第386話
第386話
訓練場の中央で、ルシアンと勇者パーティが向かい合う。
レオンが剣を握り、ガイウスが盾を構える。
ノエルの傍らには、風の精霊シルフィと闇の精霊ルナ。
テオドールは既に杖へ魔力を集めている。
その後方では、フィアナが全員を見渡していた。
「準備はいいですか?」
「いつでも!」
レオンが答える。
ルシアンは剣を抜いた。
今回見せる力は前回と同じSS最上位。
それ以上を見せるつもりはない。
「それでは」
剣先を下げる。
「始めましょう」
直後。
「行くぞ!」
最初に飛び出したのはレオンだった。
だが、一人ではない。
「ガイウス!」
「おう!」
ガイウスが前へ出る。
レオンより僅かに早くルシアンへ到達。
盾を前面に押し出した。
ルシアンが剣を振るう。
ガァンッ!
「ぐっ……!」
ガイウスの身体が僅かに後退する。
だが、耐えた。
「いいですね」
「まだだ!」
その陰からレオンが飛び出す。
鋭い斬撃。
ルシアンが受け止めようとした瞬間。
「ルーチェ!」
レオンの呼び声に応じ、光が動いた。
ルーチェは精霊として魔力を収束させ、光の刃を形成し、ルシアンの死角へと滑り込む。
「なるほど」
前からレオン、側面からルーチェ。二方向からの同時攻撃。
ルシアンはレオンの剣を受け流し、その勢いのまま身体を回転させる。
ルーチェの光刃を剣で弾いた。
しかし。
「シルフィ!」
風が吹き荒れる。
シルフィは精霊魔法で風圧を操り、ルシアンの足元の重心を崩す。
その一瞬。
「ルナ!」
影が伸びた。
ルナは闇の魔力で影を実体化させ、死角から刃のように突き出す。
ルシアンが身体を逸らす。
その頬を、影の刃が僅かに掠めた。
「今だ!」
テオドールの声。
既に魔法は完成している。
「《ライトニング・ジャベリン》!」
雷槍が一直線に飛来する。
ルシアンが剣を振るい、雷を切り裂いた。
その瞬間。
「行けぇぇぇっ!」
再びレオン。
剣が迫る。
ルシアンが受け止める。
ガキィンッ!
「っ!」
今度はルシアンの身体が僅かに後ろへ滑った。
「よし!」
レオンが笑う。
「押してるぞ!」
「油断しない!」
ノエルが叫ぶ。
「分かってる!」
レオンとガイウスが再び前へ。
シルフィは風の流れを制御し、二人の加速と軌道修正を補助する。
ルナは影を広げ、ルシアンの死角を常に覆うように展開する。
ルーチェは光の刃を複数生成し、レオンと連携して斬撃を重ねる。
テオドールは味方の動線を避けながら、魔法を時間差で配置していく。
そしてフィアナ。
「《セイクリッド・ブレス》」
淡い光が仲間たちを包む。
身体能力が引き上げられる。
「さらに速くなりましたか」
ルシアンが小さく呟く。
三ヶ月前とは比べものにならない。
単純な実力だけではない。互いの得意分野を理解し、誰かが作った隙を、別の誰かが利用する。一人が崩れそうになれば、別の者が補う。
何より――。
(精霊との連携が大きく伸びていますね)
ノエルとシルフィ、ルナ。そしてレオンとルーチェ。
もはや別々に戦っているとは言えない。
それぞれが一つの戦力として機能している。
「そこ!」
ノエルが短剣を投げる。
ルシアンが首を傾けて避ける。
直後、短剣の影からルナが現れ、闇の刃を振るう。
「おっと」
剣で受け止める。
だが、その瞬間を待っていた。
「レオン!」
「ああ!」
レオンとルーチェが左右から迫る。
正面からはガイウス。
さらに上空にはテオドールの魔法。
四方。
完全に囲まれた。
「もらった!」
轟音。
訓練場を土煙が覆う。
「どうだ!」
レオンが叫ぶ。
やがて煙が晴れていく。
その中央で、ルシアンは立っていた。
傷はない。
しかし、先ほどまでいた位置から、数メートルほど後退している。
「やった!」
ガイウスが拳を握る。
「ルシアンを押したぞ!」
「三ヶ月前とは違うでしょ?」
ノエルも得意げに笑った。
テオドールも僅かに口元を緩める。
「少なくとも、以前の俺たちでは不可能だったな」
フィアナも嬉しそうに仲間たちを見ている。
ルシアンはそんな五人を見渡した。
「ええ」
素直に頷く。
「素晴らしいです」
三ヶ月前とは、まるで違う。
「皆さん、本当に強くなりました」
「だろ!」
レオンが笑う。
「このまま一気に――」
「ですが」
ルシアンの声が重なる。
その瞬間、五人の表情が変わった。
「……まだ終わっていませんよ」
空気が僅かに変化する。
ルシアンが剣を構え直した。
ほんの少し、出力を上げる。
「ここからは、もう少し私も攻めましょう」
「来るぞ!」
ガイウスが盾を構える。
次の瞬間、ルシアンが消えた。
「――っ!」
ガァンッ!
