第382話
第382話
ルシアンは静かに口を開いた。
「まず、お話ししたいのは、この世界の均衡についてです」
世界の成り立ち、人と魔族が争い続けなければならない理由、善神と悪神が築いた均衡。
そして、その均衡が今まさに崩れようとしていること。
シリウスは一切口を挟まず、最後まで話を聞いていた。
柔らかな笑みは消えていない。
だが、その瞳には王としての鋭さが宿っている。
「……なるほど」
話を聞き終えたシリウスは静かに頷いた。
「さすがに初耳だね。こんな世界の裏側まで知っているとは思わなかったよ」
ルシアンは続ける。
「そして、もう一つ。邪神が復活します」
その一言で空気が張り詰める。
ルシアンは邪神の封印が限界を迎えていること、このままでは世界が滅ぶこと、自身が考えている計画を話した。
静かな沈黙が流れる。
やがてシリウスは、ふっと息を吐いた。
「君は、本気なんだね」
「はい」
迷いのない返答だった。
「私は、この世界を変えます」
シリウスは小さく笑う。
「つまり君は、人も魔族も、種族なんて関係なく笑い合える世界を作りたい」
「そういうことだね?」
「はい」
ルシアンは頷く。
「これからの時代は、種族という垣根が存在しない世界であるべきです。争い続ける世界ではなく、共に歩む世界を作りたい」
その言葉を聞き、シリウスは静かに目を閉じた。
「……いいね」
小さく呟く。
「僕も、そんな世界を見てみたい」
目を開く。
そこにあったのは、一国の王としての真剣な眼差しだった。
「戦争で泣く子どもも、親を失う子どもも、そんなものは少ない方がいいに決まってる」
穏やかな笑みを浮かべながら続ける。
「王になってから、何度も思ったよ。どうして人は争うんだろうってね」
「もちろん、現実はそんなに甘くない。国を守るために剣を取ることもある」
「だけど」
シリウスは真っ直ぐルシアンを見る。
「戦わなくても済む未来があるなら。僕は、そっちを選びたい」
ルシアンは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「まだお礼は早いよ」
シリウスは苦笑する。
「協力するとは言ったけど、君一人に全部押し付ける気はない」
「僕も、この国の王として出来ることはやる」
「それが責任だからね」
ルシアンは小さく微笑んだ。
「心強いです。それと」
ルシアンは右手を上げる。
「この話は、現時点では誰にも知られてはなりません。契約魔法を施させていただきます」
「ああ、話せなくなるやつ?」
シリウスは気軽に笑う。
「いいよ。どうせ軽々しく話す内容でもないし」
ルシアンは魔法陣を展開する。
淡い光がシリウスを包み込み、契約は静かに成立した。
「これで、この件をあなたの意思で他者へ話すことはできません」
「了解」
シリウスは軽く頷いた。
「これで安心ってわけだね」
話は終わった。
ルシアンは静かに立ち上がる。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ああ」
シリウスも立ち上がり、その背中へ声を掛けた。
「一つだけ」
ルシアンが振り返る。
「君とは、前にも一度会ったことがある気がするんだけど」
「気のせいでしょう」
仮面の奥から穏やかな声が返る。
「……そうか」
シリウスは笑った。
「まあ、気のせいならいいや。また縁があったら、その時は正面から遊びに来てよ」
「考えておきます」
ルシアンはそう言い残すと、その姿を闇へ溶け込ませるように消した。
静まり返った部屋。
シリウスは窓の外に広がる夜空を見上げる。
「世界を変える、か」
小さく笑う。
「面白いことを考える人もいるもんだ」
その笑みは穏やかだった。
だが、その瞳には王としての決意が静かに宿っていた。




