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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第390話

第390話


 三日後。


 長らく休校となっていたアーカディア学園が、ついに再開した。


 朝、レオンたちが教室へ入ると、既に多くの生徒が集まっていた。


「おはよう!」


「レオン!」


「久しぶりだな!」


「ああ、久しぶり!」


 三ヶ月ぶりに顔を合わせる者も多い。


 故郷へ帰っていた者。アーカディアに残り、復興を手伝っていた者。各地で修行していた者。


 それぞれが違う三ヶ月を過ごし、再びこの教室へ戻ってきた。


 久しぶりの再会に教室は賑わっている。


 レオンも友人たちと言葉を交わしながら、自分の席へ向かう。


 だが。


「…………」


 ふと足が止まった。


 空いている席がある。


 一つ。いや、三つ。


 そのうちの一つを見て、レオンの表情が僅かに曇った。


「……リオルド」


 邪神教と魔族による襲撃。ドラクスと戦い命を落とした生徒、リオルド。


 彼がこの教室へ戻ってくることは、もうない。


 そして、残る二つの席。


 その席を使っていた生徒たちは、生きている。


 しかし、学園を去ることを選んだ。


 あの日、多くの者が死んだ。


 自分自身も死ぬかもしれないという恐怖を味わった。


 それでも戦い続けるのか。この先も、同じような危険に身を晒すのか。


 答えは人それぞれだ。


 学園を去った二人を責めることなど、誰にもできない。


「……少し、寂しくなったね」


 ノエルが呟く。


「ああ」


 レオンが答える。


 ほんの三席。


 それでも、三ヶ月前まで全員が揃っていた教室を知っているからこそ、その空白は妙に大きく見えた。


「…………」


 ルシアンも空いた席へ視線を向ける。


 その脳裏に浮かぶのは、血塗れのまま建物にもたれかかっていた、リオルドの姿。


 既に光を失っていた瞳。


「ルシアン?」


 フィアナの声。


「……いえ」


 ルシアンは小さく首を振る。


「何でもありません」


 やがて。


 ガラッ。


 教室の扉が開いた。


 騒がしかった教室が少しずつ静かになっていく。


 入ってきたのはレオニードだった。


「全員、席につけ」


 生徒たちがそれぞれ自分の席へ戻る。


 レオニードは教卓の前に立つと、教室を見渡した。


 僅かな沈黙。


「……久しぶりだな」


 短い一言。


「色々と思うところはあるだろう」


 レオニードの視線が、空いた席へ一瞬だけ向く。


「だが、今日から学園は通常通り再開する。休校期間中に何をしていたかは、それぞれ違うだろう」

「修行していた者もいれば、故郷へ帰った者もいる。アーカディアの復興を手伝っていた者もいるだろう」

「その三ヶ月で得たものを、これからの学園生活に活かせ」


 生徒たちが静かに話を聞く。


「さて」


 レオニードが話を切り替える。


「早速だが、今後の予定について話す」


 何人かが姿勢を正した。


「まず一ヶ月後、例年より少し早いが、大規模試験を行う」


「もう?」


 教室のあちこちから声が上がる。


「学園再開して一ヶ月しかないぞ」


「早くない?」


「だから例年より早いと言っただろう」


 レオニードが淡々と返す。


 教室が静かになる。


「昨年の大規模試験では、ダンジョン都市アルディアへ向かった」


 レオンたちにとっても記憶に残っている。


 ダンジョン都市アルディア。


 そこで実際にダンジョンへ潜り、実戦形式の試験を行った。


「だが、今年はダンジョンではない」


 レオニードが続ける。


「今年の大規模試験は――」


 一拍置く。


「ルミナス騎士団で行う」


「ルミナス騎士団?」


「マジかよ」


 教室が再びざわつく。


 ルミナス騎士団。世界でも有数の実力を誇る騎士団。


 その名を知らない者など、この教室にはいない。


「静かにしろ」


 レオニードの一言で再び静まる。


「今回は各個人ごとに、ルミナス騎士団の者たちと行動を共にしてもらう。実際の任務に近い形で行動し、その中で各々の能力を見る」


 テオドールが小さく呟く。


「騎士団の任務か……」


「面白そうじゃん」


 ノエルが笑う。


