第384話
第384話
世界の各国への根回しを終えたルシアン。
最後に向かった先は――邪神教本部。
地下深く、陽の光すら届かぬ巨大な円形の祭壇。
そこには六人の幹部が集められていた。
最強の老武人――バルドリック。
革命思想家――セドリオン。
堕ちた聖職者――ロザリウス。
貴族社会の黒幕――レグナルト。
邪神の欠片を研究し続ける老人――ゼルハイド。
そして、魔族を裏切った男――ヴァルクレイン。
彼らの視線は祭壇中央へ集まっていた。
「教主様より召集だ」
「何か動きがあったのだろう」
「邪神の欠片も残り五つだったか」
静かなざわめきが広がる。
やがて、空間が歪んだ。
一人の男が姿を現す。
全身を黒い外套で包み、深く被ったフードが顔を隠している。
「……誰だ?」
レグナルトが眉をひそめる。
「教主様はどうした」
男は何も答えない。
ただ、ゆっくりと右手を掲げる。
その手には、禍々しい黒い結晶。
邪神の欠片が握られていた。
幹部たちの表情が変わる。
「馬鹿な……」
「邪神の欠片だと?」
男は静かに口を開く。
「これで、あと四つですね」
一瞬、空気が凍り付く。
「……何だと?」
「聖国リュミエルに保管されていた欠片は、私が頂きました。これで残る欠片は四つです」
誰も言葉を発せない。
聖国リュミエル、世界最高峰の守りを誇る場所。
そこから邪神の欠片を奪ったというのか。
「邪神の復活も、もう間もなくでしょう」
男は欠片を見つめながら呟く。
「ですが、今の邪神教は、私にとって都合が悪い」
ゆっくりと顔を上げる。
「これからは、私の指示通りに動いていただきます」
その瞬間、祭壇奥から怒声が響いた。
「何を言っている、貴様!」
姿を現したのは邪神教教主。
漆黒の法衣を纏い、禍々しい魔力を放つ男。
「教主たる俺に命令するだと!身の程を知れ!」
ルシアンは静かに教主を見る。
「申し訳ありませんが、あなたは私の計画には邪魔です」
「貴様ァ!」
教主が魔力を解放した。
それと同時にルシアンも、ほんの僅かだけ力を解放する。
――ゴォォォォッ!!
空間そのものが軋んだ。
祭壇が震える。
幹部たちの顔色が一変した。
「なっ……!」
「この魔力は……!」
「あり得ん……!」
次の瞬間、ルシアンの姿が消えた。
「――ッ!?」
教主が反応する間もない。
ルシアンは既に目の前にいた。
右腕が教主の胸を易々と貫いていた。
「ぐっ……!」
血が溢れる。
それでも教主は笑う。
「愚かな。俺の肉体は邪法によって不死だ。その程度では――」
「関係ありません」
ルシアンが静かに呟くと、貫いた腕へ神力が宿る。
教主の身体が光に包まれた。
「な……何だ……これは……!や、やめ――」
断末魔すら最後まで響かない。
教主の身体は粒子となって崩れ、跡形もなく消滅した。
完全なる消滅。蘇ることも許されない絶対の死。
祭壇を静寂が支配した。
ルシアンはゆっくりと振り返る。
「他に意見がある人はいますか?」
沈黙。
しかし。
「……従えるか!」
レグナルトが叫ぶ。
「教主を殺した貴様など――」
最後まで言葉は続かなかった。
ルシアンが指を軽く動かす。
それだけだった。
レグナルトの身体が爆ぜる。悲鳴を上げる暇すらなく、存在そのものが消え去った。
「…………」
再び静寂。
ルシアンは淡々と尋ねる。
「他には?」
その時だった。
老人が静かに笑う。
「ほっほっほ……」
ゼルハイドだった。
「お主、その力……神のものじゃな」
ルシアンは否定しない。
「邪神の欠片を何十年と研究してきた儂には分かる。神の力を、その身に宿しておる」
「ええ」
ルシアンは短く答える。
ゼルハイドは愉快そうに笑った。
「実に興味深い。儂は、お主に従おう」
その一言を皮切りに空気が変わる。
セドリオンは不敵に笑う。
「革命には力が必要だ。面白そうじゃないか」
ロザリウスは青ざめた顔で頭を下げる。
「……従います」
ヴァルクレインも震えながら膝をつく。
「逆らうつもりは……ありません」
そして、バルドリックだけは何も言わなかった。
ただ静かにルシアンを見つめ、ゆっくりと片膝をつく。
それだけで十分だった。
全員が、新たな主を認めたのである。
ルシアンは祭壇を見渡す。
「それではこれより、邪神教は私が率います」
静かな宣言。
その日、邪神教は新たな教主を迎えた。
誰一人として逆らうことのできない。
絶対なる力を持つ教主を。




