歩。
「近づかせません!」
次の魔法。
避けられる。
もう一発。
それも。
「そんな……!」
距離が一気に縮まった。
レティシアも後退しながら魔法を放つ。
しかし、カトレアは止まらない。
「魔法は強いわね」
「っ!」
「でも――」
一気に懐へ。
「こうなると厳しいでしょ?」
剣先がレティシアの喉元で止まった。
「そこまで」
「…………」
レティシアが悔しそうに剣先を見る。
「参りました」
カトレアが剣を下ろす。
「威力は十分。学生の魔法だと思って甘く見てたら危なかったわ」
「……ありがとうございます」
「ただ」
カトレアがレティシアを見る。
「戦い慣れてないわね」
レティシアが僅かに目を見開く。
「魔法を撃つことに集中しすぎ。こっちがどうやって近づこうとしてるのか、途中から見えてなかったでしょ?」
「……はい」
「実戦じゃ、相手は正面から魔法を受けてくれるとは限らないからね」
レティシアは少し悔しそうにしながらも頷いた。
「覚えておきます」
「うん」
カトレアが笑う。
「でも、本当にいい魔法だったわよ」
レティシアが戻ってくる。
「強いわね……」
「やっぱり経験が違うんだろうな」
レオンが答える。
「ええ」
レティシアはカトレアを見る。
悔しさは残っている。
だが、それ以上に何かを学ぼうとするような目をしていた。
「カトレアはここまでだ」
ライナーが告げる。
「了解」
カトレアが訓練場から下がる。
「次はフェルディナント」
「はい」
フェルディナントが前へ出た。
剣を抜く。
先ほどまでのカトレアとは、また違う空気。
「シャロン」
「はい」
シャロンが訓練場へ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人が向かい合う。
「始めろ」
シャロンが動く。
一気に距離を詰めた。
「はっ!」
鋭い一撃。
フェルディナントが剣を合わせる。
甲高い音。
シャロンがすぐに次の攻撃へ繋げた。
一撃、二撃、三撃。
武闘大会の頃よりも速い。
「シャロンも強くなってるな」
レオンが呟く。
「ああ」
グランヴェルが腕を組んだまま答える。
「以前よりはな」
シャロンが横へ回り込む。
剣を振るう。
フェルディナントが受け止める。
さらに攻める。
しかし。
「…………」
フェルディナントの表情は変わらない。
呼吸も乱れない。
シャロンの攻撃を見て、受け、必要なら避ける。
「くっ……!」
シャロンの表情だけが徐々に険しくなっていく。
「まだです!」
踏み込む。
渾身の一撃。
フェルディナントが剣を動かした。
「え――」
シャロンの剣が横へ流れる。
体勢が崩れた。
次の瞬間、フェルディナントの剣が首元で止まる。
「そこまで」
「……参りました」
シャロンが小さく息を吐く。
フェルディナントが剣を下ろした。
「いい動きだった」
「ありがとうございます」
「特に速度は悪くない。ただ、攻撃が続くほど次に何をするか分かりやすくなる」
「……はい」
「焦る必要はない。ここにいる間に直せばいい」
「ありがとうございます」
シャロンが一礼する。
レティシアの隣へ戻ってきた。
「お疲れさま」
「ありがとうございます」
「どうだった?」
レオンが尋ねる。
シャロンは少し考えてから。
「……強かったです」
そう答えた。
「攻撃しているのは私なのに、ずっと相手の方に主導権があるような感じでした」
「分かる気がする」
先ほどの戦い。
フェルディナントはほとんど攻撃していない。
それでも、シャロンが勝つ姿は最後まで想像できなかった。
「次」
ライナーが名前を呼ぶ。
「レオン」
「はい!」
レオンが前へ出る。
『レオン!』
ルーチェが後を追った。
フェルディナントがレオンを見る。
「精霊も一緒で構わない」
「いいんですか?」
「ああ。それが君の普段の戦い方なんだろう?」
レオンが笑う。
「ありがとうございます」
『ルーチェモ、タタカウ!』
「頼むぞ」
『ウン!』
レオンが剣を抜く。
向かい側ではフェルディナントが静かに構えた。
先ほどまで戦っていたシャロンとは違う。
レオンから感じる圧力に、周囲で見ていた第一隊の騎士たちも僅かに反応する。
「……なるほど」
カトレアが呟く。
アレスは何も言わない。
ただ、レオンを見ていた。
四ヶ月前、武闘大会で見た時よりも、また強くなっている。
「準備はいいか?」
ライナーが尋ねる。
「はい!」
レオンが剣を握る。
『イケル!』
ルーチェが隣に並ぶ。
フェルディナントも剣を構えた。
「では――」
ライナーが二人を見る。
「始めろ」




