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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第395話

第395話


 数日後。


 アーカディアの生徒たちは、ルミナス騎士団の本拠地へと到着した。


「……すごいな」


 レオンが思わず呟く。


 巨大な城壁。


 その内側にはいくつもの建物が並び、大勢の騎士たちが忙しなく行き交っている。


 騎士団の本拠地というより、一つの街に近い。


「話には聞いてたけど、思ってたよりずっと広いな」


『ヒロイ!』


 ルーチェも興味深そうに辺りを見回している。


「おい、集まれ」


 レオニードの声が響く。


 生徒たちは周囲を見回すのをやめ、一ヶ所へ集まった。


 その前には既に数人の騎士が待っている。


 そして、その中央に一人の男が立っていた。


 年齢は四十代後半ほど。


 派手な装備をしているわけではない。


 ただ立っているだけ。


 それなのに、自然と視線が向いた。


 周囲の騎士たちも、その男がいるだけで普段以上に引き締まっているように見える。


「ルミナス騎士団総長のヴィクトール・ハイランド様だ」


 レオニードが短く紹介する。


 ヴィクトールが一歩前へ出た。


「アーカディアの学生たちだな。よく来た」


 低く、よく通る声。


「今日から約一ヶ月、お前たちにはそれぞれの隊で生活し、任務にも参加してもらう」


 ヴィクトールが生徒たちを見渡す。


「学生だからといって、ここでは何も起こらないとは思うな。ここは魔族領に最も近い場所の一つだ」


 生徒たちの表情が僅かに引き締まる。


「ただし、無理に俺たちへ合わせる必要もない。分からないことは聞け。できないことはできないと言え」


 一度言葉を切る。


「自分の力を見誤るな。それが自分だけでなく、隣にいる者の命を奪うこともある」


「はい!」


 生徒たちの返事が響く。


 ヴィクトールが小さく頷いた。


「一ヶ月は長いようで短い。少しでも多くのものを持ち帰れ」


 それだけだった。


「以上だ」


 ヴィクトールが下がる。


 代わってレオニードが前へ出た。


「これから各隊の隊舎へ移動する。出発前に確認した配属先ごとに分かれろ」


 生徒たちが動き始める。


「じゃあ、またな」


 ガイウスが片手を上げる。


「ええ」


「また後で」


「頑張ろう」


 フィアナ、ノエル、テオドールもそれぞれの隊へ向かっていく。


 ルシアンも第四隊。


 そしてレオンは第一隊。


「行こうぜ、ルーチェ」


『ウン!』


     ◇


 第一隊の隊舎。


 レオンたち五人が中へ入ると、既に何人もの騎士たちが待っていた。


 その前に立つ男が五人を見る。


「来たな」


 第一隊隊長ライナー・クロイツ。


「今日からお前たちを預かるライナー・クロイツだ」


 レオンたちが姿勢を正す。


「レオンです。よろしくお願いします!」


「グランヴェル・レグナスだ」


「レティシア・バルセリオンです。よろしくお願いします」


「シャロン・ヴァレンハイトです。よろしくお願いします」


「ディオン・アルクスです。よろしくお願いします」


 五人がそれぞれ名乗る。


「話は聞いている」


 ライナーが頷く。


「ここにいる間は第一隊の人間として扱う。指示には従ってもらうぞ」


「はい!」


「では、隊員も紹介しておこう」


 ライナーが後ろへ視線を向ける。


 最初に前へ出てきた人物を見て、レオンが笑った。


「アレス先輩」


「レオン」


 アレス・グランツヴァルト。


 武闘大会以来、およそ四ヶ月ぶりだった。


「また会ったな」


「はい。今回は一ヶ月よろしくお願いします」


「ああ」


 アレスがレオンを見る。


「今度は大会を見る側じゃない。お前と一緒に戦うことになる」


「楽しみにしてます」


「俺もだ」


 短いやり取り。


 だが、レオンの表情は嬉しそうだった。


「アレス、知り合いか?」


 一人の青年が尋ねる。


「ええ。アーカディアの後輩です」


「なるほどな」


 青年が前へ出る。


「フェルディナントだ。よろしく」


「よろしくお願いします!」


 続いて、その隣にいた女性も前へ出た。


「カトレアよ。よろしく」


「よろしくお願いします」


 カトレアは五人を順番に見ていく。


「武闘大会の上位ばかりなんでしょう?」


「そのようだな」


 フェルディナントが答える。


「へぇ」


 カトレアが少し楽しそうに笑った。


「それなら結構期待できそうね」


「当然だ」


 グランヴェルが答える。


「俺たちをそこらの学生と同じだと思わないことだ」


「あら」


 カトレアの視線がグランヴェルへ向く。


「随分と自信があるのね」


「事実を言ったまでだ」


「そう。じゃあ楽しみにしてるわ」


 二人の視線がぶつかる。


 レオンがその様子を見て苦笑した。


「お前、初対面でも変わらないな……」


「何がだ?」


「いや、何でもない」


「挨拶はその辺にしておけ」


 ライナーの一言で全員が静かになる。


