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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第394話

第394話


 大規模試験まで、残り数日。


 その間も、ルシアンによるレオンの訓練は続いていた。


 訓練の内容は、以前とは大きく変わっている。


 ルシアンは毎日のように戦い方を変えた。


 ある時は――。


「――っ!」


 炎を纏った剣が振り下ろされる。


 レオンは未来視で攻撃を読み、横へ跳んだ。


 直後、地面が大きく砕ける。


「今日はグランヴェルか!」


「ええ」


 ルシアンの剣を赤い炎が包んでいる。


 当然、グランヴェルの黄金の炎までは再現できない。


 それでも、圧倒的な火力を前面に押し出す戦い方はよく似ていた。


「行きますよ」


「来い!」


 ルシアンが踏み込む。


 炎を纏った剣が横薙ぎに迫る。


 レオンは身体を沈めて回避し、そのまま懐へ飛び込んだ。


「そこ!」


 剣を振り上げる。


 だが、その瞬間。


 炎が爆ぜた。


「うわっ!?」


 熱風に押され、レオンが後退する。


 すぐさまルシアンが距離を詰めてくる。


「くっ……!」


 剣を受ける。


 押し込まれる。


 ならばまともに打ち合わない。


「ルーチェ!」


『ウン!』


 光が飛ぶ。


 ルシアンがそちらへ意識を向けた瞬間、レオンが横へ回り込む。


「はぁっ!」


 剣を振るう。


 だが。


 ガキンッ――!


