第38話
第38話
王都を出たのは、その日のうちだった。
昼の喧騒を抜け、門を越える。冒険者証の提示だけで通過は容易だった。誰にも止められない。誰にも気づかれない。
振り返らない。
王都はすぐに背後へ消えた。
街道を外れ、人気の少ない道へ入る。フードを深く被り、足を止めずに進む。馬は使わない。速度よりも、痕跡を残さないことを優先する。
(……問題ない)
監視の気配はない。王都を出た時点で切れている。
そのまま数日。
昼は移動、夜は最低限の休息。無駄を削り、ただ北へ進む。
五日目の夜、森の奥で足を止めた。
(……いる)
気配。数は三。
ウルフ。
低い唸りと共に、暗闇の中から現れる。
間合いを詰めてくる。連携はない。だが速度はある。
ルシアンは一歩踏み込む。
一体目を斬る。横から来る2体目は体を捻り、回避しながら首元へ刃を通す。
三体目が飛びかかる。
その瞬間――
(……隠す必要はない)
距離は近い。周囲に人の気配もない。
踏み込みと同時に、触れる。
黒が、静かに噛みつく。
ウルフの体が崩れる。以前と同じ感覚。違いはない。ただ、“より正確に”制御できている。
抵抗は一瞬。
そのまま喰らい尽くす。
(……問題ない)
流れ込む力を確認する。
だが、ルシアンはそこで止まらない。
(……もう一つ)
少し離れた位置。単体のゴブリン。
接近し、背後へ回る。
そして触れる。
今度は、喰らわない。
意識的に“抑える”。
黒が薄く流れる。
ゴブリンの体が震える。
だが、消えない。
(……やはり、吸収の効率が落ちるか)
力だけが削がれていく。
魔力、生命力、その一部。
やがて崩れ落ちる。
死体は残る。
ルシアンはそれを見下ろす。
(捕食した時の半分以下くらいか)
感覚的に理解している。
すでに使っていた差だが、改めて比較すると明確だった。
(だが――こっちの方が自然だ)
痕跡として成立する。
違和感がない。
人目がある場合はこちら。
結論は変わらないが、精度が上がる。
さらに、距離を取る。
手をかざす。
(……届かない)
反応はない。
もう一歩。
届く。
(射程が短い。近距離限定だな)
これも既に理解している範囲だが、確認することで確信に変わる。
ルシアンは小さく息を吐いた。
(使い分けは問題ない)
捕食は高効率で痕跡も残らない。
触れて吸収する場合は効率が落ちるが、死体が残る分、違和感はない。
射程は短い。極近距離でしか成立しない。
空を見上げる。
星が見える静かな夜。
(……まだ遠い)
北は、さらに先。
距離だけではない。
足りないものがある。
それを取りに行く。
視線を落とし、歩き出す。
止まらない。進み続ける。
ただ、それだけだった。




