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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第392話

第392話 


 大規模試験まで、あと一週間。


 その日の放課後も、レオンたちはいつものように訓練場で鍛錬を行っていた。


「レオン、踏み込みが浅いですよ」


「分かってる!」


 レオンが地面を蹴る。


 一気に距離を詰め、ルシアンへ剣を振り下ろした。


 ガキンッ!


 ルシアンが剣で受け止める。


「そこです」


「え?」


 直後、レオンの腹部へ蹴りが入った。


「ぐっ!」


 数歩後ろへ下がる。


「攻撃することばかり考えないでください」


「分かってるんだけどな……」


「分かっていてできないなら、できるまで繰り返すしかありませんね」


「もう一回だ!」


「はいはい」


 聖国リュミエルから戻ってからも、レオンたちの鍛錬は続いている。


 一週間後にはルミナス騎士団との大規模試験がある。


 そのための連携訓練も兼ねて、最近は勇者パーティ全員でルシアンを相手にすることが多かった。


「今日はどうする?」


 ノエルが尋ねる。


「昨日と同じでいいんじゃないか?」


 ガイウスが答えた。


「最初は俺とレオンが前で――」


「おーおー」


 突然、訓練場の入口から声が聞こえてきた。


「やってんなぁ」


「ん?」


 レオンが振り返る。


 そこには二人の男が立っていた。


「カイン先輩!」


「よぉ、レオン」


 カイン・ブラッドレイ。


 そして、その隣にはアルト・セイリオス。


「アルト先輩も」


「ああ」


「珍しいですね」


 ルシアンが二人を見る。


「お二人が揃ってこちらへ来るなんて」


「ちょっと暇だったんでな」


 カインが笑う。


「それに」


 レオンへ視線を向ける。


「今年の最後に大会の続きをやるだろ?」


「はい!」


「楽しみで仕方ねぇんだよ」


 カインが拳を鳴らす。


「三ヶ月も空いちまったしな。お前らがどんだけ強くなったのか、気になってしょうがねぇ」


「それで来たんですか?」


「まあな」


 ニヤリと笑う。


「待ちきれなくてよ」


「ははっ!」


 レオンも嬉しそうに笑った。


「俺も楽しみです!」


「だろ?」


 その様子を見ていたアルトが小さく息を吐く。


「大会まで待てばいいだろう」


「待てねぇから来たんだろうが」


「そうか」


「興味なさそうだな、お前」


「そんなことはない」


 アルトの視線が一瞬だけレオンへ向く。


「俺も楽しみにはしている」


「本当ですか!」


 レオンが嬉しそうに反応する。


「じゃあアルト先輩も――」


「今日は戦わない」


「まだ何も言ってませんよ!?」


「顔を見れば分かる」


「……そんなに分かりやすいですか?」


「かなり」


 ノエルが横から答えた。


「そうか……」


 レオンが少し落ち込む。


 そこで、ふとレオンが二人を見る。


「そういえば」


「ん?」


「カイン先輩とアルト先輩って、卒業したらどうするんですか?」


「俺たちか?」


「はい」


 二人は四年生。


 もう卒業まで、それほど時間は残されていない。


「そういえば、聞いたことなかったなと思って」


「俺はルミナス騎士団だ」


 カインがあっさりと答えた。


「え?」


「もう話は決まってる」


「そうなんですか!?」


「ああ」


 カインは親指で隣を指す。


「こいつもだ」


 レオンがアルトを見る。


「アルト先輩もですか?」


「ああ」


 アルトが頷いた。


「卒業後はルミナス騎士団へ入る」


「二人ともか……」


 レオンが感心したように呟く。


「じゃあ、一週間後の大規模試験で俺たちが行くところが、お二人の就職先みたいなものなんですね」


「まあ、そうなるな」


「まだ卒業してねぇけどな」


 カインが笑う。


「すごいですね」


「何がだ?」


「いや、お二人とも卒業後のことまで決まってるんだなって」


「お前は?」


「俺ですか?」


 レオンは自分を指差す。


「……全然考えてないです」


「だろうな!」


「なんで笑うんですか!」


 カインが豪快に笑う。


 そして、その笑みのまま腰の剣へ手を伸ばした。


「じゃあ」


 獰猛な笑みを浮かべる。


「ちょっとやるか、レオン」


「え?」


「ちょうど訓練中だったんだろ?三ヶ月でどんだけ強くなったか、見せてくれよ」


「はい!」


 レオンも反射的に剣を握る。


 だが。


「駄目です」


 その間へルシアンが入った。


「ええ!?」


 レオンが不満そうな声を上げる。


「なんでですか!」


「カイン先輩」


「ん?」


「大会の組み合わせを覚えていますか?」


「俺はグランヴェルだろ?」


「はい」


 そして。


「レオンの相手はアルト先輩です」


「…………」


「大会前にわざわざ他の準決勝進出者と戦う必要はありません」


「別にいいだろ」


「よくありません」


 ルシアンは即答した。


「レオンもです」


「はい……」


「大会まで楽しみに取っておいてください」


「ちぇっ」


 カインがつまらなそうに頭を掻く。


「せっかく来たってのによ」


「ですので」


 ルシアンが続けた。


「私がお相手しましょうか?」


「……あ?」


 カインが止まった。


 レオンたちもルシアンを見る。


「ルシアンが?」


「はい」


 カインは数秒黙った後。


 ニヤリと笑う。


「お前から言うとは珍しいな。前に俺が戦おうって言っても避けてたくせに、どういう風の吹き回しだ?」


「気が変わりました」


「それだけか?」


「それだけです」


「はっ!」


 カインが楽しそうに笑う。


「いいぜ」


「では、決まりですね」


 ルシアンは剣を抜き、レオンを見る。


「レオン」


「ん?」


「しっかり見ていてください」


「俺が?」


「はい。見るのも修行の一環です」


 ルシアンは剣を軽く振る。


「最近は同じような内容の修行が続いていましたから、ちょうどいい機会です」


「……分かった」


 レオンの表情が変わる。


「しっかり見るよ」


「そうしてください」


 カインが首を傾げる。


「なんだ?俺との戦いを教材にでもするつもりか?」


「そのつもりですよ」


「言うじゃねぇか」


 カインが剣を抜いた。


「面白ぇ」


 二人が向かい合う。


 少し離れた場所では、レオンたち。


 そしてアルトが、その戦いを見守っていた。


「始めますよ」


「ああ」


 次の瞬間。


 ダンッ!


