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果てなき世界  作者: 影川明空人
第8章 学園2年目 修行編
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第378話

第378話


 霊峰に静寂が満ちる。


 ルシアンの問いに、アシュレイはすぐには答えなかった。


 世界の命運を左右する決断、軽々しく下せるものではない。


 その沈黙を破ったのは――。


『ふはははははっ!!』


 霊峰全体を揺るがすほどの豪快な笑い声だった。


 アシュレイが視線を向ける。


「……何がおかしい」


『いや』


 アジ・ダハーカは愉快そうに目を細めた。


『実に面白い小僧だと思ってな』


 巨竜はゆっくりとアシュレイへ顔を向ける。


『アシュレイよ。この小僧を信じてみてはどうだ』


「……何?」


 予想外の言葉だった。


 何百年という付き合いになるアジ・ダハーカが、他者を推薦するなど初めてのことだった。


『どうせ』


 古竜は静かに続ける。


『このままでは、いずれ均衡は崩れる。あるいは邪神が復活し、世界は終わる』


 その声に迷いはない。


『ならば、どうにかしようと動いている、この小僧に世界を託してみてもよいのではないか』


 アシュレイは黙り込む。


 長い年月をかけても見つからなかった答え。


 その答えを、目の前の青年は持っているという。


 本当に信じていいのか、世界を賭ける価値があるのか。


 しばらく考え込んだ末、アシュレイは静かに口を開いた。


「一つだけ、確かめさせてもらう」


「何でしょうか」


 ルシアンは穏やかに応じる。


 アシュレイはゆっくりと剣を抜いた。


 漆黒の魔剣。


 刀身から溢れる魔力だけで、周囲の空間が震え始める。


「俺の一撃を受けてみろ」


 ルシアンは一瞬だけその剣を見つめた。


 そして静かに頷く。


「構いません」


 その言葉と同時に、ルシアンの手に光が収束する。


 現れたのは剣。


 ただの剣ではない。


 《零環アルス・ノヴァ》が戦闘形態へと変形した、黒鉄の刃だった。


「ただし」


 ルシアンはその場で構えを取る。


 足は一歩も退かない。


 だが、今度は違う。


 真正面から受けるための構え。


「私は避けません。この剣で、受け止めます」


 アシュレイの瞳が細められる。


「後悔するなよ」


 魔力が収束していく。


 大地が震え、雲海が割れ、空間さえ悲鳴を上げる。


 それは魔王アシュレイが放つ、渾身の一撃。


 おそらく、この世界でこの一撃を正面から受け、生き残れる存在はほとんど存在しない。


 ゼルキスですら、無事では済まないだろう。


「――はあああああっ!!」


 轟音と共に魔剣が振り下ろされた。


 世界が白く染まる。


 衝撃波は遥か彼方の雲海まで切り裂いていく。


 だが――その刃は、確かに止まっていた。


 ルシアンの《零環アルス・ノヴァ》が、魔剣を真正面から受け止めている。


 黒鉄の刃と漆黒の魔剣が交差し、空間そのものが軋む。


 火花ではない、異質な輝きが霊峰を満たした。


「……っ」


 アシュレイの腕に、初めて明確な抵抗が伝わる。


 押し切れない、崩れない、受け止められている。


 やがて、土煙が静かに晴れた。


 そこには――。


 剣を構えたまま、一歩も動かぬルシアンの姿があった。


 《零環アルス・ノヴァ》はわずかに軋みながらも、完全に魔剣を受け止めている。


 傷はなく、崩れもない。


 ただ静かに、そこに在る。


「……なっ」


 アシュレイが目を見開く。


「受け止めた……だと?」


 ルシアンはゆっくりと剣を下ろさずに答える。


「はい。問題ありません」


 穏やかな声だけが響く。


 アシュレイは剣を引いた。


 そして苦笑する。


「……参った」


 これほどの差とは思わなかった。


 勝負にすらならない。


 アジ・ダハーカも静かに笑う。


『だから言ったであろう。我らでは及ばぬと』


 アシュレイは深く息を吐く。


 そしてルシアンを真っ直ぐ見据えた。


「お前のことを信じよう」


 その一言に、ルシアンは静かに頭を下げる。


「ありがとうございます」


 その表情には安堵ではなく、決意だけがあった。


「それでは」


 ルシアンは二人を見渡す。


「今後の計画について、お話ししましょう」


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