ガイウスの盾へ剣が叩き込まれる。
「ぐぅっ!」
先ほどまでとは重さが違う。
踏ん張った足が地面を削る。
「ガイウス!」
レオンが横から斬りかかる。
ルシアンは剣を返し、その一撃を受け流す。
同時に。
「《フレイム・ランス》」
「なっ!?」
ルシアンの背後に炎槍が出現する。
狙いは――テオドール。
「こっちか!」
テオドールが防御魔法を展開。
炎槍が激突する。
その間にも、ルシアンの剣は止まらない。
レオン、ガイウス、ノエル。
三人の攻撃を剣一本で捌きながら。
「《ライトニング》」
雷撃。
「フィアナ!」
「はい!」
フィアナは結界を強化する。
直撃寸前で雷を防ぐ。
「くっ……!」
ルシアンは一人。
それなのに。
「何だよこれ!」
ガイウスが叫ぶ。
「後ろにも魔法使いがいるみたいじゃねぇか!」
剣による近接戦闘の最中に魔法を構築。
しかも、ただ撃つだけではない。
一つは即座に、一つは時間差で、一つは死角から。
複数の魔法が異なるタイミングで飛んでくる。
「《アース・スパイク》」
ノエルの足元から地面が隆起する。
「っ!」
飛び退く。
その着地点へ、既に魔法陣が浮かんでいた。
「嘘でしょ!?」
風が炸裂する。
シルフィは風の精霊魔法でノエルを強引に押し出し、直撃を回避させる。
その間にルシアンはレオンと剣を交える。
「くそっ!」
レオンが斬る。
ルシアンが捌く。
ルーチェは光の刃を複数展開し、背後から斬撃を重ねる。
ルシアンは振り返らない。
足元から生まれた氷柱がルーチェの進路を塞いだ。
「ルーチェ!」
その隙に剣の柄がレオンの腹へ入る。
「ぐっ!」
レオンが後退。
「レオン!」
ガイウスが前へ出る。
しかし、ルシアンは既にその横を通り抜けていた。
「しまっ――」
狙いは後衛。
「テオドール!」
「分かっている!」
テオドールが杖を向ける。
魔法陣が展開される。
だが、その魔法が完成するより早く。
ルシアンの剣先が、テオドールの喉元で止まった。
「……一人」
静かな声。
「くっ……」
テオドールが悔しそうに顔を歪める。
ルシアンはすぐさま身を翻す。
「まだです」
再び魔法陣が展開される。
前衛へ向けられる剣、後衛へ降り注ぐ魔法、時間差で発動する罠。
それら全てを、たった一人で操っている。
少しずつ、少しずつ、勇者パーティの陣形が崩されていく。
「これが……」
レオンが剣を握り直す。
「ルシアンの戦い方……!」
ルシアンは剣を構えたまま、静かに五人を見渡した。
「まだ終わりではありませんよ」
レオンは歯を食いしばり。
そして――笑った。
「当たり前だ!」
再び剣を構える。
「ここからだ!」
三ヶ月の修行の成果を示す戦いは、まだ続く。