「他の隊員とも追々顔を合わせる。まずは荷物を置け。その後、隊舎を案内する」


「はい!」


     ◇


「お久しぶりです」


 第四隊の隊舎。


 中へ入ったルシアンが軽く頭を下げる。


「久しぶりだな」


 その先にいたヴァレインが笑った。


 隣にいるテオドールも頭を下げる。


「お久しぶりです」


「一年振りか」


「そうですね」


 あの時は、アーカディアとルミナス騎士団による合同遠征。


 そして途中で魔族の襲撃を受けた。


「思い返しても、随分と大変な遠征だったな」


「予定通りにはいきませんでしたね」


 ルシアンが答える。


「予定通りどころではないだろう」


 ヴァレインが苦笑する。


「まあ、そのおかげと言っていいのかは分からんが、お前たちのことはよく覚えている」


 その視線がルシアンとテオドールへ向く。


「今回、お前たち二人を第四隊へ希望したのも私だ」


「隊長が?」


 テオドールが少し驚く。


「ああ」


「どうして俺たちを?」


「一度見たことのある奴の方が扱いやすい。それに――」


 ヴァレインが笑う。


「お前たちなら多少忙しく使っても問題ないだろう?」


「……嫌な予感がするんですが」


「安心しろ。多分当たる」


「安心できませんよ」


 テオドールがため息をつく。


 ルシアンが小さく笑った。


「さて」


 ヴァレインが後ろを振り返る。


「お前たちと一緒に行動することが多くなる連中を紹介しておこう」


 呼ばれた数人が前へ出る。


 最初は若い女性。


「アリシア・フォーデンよ。よろしくね」


 柔らかく笑いながら二人を見る。


「ルシアンです。よろしくお願いします」


「テオドールです。よろしくお願いします」


「そんなに固くならなくていいわよ。一ヶ月も一緒にいるんだから」


 その隣にいた女性が前へ出る。


 手には槍。


「ヴィオラ」


 短く名乗る。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「先に言っておくけど、任務中は指示に従って。勝手な行動はしないで」


 ヴィオラが二人を見る。


「分からないことがあるなら、そのままにせず聞くこと。判断に迷った時も同じ」


「はい」


「分かりました」


「ヴィオラさん」


 アリシアが苦笑する。


「何?」


「初対面なんだから、もう少し優しくしてもいいんじゃないですか?」


「必要なことを言っただけ」


「そうですけど」


「こいつはいつもこうだ。気にするな」


 ヴァレインが言う。


「隊長」


「間違ってはいないだろう?」


「…………」


 否定しない。


 アリシアが小さく笑った。


「悪い人じゃないから安心してね」


「アリシア」


 少しだけ空気が和らぐ。


 続いて、男が前へ出た。


「レイモンドだ。よろしくな」


 少し目つきが悪い。


 だが、話し方は穏やかだった。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 レイモンドが二人を見る。


「まあ、最初から全部覚える必要はない。分からなくなったら誰かに聞け」


「そういうことだ」


 ヴァレインが頷く。


「他の隊員については追々覚えていけばいい」


 そして。


「第四隊は状況次第であちこちへ動く。暇になるとは思わない方がいいぞ」


「やっぱりか……」


 テオドールが肩を落とす。


「だから言っただろう。忙しく使うと」


「聞かなきゃよかった……」


「大丈夫ですよ」


 ルシアンが言う。


「ルシアンはもう少し嫌そうな顔をしてくれ」


「そう言われましても」


 ヴァレインが笑う。


「相変わらずだな、お前は」


     ◇


 その頃。


 第三隊へ向かったガイウス。


 第六隊へ向かったフィアナ。


 第七隊へ向かったノエル。


 他の生徒たちも、それぞれの隊舎で隊長や隊員たちとの顔合わせを始めていた。


 今まで共に行動してきた仲間たちとは別々。


 これから約一ヶ月。


 それぞれが違う場所で、違う経験をすることになる。


     ◇


「荷物は置いたな」


「はい!」


 第一隊。


 再び集まったレオンたちへ、ライナーが言う。


「今日は隊舎と本部内を案内する。その後は訓練場へ行く」


「訓練ですか?」


「ああ」


 ライナーが当然のように答える。


「お前たちがどの程度動けるのか、こちらも知っておく必要がある」


「なるほど」


 レオンの表情が変わる。


 その横でルーチェも反応した。


『タタカウ!?』


「まだそうとは言ってないだろ」


『タタカウ!』


「聞いてないな……」


 アレスが僅かに笑う。


「相変わらず元気だな」


『ウン!』


「お前もな」


「はい!」


 レオンが笑って答える。


「なら行くぞ」


 ライナーが歩き出す。


 レオンたちもその後を追う。


 こうして、ルミナス騎士団で過ごす一ヶ月。


 その最初の一日が始まった。


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