第383話
第383話
あの日からルシアンは世界各地を巡っていた。
王国、帝国、共和国、自治都市。大小様々な国家の長へ、自らの足で会いに行った。
世界の均衡、邪神の復活。そして、その先に待つ未来。
誰にも知られてはならない真実を、一人ずつ伝えていく。
ある者は静かに話を聞き、ある者は驚愕し。
そして。
「……信じよう」
迷いなく協力を約束してくれた者もいた。
人々の未来を思い、種族の垣根を越えた世界を願い、ルシアンへ手を差し伸べた王たち。
しかし。
「馬鹿馬鹿しい」
「神の話など信じられるか」
「世界が滅ぶ? 笑わせるな」
最後まで信じようとしない者もいた。
そのような者には、それ以上無理に説得はしない。
「失礼しました」
契約魔法を施すこともなく、話した記憶だけを静かに消させてもらった。
知られてしまえば、それだけで計画に支障を来す可能性がある。
これは必要な処置だった。
さらに。
「戦だ」
「領土を奪え」
「今こそ攻め込む好機だ」
世界の未来よりも、己の欲望と覇権しか見えていない者もいた。
そのような者には、少々、後ろ暗いこともした。
決して誇れることではない。
だが世界を守るためならば、必要悪を担う覚悟は、とうの昔に決めている。
――。
根回しは、ほぼ終わった。
残っているのは、一つだけ。
「……エルフの里」
ルシアンは静かに呟く。
もっとも、急ぐ必要はない。
エルフは人間とは時間の感覚が大きく異なる。
人間にとっての一年など、彼らにとっては僅かな時間でしかない。
「今話しても、一年後に話しても、大差はありませんね」
それならば後回しでいい。
ルシアンは空を見上げる。
根回しを始めてから、既に随分と時間が経っていた。
その間も、リュミエルには分身体を帰してある。
本体が長く留守にしていても、不自然に思われることはない。
レオンたちや教皇にも、ルシアンが長期間姿を消しているとは気付いていないはずだ。
これで準備は整った。
いや、正確には――。
「あと一つ」
ルシアンの瞳が静かに細められる。
「やらなければならないことがあります」
その視線は、遥か彼方。
ある一つの場所を見据えていた。