「今回は昨年よりも少し長めの試験となる予定だ。詳細については後日伝える」

「それまでは通常通り授業を受けろ」


 そこで、レオニードが手元の資料へ目を落とした。


「それと、もう一つ」


 視線を上げる。


「こちらは二年生の終わりについてだ」


 教室の空気が僅かに変わる。


「グランヴェル」


「……なんだ?」


 名前を呼ばれたグランヴェルがレオニードを見る。


「それから、レオン」


「はい?」


 突然名前を呼ばれ、レオンも顔を上げた。


「お前たち二人に、学園側から提案がある」


「俺たちに?」


「ああ」


 レオニードは二人を見る。


「以前行われた武闘大会についてだ」


「…………」


 その言葉に。


 レオンだけでなく、教室にいる多くの者が反応した。


 武闘大会。


 本来ならば、あの日最後まで行われるはずだった。


 しかし、邪神教と魔族によるアーカディア襲撃によって大会は中断。


 準決勝以降の試合は行われないまま終わっていた。


「襲撃の影響で、準決勝以降は中止となっていた。当然、あの状況で大会を続けることなど不可能だったからな」


 誰も何も言わない。


「だが」


 レオニードが続ける。


「学園側で話し合った結果、一つ提案が出た」


 レオンが僅かに身を乗り出す。


「二年生の終わりに武闘大会の続きをやる気はないか?」


「!」


 レオンの目が大きく開く。


 グランヴェルも僅かに眉を上げた。


 教室が一気にざわめく。


「武闘大会の続き!?」


「本当に?」


「じゃあ準決勝から?」


「ああ」


 レオニードが頷く。


「新しく大会を開くわけではない。あの日行われなかった試合だけだ」


 そして。


「既にカインとアルトには話を通してある」


 カイン・ブラッドレイ。


 アルト・セイリオス。


 二人の名前が出る。


「二人からは了承の返事をもらっている」


 レオニードはグランヴェルとレオンを見る。


「残るはお前たち二人だ」


 少し間を置いて。


「どうする?」


「…………」


 レオンは一瞬だけ黙る。


 そして、すぐに笑った。


「やります!」


 迷いはなかった。


「俺、ずっと気になってたんです!」


「そうか」


 レオニードが頷く。


 次に、全員の視線がグランヴェルへ集まる。


「…………」


 グランヴェルは腕を組んだまま、レオンを見る。


 三ヶ月前とは違う。


 一目見ただけでも分かる。


 明らかに強くなっている。


「……フッ」


 グランヴェルの口元が僅かに上がった。


「愚問だな」


 椅子へ背中を預ける。


「俺が断る理由がない」


「では?」


「やる」


 短く言い切る。


「中途半端に終わったままというのも気に入らん」


 その言葉を聞いたレオンが笑う。


「よし!」


「何を喜んでいる」


「だって楽しみだろ!」


「……相変わらずだな、お前は」


 グランヴェルは呆れたように息を吐く。


「決まりだな」


 レオニードが話を戻す。


「詳細な日程については後日伝える。だが、予定としては二年生最後の時期になると思っておけ」


 二年生最後。


 その言葉に、レオンは少しだけ驚いた。


「……もう二年生も終わりか」


 思えば色々なことがあった。


 武闘大会、アーカディア襲撃、聖国リュミエルでの三ヶ月に及ぶ修行。


 そして、一ヶ月後には大規模試験。


 その先には、あの日果たせなかった戦いが待っている。


「アルト先輩と戦えるのか……」


 レオンの口元が自然と上がる。


 アルト・セイリオス。


 自分と同じ準決勝進出者。


 そして、超えていかなければいけない強者。


「楽しみだな」


 小さく呟く。


 その声を、隣にいたルシアンはしっかりと聞いていた。


「随分と嬉しそうですね」


「そりゃそうだろ!」


 レオンが振り返る。


「三ヶ月前より俺も強くなったしな!」


「ええ」


 ルシアンは微笑む。


「楽しみにしていますよ」


「絶対勝つからな!」


「期待しておきます」


 再び始まった学園生活。


 一ヶ月後には大規模試験。


 そして二年生最後には、あの日果たされなかった武闘大会の続き。


 止まっていた時間が、再び動き始めようとしていた。


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