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果てなき世界  作者: 影川明空人
第8章 学園2年目 修行編
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第379話

第379話 


 レグナス帝国――。


 大陸最大の軍事国家。


 強大な国力と精強な軍勢を誇り、その覇権は周辺諸国にまで及んでいる。


 その中心に君臨するのが現皇帝、アレクサンダー・レグナス。


 武力と知略、その両方で帝国を繁栄へ導いた歴代最高の皇帝である。


 深夜。


 皇城は静寂に包まれていた。


 巡回する近衛騎士、見張り台の兵士。


 幾重にも張り巡らされた警備網。


 普通の侵入者であれば、城門に近づくことすらできない。


 だが今宵、一つの影がその全てをすり抜ける。


 音もなく、気配もなく。誰一人として存在を認識できないまま、その影は皇城最奥へと辿り着いた。


 皇帝の寝室。


 月明かりだけが差し込む静かな部屋。


 その一角、椅子に腰掛ける一人の人物がいた。


 黒い外套、深く被ったフード、そして素顔を覆い隠す仮面。


 気配は完全に消えている。


 だがその人物は静かに、自らの存在を一人だけへ伝えた。


 寝台で眠っていたアレクサンダーが、ゆっくりと目を開く。


 眠気は一瞬で消え去った。


 長年戦場を生き抜いてきた本能が、異変を察知していた。


 皇帝は慌てることなく身体を起こす。


 そして、椅子へ腰掛ける人物へ視線を向けた。


「ほう」


 低く笑う。


「ここまで誰にも悟られず侵入してきた者は初めてだ」


 静かな声が寝室に響く。


「何者だ?」


 仮面の人物は落ち着いた口調で答えた。


「初めまして、皇帝アレクサンダー。今日は、お話をしに参りました」


「話だと?」


 アレクサンダーは表情一つ変えない。


「こんな真夜中にか?」


「申し訳ありません」


 仮面の奥から穏やかな声が返る。


「私の予定の都合上、この時間しか空いていなかったのです」


「……ふむ」


 アレクサンダーは興味深そうに相手を観察する。


 姿は隠していて、声も落ち着いている。正体は分からない。


 だが。


「貴様……強いな」


 皇帝は口元を僅かに緩めた。


「気配を隠しているようだが、分かるぞ」


 仮面の人物は小さく頷く。


「そうですか」


「面白い」


 アレクサンダーは笑みを深くした。


「何の話かは知らんが、聞いてやろう」


 そう言い終えると同時に、アレクサンダーはゆっくりと立ち上がる。


 そして仮面の人物の正面へと歩み寄り、対面に置かれた椅子へ堂々と腰を下ろした。


 まるで主導権を握るように、背筋を伸ばし、腕を組む。


 その動きに一切の迷いはない。


 この場の支配者は自分であると、無言で示すかのように。


 仮面の人物はその様子を見ても動じず、ただ静かに見つめ返した。


「この状況で、その豪胆さですか。さすがはレグナス帝国皇帝ですね」


「皇帝たるもの、多少のことで動じていては務まらん」


 短く言い切る。


 その態度に虚勢はない。


 ルシアンは小さく笑うと、右手を軽く鳴らした。


 ――パチン。


 澄んだ音が部屋に響く。


 次の瞬間、透明な膜が寝室全体を包み込んだ。


 外界との繋がりが断たれる。


 音も、魔力も、一切漏れない完全な結界。


 アレクサンダーは周囲を見渡し、静かに頷いた。


「見事なものだ」


 仮面の人物は静かに口を開く。


「聞かれたくない話ですので、結界を張らせていただきました」


「なるほど」


 アレクサンダーは背もたれへ身体を預ける。


「それで」


 鋭い眼光が仮面の奥を射抜く。


「何の話だ?」


 静寂が部屋を包み込む。


 世界の未来を左右する交渉が、今まさに始まろうとしていた。


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