 簡単に受け止められた。


「悪くありません」


「まだ!」


 レオンはさらに踏み込んだ。


     ◇


 またある時は――ドラクス。


「っ!?」


 ルシアンが一気に距離を詰めてくる。


 レオンは剣を構えた。


 拳が振るわれる。


 その瞬間、ルシアンの身体能力が爆発的に跳ね上がった。


「ぐっ……!」


 轟音。


 剣越しに凄まじい衝撃が伝わり、レオンの身体が大きく後方へ飛ばされる。


 空中で体勢を整え、着地。


「やっぱりドラクスか!」


「ええ」


 ルシアンはすでに元の状態へ戻っている。


 常に身体能力を引き上げているわけではない。


 攻撃の瞬間だけ、防御の瞬間だけ。


 必要な一瞬に極端な身体強化を重ねることで、ドラクスの戦い方を再現している。


「いきますよ」


「分かってる!」


 レオンが先に踏み込む。


「はぁっ!」


 剣がルシアンを捉える。


 だが当たる寸前、爆発的な身体強化。


「っ!」


 剣が止まる。


 そして次の瞬間にはルシアンの拳が迫っていた。


 未来視。


 レオンは頭を下げる。


 頭上を拳が通過した。


「今だ!」


 すぐさま反撃。


 しかし。


「甘いですよ」


「なっ――」


 蹴り。


「ぐっ!」


 レオンの身体が再び吹き飛ばされた。


『レオン!』


「大丈夫!」


 すぐに立ち上がる。


「もう一回だ!」


     ◇


 またある時は槍を持った。


「っ!」


 連続して繰り出される刺突。


 レオンは剣で弾きながら前へ出る。


 一歩、さらに一歩。


「今!」


『イクヨ!』


 ルーチェの光が飛ぶ。


 ルシアンが槍を振るって光を払う。


 その隙にレオンが一気に距離を詰めた。


「取った!」


 剣を振るう。


 しかし、槍が回転する。


「え?」


 柄で剣を逸らされ、そのまま石突が胸元へ突きつけられた。


「ここまでです」


「……また負けた」


『レオン、マケタ!』


「分かってるよ」


『ツギ、カツ!』


「ああ」


 レオンは立ち上がる。


「もう一回だ」


「休憩してからです」


「まだいけるって」


「駄目です」


「……分かったよ」


『キュウケイ!』


「ルーチェは元気だな……」


     ◇


 そして、ある日は。


 ルシアンがいつも通り一本の剣を持っていた。


「今日は誰だ?」


「見れば分かりますよ」


「?」


 ルシアンが構える。


 それを見たレオンが目を細めた。


「……俺?」


「ええ」


 見慣れた構え。


 自分自身が普段使っているものだった。


『レオン、フタリ!』


「増えてないって」


 そう言いながら、レオンも剣を構える。


「じゃあ……やってみるか」


「どうぞ」


 同時に地面を蹴った。


 剣と剣がぶつかる。


 レオンが押す。


 ルシアンが流す。


 すぐに剣が返ってくる。


「っ!」


 受け止める。


『イクヨ!』


 横からルーチェの光。


 それに合わせてレオンが踏み込む。


 だが、ルシアンからも光が放たれた。


 二つの光がぶつかる。


「そこ!」


 レオンが前へ、剣を振るう。


 ルシアンが受け流す。


 すぐさま魔法。


 レオンは未来視で読んで回避。


 だが、その先には既にルシアンの剣が待っていた。


「くっ!」


 辛うじて受ける。


 レオンは歯を食いしばった。


 確かに自分の戦い方だ。


 なのに、違う。


 自分なら剣を振る場面で魔法が飛んでくる。


 魔法が来ると思えば、一気に距離を詰めてくる。


 知っているはずなのに、読み切れない。


「まだ!」


 レオンが踏み込む。


 剣を振るう。


 ルシアンが半歩ずれる。


『レオン!』


「ああ!」


 ルーチェが光を放つ。


 左右からの同時攻撃。


 それでも届かない。


 ルシアンの剣が滑らかに動く。


 レオンの剣が弾かれた。


「っ!」


 首筋へ刃が添えられる。


「ここまでですね」


「……参った」


 ルシアンが剣を下ろす。


「くそっ……」


 レオンは悔しそうに自分の剣を見た。


「俺の戦い方なのにな」


「同じではありませんよ」


「え?」


「私がやっているレオンの模倣は、あくまで可能性の一つに過ぎません」


「可能性の一つ?」


「ええ」


 ルシアンは頷く。


「同じ力を持っていたとしても、その使い方は一つではありません」


 レオンは黙って聞く。


「ですから、私の戦い方を正解だとは思わないでください」


「…………」


「可能性はいくらでもあります。あなたに合った戦闘スタイルを模索してください」


 レオンは少し考える。


 そして。


「ああ」


 剣を握り直した。


「分かった」


「なら、今日はここまでに――」


「もう一回」


「…………」


「今の戦いで試したいことができた」


 ルシアンが僅かに目を細める。


 そして小さく笑った。


「分かりました」


『モウイッカイ!』


「ああ!」


 その日も、レオンはルシアンに勝てなかった。


 翌日も、その次の日も、様々な戦い方をするルシアンへ必死に食らいつき。


 それでも、最後には負けた。


 だが、その度に考えた。


 どうすれば攻撃を防げたのか。


 どうすれば一撃を届かせられたのか。


 自分なら、どう戦うのか。


 そうして一週間が過ぎ――。


 大規模試験の日を迎えた。


     ◇


 早朝。


 アーカディア学園には、試験へ参加する生徒たちが集まっていた。


 今回参加するのは二年生のSクラスとAクラス。


 そして、生徒たちを評価するため、多くの教員も同行する。


 その前に立つのはレオニード。


「全員揃っているな」


 ざわついていた生徒たちが静かになる。


「以前説明した通り、今回の大規模試験ではルミナス騎士団と行動を共にしてもらう」


 レオニードが全員を見渡す。


「期間は約一ヶ月。お前たちは第一隊から第七隊のいずれかへ配属され、騎士団員と共に実際の任務へ参加する」


 今回はパーティ単位ではない。


 一人一人が、それぞれの隊へ配属される。


「各隊には教員も同行する。戦闘だけでなく、任務中の判断、連携、行動。それらも含めて評価する」


 生徒たちの表情が引き締まる。


「そして、今回の試験では評価だけでなく、ルミナス騎士団の集団戦をよく見て学べ」


 レオニードはそこで一度言葉を切った。


「何故、彼らが世界最強の騎士団と呼ばれているのか。実際に行動を共にすれば分かるはずだ」


「はい!」


「では、事前に伝えた配属先ごとに分かれろ。ここからは各隊ごとにまとまって移動する」


 生徒たちが動き始めた。


「じゃあ俺は第三隊だな」


 ガイウスが離れていく。


「私は第七隊」


 ノエルも指定された場所へ向かう。


「第六隊ですね」


 フィアナも別方向へ。


「俺たちは第四隊か」


 テオドールが言う。


「ええ」


 ルシアンもその隣を歩いていく。


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


 これまで一緒に戦ってきた仲間たちが、それぞれ別の隊へ散らばっていく。


 そして。


「第一隊は……こっちか」


 レオンも指定された場所へ向かった。


 そこには既にグランヴェルがいる。


 レティシア。


 シャロン。


 ディオン。


 そしてレオン。


 五人だけだった。


「少ないな」


 レオンが他の隊を見る。


 第一隊以外は、SクラスとAクラスの生徒がおおよそ均等に分けられている。


 だが、第一隊だけは別だった。


 今回の試験で第一隊に配属されたのは、この五人のみ。


「当然だろう」


 グランヴェルが言う。


「第一隊は最も危険な場所へ出る。誰でも連れていける場所ではない」


「それもそうか」


 レオンが笑う。


「でも、楽しみだな」


「ふん。当然だ」


 グランヴェルの口元にも僅かに笑みが浮かぶ。


 やがて、全員がそれぞれの隊へ分かれた。


「出発するぞ」


 レオニードの声が響く。


 各隊が動き始める。


 目指すのは、魔族領との国境地帯。


 ルミナス騎士団の本部が置かれている場所。


 各隊の宿舎や訓練場を始め、多くの施設が集まり、騎士団員たちが日々生活している。


 その規模は、一つの小さな都市と呼んでも差し支えないほどだ。


 そして、その先には本物の戦場がある。


『レオン!』


「ん?」


『ガンバロ!』


 ルーチェが拳を突き出す。


 レオンも笑って拳を合わせた。


「ああ。頑張ろう」


『ウン!』


 こうして、二年生最後の大規模試験が始まった。


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