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果てなき世界  作者: 影川明空人
第8章 学園2年目 修行編
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第371話

第371話 


 重苦しい沈黙が部屋を包む。


 結界の内側には、教皇アウグスト、聖騎士団長ラグナル、そしてルシアンの三人だけ。


 誰も口を開かない。


 やがてアウグストが静かに息を吐いた。


「その前に、一つだけ答えてほしい」


 真っ直ぐな視線がルシアンへ向けられる。


「君は何者だ。それを聞かなければ、この先の話を聞くかどうかすら判断できない」


 もっともな問いだった。


 ルシアンは少しだけ考える素振りを見せる。


 本当のことを話すわけにはいかない。


 だが、嘘もつきたくない。


 ラグナルには審判の神カエルディスの加護がある。


 嘘はすぐに見抜かれる。


 だからこそ、真実だけを口にする。


「神から依頼を受けている者」


 短い一言。


 それだけだった。


 アウグストは眉をひそめる。


「……それだけか」


「はい」


 ルシアンは静かに頷く。


「現時点で、お話しできるのはそこまでです」


 ラグナルはルシアンを見つめたまま微動だにしない。


(……嘘ではない)


 カエルディスの加護は反応しない。


 つまり今の言葉はおそらく真実。


 だが、それだけでは何も分からない。


 アウグストはラグナルへ視線を送る。


 ラグナルは小さく頷いた。


 その意味を理解し、アウグストはゆっくりと目を閉じる。


「分かった。聞こう。世界の真実とやらを」


 ルシアンは静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


 そして、その表情から僅かに笑みが消える。


「まず、お伝えしなければならないことがあります。そう遠くない未来、邪神は復活します」


 その一言で、部屋の空気が凍り付いた。


「……何だと」


 ラグナルの声が低く響く。


 アウグストも険しい表情を浮かべる。


「邪神は封印されているはずだ」


「ええ」


 ルシアンは頷く。


「ですが、その封印は破られます。しかも」


 一拍置く。


「復活は、ほぼ確定しています」


 断言だった。


 予想でも推測でもない。


 未来を知っている者の言葉だった。


 アウグストが静かに尋ねる。


「防ぐことはできないのか」


「……できません」


 ルシアンは静かに首を横へ振る。


「何をしても、どれだけ抗っても、邪神は復活します」


 ラグナルの拳が僅かに握られる。


「だからこそ」


 ルシアンは続けた。


「私は勇者レオンを育てています。邪神を討つために」


 アウグストは目を細める。


「勇者を」


「はい」


「彼には、その力があります。ですが、勇者一人では足りません」


 ルシアンは二人を真っ直ぐ見つめた。


「邪神が復活したその時、人間だけでは勝てません。必要なのは」


 一つ一つ、言葉を紡ぐ。


「人間、魔族、エルフ、ドワーフなどの全ての種族です。種族という垣根を越え、世界が一つにならなければ邪神には勝てません」


 静かな声。


 それでいて、一切の迷いはない。


「そのために、私は各国を回ります。各国の王たちにも、同じ話をする予定です」


 アウグストは黙って耳を傾けていた。


「……魔族はどうする」


 当然の疑問だった。


 長きにわたり争い続けてきた相手。


 共闘など、簡単に受け入れるとは思えない。


 ルシアンは静かに答える。


「魔族側については、見込みがあります」


 ラグナルの瞳が僅かに揺れる。


(……真実)


 加護は反応しない。


 つまり、ルシアンは嘘をついていない。


「私が責任を持って動きます。必ず協力体制を築いてみせます」


 その言葉にも、偽りはなかった。


 アウグストとラグナルは互いに視線を交わす。


 目の前の青年は終始、一度も嘘をついていない。


 だからこそ、その話はあまりにも重く、信じ難いものだった。


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