第375話
第375話
翌朝。
澄み渡る青空の下、ルシアンは聖国リュミエルの正門を後にした。
「お気をつけて!」
門前ではフィアナたちが見送りに来ていた。
レオンたちは今日から本格的な修行が始まる。
ルシアンは穏やかに微笑み、一度だけ振り返る。
「皆さんも、お元気で」
短く別れを告げると、そのまま街道を歩き始めた。
やがて聖都が見えなくなり、人の気配もない森へ入る。
そこでルシアンは足を止めた。
「この辺りなら大丈夫ですね」
その言葉と同時に、前方の空間が僅かに揺らぐ。
黒い外套を羽織り、仮面を付けた男。裏社会で”情報屋レイヴン”として名を馳せる男だった。
「待っていたぞ」
続いて、木々の間から一人の青年が姿を現す。どこにでもいそうな冒険者。その名はルクス。
各地を巡る一流冒険者として活動し、数々の功績を残してきた存在だった。
二人はルシアンの分身体、それぞれが別々の場所で力を蓄えてきた。
今やその実力は、どちらもSSS上位を超える領域へ到達している。
ルシアンは二人を見渡し、静かに口を開く。
「レオンたちの強化も、ようやく目処が立ってきました。そろそろ」
一拍置く。
「本格的に動き始めなければなりません」
レイヴンが腕を組む。
「まずは予定通りか」
「はい」
ルシアンは頷いた。
「最初の目的地は魔族領にいる魔王へ協力を要請します」
ルクスが苦笑する。
「随分と難しい相手を最初に選ぶな」
「ですが」
ルシアンの瞳は揺るがない。
「魔王の協力なくして、この計画は成り立ちません。まずは彼を納得させます」
レイヴンは静かに問い掛ける。
「力を見せる必要があるか」
「ええ」
ルシアンは迷いなく答えた。
「言葉だけでは信じてもらえないでしょう。圧倒的な力を示し、その上で交渉します」
「ならば」
レイヴンは小さく笑う。
「統合だな」
「そうですね」
ルシアンも頷く。
「魔王への協力要請が終われば、次は各国を回ります。基本的に正体は明かしません」
ルクスも納得したように笑う。
「その方が余計な警戒を招かずに済む」
「そうだな」
レイヴンも同意する。
「裏で動く者が表へ出過ぎるべきではない。必要な時だけ姿を見せればいい」
「ありがとうございます」
ルシアンは静かに目を閉じた。
「では」
三人の身体が淡い光に包まれる。
それぞれが歩んできた経験、積み重ねてきた力、磨き上げた技術。全てが一つへと収束していく。
眩い光が森を照らし――。
やがて光が消えた時、そこに立っていたのは一人の青年だけだった。
その身に宿る気配は、先程までとは比べものにならないほど深く、静かで、そして底知れない。
ルシアンはゆっくりと空を見上げる。
「では」
口元に僅かな笑みを浮かべる。
「行きますか」
青年は一歩を踏み出す。
その歩みは、やがて世界そのものを変える旅の始まりだった。




