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果てなき世界  作者: 影川明空人
第8章 学園2年目 修行編
374/375

第373話

第373話


 長い沈黙が流れた。


 ルシアンの言葉を聞き終えたアウグストは、静かに目を閉じる。


 その隣ではラグナルも腕を組み、考え込んでいた。


 部屋に響くのは、時計の針が刻む微かな音だけ。


 やがて、アウグストがゆっくりと目を開いた。


「……分かった」


 その一言に、ルシアンは静かに視線を向ける。


「協力しよう。世界を守るためならば、教会として力を貸す」


 続けてラグナルも口を開く。


「私も異論はない。少なくとも、お前は嘘をついていない。それだけでも、信用するには十分な理由だ」


 ルシアンは静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


 その言葉を受け、ルシアンは右手を前へ差し出す。


 淡い光が掌から溢れ、一枚の魔法陣が宙へ浮かび上がった。


「では、契約を」


 神聖な光が二人の足元へ広がる。


「この場で聞いた内容。そして、これから知る内容を私の許可なく第三者へ話すことはできません」

「無理に話そうとすれば、言葉そのものが発せられなくなります」


 アウグストは頷いた。


「構わない」


 ラグナルも迷いなく答える。


「受けよう」


 契約が成立した瞬間、魔法陣は二人の身体を淡く包み込み、静かに消えていった。


 部屋には再び静寂が訪れる。


「ありがとうございます」


 ルシアンは穏やかに微笑んだ。


「これで安心して動けます」


 アウグストが尋ねる。


「そこまで秘密にする理由は何だ」


「今、少しでもこの話が漏れると」


 ルシアンは真っ直ぐ答えた。


「私が動きにくくなるからです。私はこれから各国を回り、同じように協力を要請しなければなりません」


 アウグストは静かに頷く。


「必要であれば、教会名義の書状も用意しよう」


「ありがとうございます。その間」


 ルシアンは続ける。


「レオンたちの修行をお願いしたいのです」

「勇者であるレオンはもちろん。聖女フィアナ、テオドール、ガイウス、ノエル。誰一人欠けてもなりません」


 アウグストは力強く頷いた。


「分かった。彼らの成長は我々が責任を持とう」


「ありがとうございます」


 目的は果たした。


 ルシアンは一礼し、扉へ向かって歩き始める。


 扉に手を掛けた、その時だった。


「……あと一つ」


 ルシアンが振り返る。


「お願いがあります」


 アウグストが首を傾げる。


「何だ」


 ルシアンは静かな口調で言った。


「時期が来たら、この国で管理している神器――《聖煌杖ルクス・エデン》をフィアナへ渡してください」


 アウグストとラグナルの表情が僅かに変わる。


 教会が保持している神器。


 歴代の聖女ですら、限られた者しか手にすることを許されなかった物だ。


「彼女の力は勇者と共に、絶対に必要になります」


 それだけを告げると、ルシアンは返事を待たなかった。


「失礼します」


 静かに扉を開き、そのまま部屋を後にする。


 閉じられた扉を見つめながら、アウグストは深く息を吐いた。


「……あの青年は、未来を知っているような話し方をするな」


 ラグナルは黙って頷く。


「それでも、一つだけ確かなことがあります」


「何だ」


「今日、彼は最後まで一度も嘘をつきませんでした」


 その事実だけが、重く二人の胸に残っていた。


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