 二人が同時に地面を蹴った。


 剣と剣が激突する。


 甲高い音が訓練場へ響いた。


「っ!」


 レオンの目が見開かれる。


 ルシアンの動きに見覚えがあった。


「……俺?」


 構え、踏み込み、剣を振る軌道が普段のルシアンとは違う。


 自分に近い。


「もしかして……」


「真似してるね」


 ノエルも気付いたらしい。


「レオンの戦い方を」


「…………」


 ルシアンがカインの剣を受け流す。


 そのまま身体を捻り。


 横薙ぎ。


 カインが僅かに身体を逸らして回避する。


 そこへ。


「《ライト・アロー》」


 光の矢。


 カインの死角から飛来する。


「おっと!」


 カインが首を傾ける。


 光が頬の横を通過した。


 しかし、既にルシアンが懐へ入り込んでいる。


 剣が振り上げられる。


 カインが受ける。


 ガキンッ!


 直後、先ほど避けたはずの光が弧を描き、背後から戻ってきた。


「!」


 カインが地面を蹴る。


 前方へ飛びながら身体を回転。


 ルシアンへ蹴りを放つ。


 ルシアンが腕で受ける。


 その反動で距離が開いた。


「なるほどなぁ」


 カインが笑う。


「いつものお前と全然違うじゃねぇか」


「そうでしょうね」


「もっと何でもありで戦う奴だと思ってたぜ」


「今日は少し趣向を変えています」


 ルシアンが再び構える。


 その後方、複数の光球が浮かび上がった。


「……ルーチェ」


 レオンが呟く。


 ルシアン自身が剣で前衛を務め。


 独立して動く光魔法が敵を攻撃する。


 普段、レオンがルーチェと行っている戦い方。


 それをルシアンは一人で再現している。


「…………」


 レオンは食い入るように見つめる。


 同じような戦い方。


 だからこそ分かる。


「全然違う……」


 自分とは、あまりにも技術が違う。


 ルシアンが踏み込む。


 カインが迎え撃つ。


 剣がぶつかる。


 一度、二度、三度。


 ルシアンが剣を振るたびに、カインの身体が僅かに動かされる。


 力任せではない。


 受ける位置、角度、重心。全てを計算している。


 そして、カインがルシアンの剣へ意識を向ければ、光が飛ぶ。


 光へ意識を向ければ、剣が来る。


 同時に来ることもあれば、時間差で来ることもある。


「…………!」


 レオンの目が僅かに見開かれる。


「そうか……」


 ルーチェに攻撃させる時、自分は無意識にルーチェへ頼っていた。


 ルーチェが攻撃する。


 それを見てから自分が動く。


 だが、ルシアンは違う。


 自分の攻撃、光の攻撃。


 その二つが、完全に一つの攻撃として組み立てられている。


「すごい……」


 レオンが呟く。


 一方。


「ハハッ!」


 カインは笑っていた。


 右から剣、左から光。


 さらに頭上から三本の光槍。


「いいなぁ!」


 剣を弾く。


 一発目の光を避ける。


 二発目を剣で斬り払う。


 三発目を身体を沈めて躱す。


 そのままルシアンへ突っ込む。


「いつもと違うが――」


 拳が振るわれる。


 ルシアンが剣の腹で受ける。


 轟音。


 地面に亀裂が走った。


「それもいいじゃねぇかぁ!」


 カインが笑う。


「楽しそうですね」


「当たり前だろ!」


 再び剣を振るう。


「強ぇ奴と戦ってんだからよ!」


 ルシアンが受け流す。


「相変わらずですね」


「褒め言葉として受け取っとくぜ!」


「褒めていませんよ」


「知るか!」


 激突。


 二人が離れる。


 そして、再び同時に踏み込んだ。


 剣、拳、蹴り、魔法。


 次々と攻撃が交錯する。


「…………」


 レオンは、一言も喋らなくなっていた。


 瞬きすら惜しむように、ルシアンの足を見る。


 剣を見る。


 光魔法を見る。


 カインの対応を見る。


 自分ならどうする。


 今の攻撃はなぜ当たらなかった。


 なぜルシアンはそこで踏み込んだ。


 なぜ光を今撃った。


 頭の中で、何度も自分へ置き換える。


 そんなレオンを、戦いながらルシアンが一瞬だけ見る。


 そして、僅かに笑った。


 ――それでいい。


 答えを教えるだけでは意味がない。


 見て、考えて、自分のものにする。


 強くなるために必要なのは、それだ。


「余所見かぁ!」


 カインが一気に踏み込む。


「していませんよ」


 ルシアンが剣を振るう。


 同時に、十を超える光がカインを取り囲んだ。


「ハハハッ!」


 それを見ても、カインの笑みは消えない。


「そうこなくちゃなぁ!」


 轟音が響く。


 激しい戦いは、まだしばらく終わりそうになかった。


 そしてレオンは、その一瞬一瞬を逃すまいと真剣な表情で、二人の戦いを見続けていた。


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